第66話 自信



 side:レンゲ


「お二人共まだいらっしゃいましたか。丁度いいですね。ナルミさん、マスターが呼んでおられますので来て貰えますか?」

「え、またですか?暇なのでいいですが……」


 サーナと話していると、私達を見つけたギルドの受付嬢が話しかけてきた。


 ナルミはチラッとサーナを見てどうしようかと考えていたので私も少し考えて提案する事にした。


「あ、御友人と一緒でしたか。もし忙しいのであれはまたの機会に……」

「……私がサーナと待ってる」

「良いのか?」

「え、そんな!私はこれで帰りますので、レンゲさんの手間を掛けさせる訳には……」

「……大丈夫。サーナとちょっと話したい事があった」


 サーナの言葉を遮りつつ、ナルミの目を見ながら私はそう言った。


「ん〜、わかった。レンゲがそうしたいならそうすればいい。サーナも良いか?」

「は、はい!レンゲさんが話したいと言うなら私も話したいです〜!」


 どうやら私がサーナと話したいという気持ちが本気だと分かったようで、ナルミはサーナにも確認を取った。


「ナルミさんだけでいいのですね?では、来てください」

「了解です。あ、レンゲ達はここで話すのか?もし外に出るなら待ち合わせ場所決めとくか?」

「……ん、そうしよう」

「ではでは!待ち合わせで有名なこの街の創始者の銅像の場所にしませんか〜?」

「お、いいな。じゃ、そこで待ち合わせな」


 そういうとナルミは受付嬢の後ろに着いて行き受付の奥の方に消えいった。


「……じゃ、出よう」

「あっ、はい〜!」


 私達はそれから無言で大通りを歩く。ここに来た時より数倍に増えた人の群れも慣れればあまり気にならなくなっていた。


 ……まぁ、それでも認識阻害付きの魔法道具は手放せないが。


「あの〜、レンゲさん?お話ってのは〜……」

「……ん、そうだった」


 ナルミが居らず外を歩くのは何ヶ月ぶりだろうか。


 少しの期待と少しの寂しさを覚えつつ、サーナもと話したかった事を思い出す。


「……サーナはあの魔術、誰に習った?」

「あ、障壁魔法ですか?」

「……ん」


 私はその魔術は使えない。けど、それなりに魔術を使う者としてサーナの魔術は光るもの感じた。


 それは間違いなく、天才的な才能の光。


 ……私には無い、光。


「そうですね〜。私の周りで魔術を使える人は居なかったので、村に残る秘伝書?みたいなのを読んで学びましたねぇ」

「……それだけ?」

「そうですね〜。それに家族以外には見せられないですし、爺やに見守られながら小さな川をせき止めたりして遊んでましたね〜」


 サーナは少し上の空になりながら着いてくる。

 きっと子供の頃のことを思い出しているのだろう。


 ナルミは私の剣術や魔術をレンゲは凄い、天才だと褒めてくれる。それは今の私にとって何よりも嬉しかった。


 だけど、ナルミに褒められる度に私は自分の才能の無さを感じた。


 所詮、私は秀才止まり。

 ナルミの特殊な力やサーナの様な天才的な才能に勝る才能は私には無いのだ。


 今はまだ種族によるステータス差と剣術のお陰で役にはたっている。

 けれど、今もまだ強くなり続けているナルミの能力を考えると、いつかは私は無用になる。


 最後にナルミの隣に立っている人は私ではなく、サーナか、もしくは別の誰かな気がして。


 それが怖くて、怖くて。そんな事を考えてしまう自分が情けなくて。


「……」

「……私には、レンゲさんが今何を考えているのかはわかりませ」

「……」

「けれど、もっと自信を持っていいんじゃないですか?」

「……自信?」


 サーナは少し猫背になり、自分の後頭部を掻きながらふへへと笑う。


「まぁ、自分に自信が無い私が言うのもなんですけどね〜。レンゲさんはなんで顔を隠そうとするんですか?」

「……それは」


 人の視線が怖いから。そう言おうするが、サーナの眼を見た瞬間口を閉じできまう。


 サーナの眼は、どこか慈愛に満ちた眼をしていた。


「レンゲさんはとっっても可愛いです!」

「……え?」

「あれ〜?ナルミさんからとか言われませんか?レンゲさんは顔のパーツのすべでが整っていて、美人系かと思いきや、どことなく幼さがあってとっても可愛いんですよ!顔を隠すなんて勿体ない!」

「……えぇ」


 突然の容姿のベタ褒めに照れより困惑が勝つ。突然何を言い出すのだろうか。


「……ナルミさんにもっと可愛い女の子って、思って欲しくありませんか?もっと好きになって、欲しくありませんか?」

「……!?」


 ナルミが私の事を好きになる……。なんて甘美なる響きなのだろうか。


 もし、もしナルミがあの時に抵抗しなければ……!


 ……はっ!?ダメだ、サーナの話術に引っかかるところだった。危ない危ない。


「……何が言いたい」

「んふふ〜、こっち来てください!」

「……?!」


 突然サーナに手を引かれ、抵抗する意味もないのでそのまま着いて行くと目的地は服屋だった。


「ささっ、入って入って〜♪ここは私が行きつけのお店なんですよ〜。センスさ〜ん!」

「は〜い?あら、サーナちゃんじゃない。どうしたの〜?その子はもしかして妹?」


 すると奥から少し背の高く、派手な服を着た女性が出てくる。


「……妹では無い」

「んふふ〜、妹だったら嬉しいんですけどね〜!センスさんには私のお友達をコーディネートして欲しいんですよ〜!」

「成程、お友達かぁ。ふふ、良いわよ!私も今、少し暇してたのよ」

「……わ、私は別に」

「ほらほら〜!遠慮しないでいいんですよ〜?」

「そうよ。ほら、こっちにおいで!」

「……あぁ……」


 私は服を脱がそうとしてくる二人に何とか遠慮の言葉を出すが、そんな抵抗も虚しく服を取られて色んな服を着せ替えさせられた。



「ふ〜、久しぶりにいい仕事したわぁ!」

「いいですね〜!レンゲさん、可愛いですよ〜!」


 一時間後。遂に二人の私を使った着せ替えは終わり、化粧までされていた。


「ほら、こっちに鏡があるから、自分の姿を見て見なさい?」

「……わ、わかった」


 私は下を向いて自分の来た服のフリフリなどを見て不安を覚えつつ、鏡の前まで歩いて自分の姿を見た。


「!?……これが私?」

「そうですよ〜!やっぱりレンゲさんはとっても可愛いです!羨ましいですね〜」

「あら、サーナちゃんもとっても可愛いわよ?それはそうと、レンゲちゃんは確かに素体がとっても良くて、その銀髪と合ったかわいい服を着せれば最高よぉ!」


 センスと呼ばれた女性の言う通り、銀髪に合った黒と白を主に使用したデザインのワンピースで、所々白黒のフリフリを付けたどこかのドレス……かのように見せて、胸元はどこかの白い制服のように見え、目の色と同じ赤いリボンが付けられていた。


 ついでに黒い靴下と靴を履いている。


「セーラーワンピースと呼ばれる海外から輸入してきた服よ!良くもまぁこんな服を思いつくわよねぇ」

「ふむふむ!いいですねぇこの服!いつか私も欲しい!」


 私は少しの動きずらさも感じつつ、ナルミの事を考えた。ナルミこの姿の私を見て喜んでくれるだろうか?


「レンゲさん。私は結局の所、皆さんのように血の滲む様な努力なん一度もした事の無い、唯の箱入り娘なんですよ〜」

「……」

「レンゲさんの手。私の柔らかい手とは違って硬い。それは頑張った証拠ですよね〜?」

「……サーナもここだけ硬い」

「あはは〜、ペンだこですね。だけど、ほんの一部です」


 サーナは私の手を取り、感触を確かめるように擦ったりにぎにぎした。


「レンゲさんは、私には真似出来ないぐらいの頑張り屋さんで才能を持ってるはずです。そんなレンゲさんならきっと、本当に欲しいものが手に入るはずです〜」


 サーナの眼には嘘偽りは無く、私の事を知り尽くしたかのように慈愛に満ちた顔で私を諭した。


 私にはきっと余裕が無かった。常に強くなろうと失っけた結果、きっとナルミにも迷惑を掛け、こうやってサーナに諭される。これでは本当な私がサーナの妹のようではないか。


「……ありがとう」

「いえいえ、私は思ったことを言っただけです〜」

「……でも、ちょっと生意気」

「えぇ?!そこはもうちょっと感謝の念をですね〜」

「ふふ、女の友情はいい物ねぇ」


 サーナは私に抱きついて来る。振り払う事もできたが、私は何となくその頭を撫でるのであった。



 ♦♦♦♦♦


 『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿しています!ぜひ読んでみてください!





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る