第67話 予感


 俺はギルドマスターに呼ばれ、冒険者ギルドの奥にある客室のような場所の中でイスに座っていた。


「おう、よく来てくれたな。最近勝手に呼び出してばかりで悪いな」

「いえ、今日は暇だったので大丈夫ですが……今回の要件は?」


 案内された部屋で少し待っていると、ギルドマスターが部屋に入ってくる。

 ギルドマスターは俺と低めの机を挟んた向かいの椅子に座った。


 今までにここに呼ばれた理由は、最初の事実確認から魔物の出現状況、最終確認と決定報告、買取価格だった。


 これ以上話すことは無いのでは?と、思ったか心なしかギルドマスターの様子が今まで以上に真剣な様子だったので少し気を引き締め直す。


「ああ、実はついさっきお前達が戦った場所の調査報告が上がったんだが、それがどうもお前達の話と合致しないところがいくらかあってな」

「えっ!?そんな!俺達はちゃんと事実を……」

「まてまて、何もお前達が嘘をついてるとは思ってない」


 ギルドマスターは持っていた資料を机に広げながらそう言った。多分、調査報告書だろう。


 俺はギルドマスターの言葉を聞いて少し深呼吸する事で動揺を落ち着かせる。

 もしかしたらただ俺達の報告ミスかもしれない。そう思いギルドマスターの言葉に耳を傾ける。


「お前達が青灰眼ブルーグレーウルフと戦ったという場所はお前らが言った場所にちゃんとあった。嬢ちゃんの魔力や戦闘痕、青灰眼の毛等の痕跡も見つかった」

「な、なら何が合致しなかったんですか?」


 そこまでわかっているなら青灰眼と戦ったという事実は確証されただろう。

 ならば何が違うというのだろうか。


「お前らは青灰眼との戦闘後、周りに居たグレーウルフは威圧で追い払ったって言ったよな?」

「えぇ、あれ以上は戦う体力もなかったので。それが何か?」

「ああ。探索隊によると、その場所に大量のグレーウルフの死骸が発見された」

「なっ!?」


 そんなはずがなかった。確かにあの場所で数匹はウルフを倒したが、どうしても面倒くさかったので解体せず全部アイテムボックスに入れたはずだ。


 例え取り逃しがあったとしても、大量と表現される量を取り逃すわけがなかった。


「しかもだ、お前達は二人とも剣を使っている筈なのに殆どのグレーウルフは撲殺。しかも詳しく調べるととてつもない威力で殴打されて絶命していたらしい」

「撲殺……。因みに、そのグレーウルフの数ってどれくらいですか」

「お前達が戦っていたと思われる場所の半分を覆うレベルだ。あの量を殺していたのにも関わらず申告しないのはさすがに変だと思って聞いたが……どうやら心当たりが無いようだな」

「えぇ……俺達が倒したグレーウルフ達は全て運んだはずです。しかも、そんな調べればすぐわかる嘘を着くはずがありません」

「だよなぁ」


 そんなことは有り得ない。しかも強烈な殴打による撲殺?レンゲならできなくも無いかもしれないが、刀を持つレンゲが態々する訳がない。


「まぁ、そもそも青灰眼がこんな森の浅い場所で出てくること自体が異常なんだ。そこに更に異常が重なってもおかしくは無い」


 ギルドマスターがそう言うが、嫌な予感をひしひしと感じる。確実に何か異常な事が起こっているのを感じた。

 もしかしたら、ギルドマスターもそれを感じたからこそここに俺を呼んだのかもしれない。


「お前を読んだ理由はこの報告と合致しない部分の確認と、お前達にちょっとした忠告をする為だ」

「……忠告ですか?」


 怒っている様子は見られない。ならば嘘の報告をするなとか、そんな感じではないようだ。


「お前達からすれば迷惑でしかないだろうが、お前達はもう異常事態の関係者だ。特にこういう生死に直接関わる仕事をしてると余計に実感するだろうな」

「と言いますと?」

「多分だが、青灰眼以上の何かがこの街の近くに居る」

「……やっぱりですか」


 この話を聞きはじめて薄々考えていたことだった。


 青灰眼が森の浅い位置にいた理由。

 それは通常のグレーウルフが突然変異した可能性もあるが、それよりも高い理由として通常ブルーグレーウルフが生息する位置が住めなくなりやって来た。

 つまり、より強い生物が森の奥深くにやって来たと考えられる。


 そして、その生物もこの近くにやって来ているという事だ。


「青灰眼以上の存在が青灰眼が死んだ事に対して怒りを感じ、八つ当たりでグレーウルフを皆殺しにした。……上位の魔物は知能を有するものも多い。絶対に有り得ない話ではない」

「何故そんな存在がここに?」

「わからん。だが……」


 ギルドマスターはもう一枚新たな資料を取り出して俺の前に出す。

 その資料には個人情報は伏せられているが、一つだけわかりやすく大きく書かれている文字を見る。


「Sランク冒険者……」

「あぁ、彼女が態々この場所に来た理由。誰かに命じられたか、この異常事態に運命的に導かれたか、それとも偶然か。それはまさに神のみぞ知る事だろうが、絶対に何かある」

「確かに、Sランク冒険者レベルなら美魔身祭に参加しに来たって理由より、何か異変を感じて何となく来たって方が信憑性あるかもですね」

「だろ?」


 それぐらい、Sランクとは規格外な存在なのだ。


 俺達は少し苦笑いをした後、話は終わったのでそろそろ帰らせてもらうことにした。


「じゃあ気をつけてな。俺の勘では、ここ数日内に……」

「で、では帰りますね!お疲れ様でした!」

「おう、おつかれさん」


 俺はギルドマスターの本気なのか冗談なのか分からない嫌な言葉を聞く前に急いで部屋から出る。


 さっさとギルドからも出て、レンゲ達が居る待ち合わせ場所に急ぐ。


「え〜と、確か銅像はここら辺……あ、あったあった。レンゲ達は……お、居た!遅くなってご……めん……」


 待ち合わせ場所にたどり着き、気配感知も使いつつレンゲより背の高いサーナを見つけ近寄る。


 そして……見事に着飾ったレンゲを見て固まるのであった。




 ♦♦♦♦♦


 『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿しています!ぜひ読んでみてください!





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る