第54話 報告


 俺たちは三十分ほど列に並んだ。


 周りで騒ぐ人の姿はかっこいい姿の人もいれば奇天烈な格好の人、何処かの民族衣装のような服装の人など。

 見てて飽きない人だかりと、人だかりにサーナの推しを見つけるとサーナのマシンガントークで意外と時間は早く過ぎていった。


「そろそろ俺たちの順番だな。いい場所のチケット買えるかな~」

「……前の方がいい」

「ムムムッ!?店員さんの顔……私の経験が言ってます。まさか……」

「「??」」


 いきなりブツブツ言いだしたサーナにどうしたのかと思っていると、前に並んでいた人が去っていった。


「お、やっと買え……」

「みなさーん!残念なお知らせがございますー!」

「「「「「!?」」」」


 俺たちを含め、周りの人はさっきまでチケット販売をしていた店員さんを見る。

 口元に近づけている魔法道具は音を大きくする魔法道具なのだろうか、広範囲に店員さんの声が響いた。


「申し訳ございませんが、一般お一人用チケットは売り切れました!」

「そ、そんな!」

「嘘だろ!?まだ一週間もあるんだぞ!?」

「ちなみに家族用とVIP用は残ってます!」

「家族?!おい誰か、俺と結婚してくれ!」

「はぁ?!お前昨日ぜってえ結婚なんてしねえとか言ってたじゃねえか!」

「VIP料金とか払えねえよ……」

「いや待て、一万ユル程度なら……」

「おい、早まるな!」


 周りの観光客、特に列に並んでた人たちが騒ぎ出す。正直俺たちも目の前で売り切れてめちゃくちゃショックだった。


「……残念。時間の無駄だった」

「流石にショックだなぁ」

「……あああ、そんなあぁぁl」


 一番興味のなさそうだったレンゲはすぐ切り替えたが、一番祭りに興味があった、興味しかなかったサーナは絶望したように膝をついて項垂れた。


「ううう……こんなの、こんなの爺やのせいだ……。言うからこんなことになったんだ……」

「……ん?あんなこと?」

「はっ!!そうだ!」


 サーナのつぶやきにレンゲが反応したが、突然弾かれたかのように立ち上がる。


「れれれれ、レンゲさんが子供役をやって私とナルミさんで親役をやればワンチャン家族チケットを……あばばばば!?」

「……子供じゃない。そして無理がある」

「流石に全員別種族だとねえ。しかも受付の前で言う事じゃないよね」


 受付を見ると店員は苦笑いをしていた。


 俺たちは丸焦げになったサーナを(レンゲが引きずって)運び、人だかりを抜け出した。





「ううう、そんなぁ……」

「まぁまぁ、ショックなのはわかるけどそろそろ立ち直りな。ほら、これ食べな」

「……(モグモグ)」


 俺達は広場で空いていたベンチに座り、少し休憩していた。


 俺はサーナの背中を擦りながらさっき屋台で買った『美魔身祭なんちゃら串焼き』を渡す。

 因みにレンゲは無言で串焼きを食べていた。


「うう、ありがとうございます。お代は……」

「これぐらい別にいいさ」

「……ん、普通に美味しい」

「お、気に入ったみたいだな。俺も食べよっと」


 このなんちゃら串焼きは肉と野菜を交互に串に刺して焼いた物にタレをかけた物だった。


 野菜の甘みと肉の旨みがタレに合ってすごく美味しい。なんでこんなに美味しいのにお客さんがあんなに居なかったのか。


「そうですね……落ち込んでてもしょうがありません。それにまだ希望はありますから」

「……ん?希望?」

「ええ!あと二日になると家族用席のあまりの部分ががお一人用に解放されます!その時にまた並べばいいんです!今度は今日みたいに寝坊しません!」

「ん?寝坊したのか?」

「ええ……、本当は朝の六時には並ぶ予定でした……」

「そ、それは寝坊だな」


 因みに今ちょうど昼頃、つまり起きたのが一時間前だとしても約五時間は寝坊している。


「自分の睡眠の深さと今年の美魔身祭の注目度を舐めてました……うう、いつも通りの時間に寝ていれば間に合ったかも……」

「ま、まぁ興奮して寝られなかったりするのは分かるよ」


 俺も前世で学校の行事が楽しみ過ぎて寝れなかった時があった。因みにオタク気質はあったが朝っぱらから店に並ぶような事はしたことは……数回しかない。


「……なんでそこまで好きなの?」

「祭りがですか?そうですねぇ、これには深〜い訳が……」

「長くなるならいい」

「あっ、待ってくださいぃ!そ、そうですね!簡単に言うなら数年前に初めて見た美魔身祭で参加者さん達が熱意を!技術を!想いを!夢を感じたんです!」

「……想い、夢」

「そうです!私は今まで何かする訳でもなくいつも家の中にいました。そんな私に『美』を、『極み』を教えてくれました!」


 サーナは昔見た景色を思い出しているのだろうか、目を煌めかせて話す。


「いつかは私も美魔身祭に参加したい!そんな夢を抱き始めた時から私はお祭り大好き少女になってましたね〜」

「叶うといいな」

「はい!」

「……」


 また考え事をし始めたレンゲを横目に、俺はサーナの夢を応援するのだった。




 ♦♦♦♦♦


 新作『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿し始めました!ぜひ読んでみてください!








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