第55話 密集


「じゃあここでお別れですね……。チケットが買えなかったのか悲しいですけど、待ってる時間は楽しかったです!」

「ああ、お互い祭りを見れたら良いな」

「……またね」


 サーナが立ち直ったので、俺達はここで解散することになった。

 もう少し一緒に行動しても良かったが、どうやらサーナには用事があるようだ。


 人混みに消えていったサーナを見た後、俺達も歩き始める。


 それにしてもあの犬耳としっぽ、触りたかったなぁ。

 会話中、サーナの耳としっぽばかり見てしまったが、バレてないといいが。


 そんな事を考えながら俺は行き先を決める。


「そろそろ報酬受け取れるかもしれないし、ついでに依頼も見たいからギルドに行っていいか?」

「……ん、私はどこでも」


 レンゲに許可をとってギルドに向かう。

 体感で大体今の時間は四時ぐらいだった。


「……ナルミ」

「ん?」

「……耳やしっぽは想像以上に獣人にとって大切な器官」

「ウィッス」


 どうやらバレバレだったようだ。





 冒険者ギルドに行くと、そこに居た人の人数は確実にフレデリカ街の三倍、いや五倍ほど人が居た。


「……色々キツい」

「ですなぁ」


 レンゲ的にはその人の数が、俺的には人が密集して息苦しくてキツかった。


 ギルドハウス自体の大きさもフレデリカ街の二倍はあるがそれでも溢れそうなぐらい人が集まっていた。


 俺達はどうにか人をかき分けて何とか受付の列に並ぶ。

 あれ?受付はあんまり混んでない。じゃあなんなんだこの人の密集ぐわい……。


 数分待っていると俺達の番になる。


「お待たせしました。ご要件はなんでしょう」

「依頼の達成報酬を受け取りに来ました」

「了解しました。冒険者カードをお願いします」


 俺は事前に受け取っていたレンゲのカードと俺のカードを渡す。

 受付嬢さんはこの状況に慣れているのか、後ろの人混みに全く触れずにサクサクと受付の仕事をこなす。


「はい、馬車の護衛の依頼ですね。報酬の1200ユル。それと追加報酬として3000ユルですね。どうぞ」

「追加報酬……ああ、盗賊達か」

「はい、どうやら一人賞金首が居たようです」


 間違いないく最後の大男だろう。

 依頼報酬より追加報酬の方が多くなっているのに少し微妙に思いつつ、報酬の多さにランクの上昇を感じた。


「……この人だかりは?」

「彼等は皆、何時もは冒険者として活動している有名な『美魔身祭』出場者をまじかで一目見ようと集まった人ですね」

「ああ、そう言えば去年のランキング上位の人達が冒険者だって聞きましたね」

「ええ、そして聞いたことあると思いますが、今年の『美魔身祭』の注目度を上げているトップレベルの理由として『Sランク冒険者の参加』があります」


 なるほど、冒険者であればここに来る手段として俺たちと一緒の馬車の護衛の依頼を受けてくると、そうでなくても冒険者なら冒険者ギルドが会える可能性が一番高いと踏んで集まったわけか。


 俺もSランク冒険者に関しては興味があった。

 これでも女神様から魔王討伐を依頼されてる身。いつか俺はそこを込めなければならないので、冒険者における最強の位置に立つ存在を知っておいて損は無いだろう。


「なるほど、気持ちは分からないでもないけど、ここまで集まると迷惑だなぁ」

「はい、注意しても一瞬少なくなるんですが気がつくと元に戻ってるんです。マスターも注意してましたが諦めてました」


 ギルドマスターがどんな見た目かは知らないが、マスターである以上Sランクに近い強さを持ってるに違いない。その人の注意をほぼ無視するとはなかなかの根気だなぁ。


「依頼は受けますか?」

「いや、今日は依頼は受けずに帰ります」

「了解しました。お疲れ様でした」


 俺達は受付嬢さんに小さい会釈を返してギルドから出る。人混みで建物から出るのさえ一苦労だった。


「Sランクかぁ。どれだけ強いんだろうなぁ」

「……剣を見てみたい」

「おお、剣士っぽくていいねぇ」


 噂のSランク冒険者を妄想しながら歩くのであった。



♦♦♦♦♦



 一方その頃……


「ふう、やっと着いたか。ファーナント街。流石に馬車で一週間を休み無しで一日で走り切るのは疲れるな」


 ここは街の近くにある大きな森の奥深く。

 そこには鎧の部分は白色、布の部分は黒色の鎧を着た一人の女性が居た。

 その長い髪の色は黒色で目は翡翠色。腰には立派な片手剣を備えていた。


「ここからはあまり人に騒がれないように大人しく行くかな。この前の失態は犯さない」


 彼女は少し遠い目をした後、すぐに気を取り直して静かな森の中を普通に歩き始めた。


 もしここに高ランク冒険者やベテラン冒険者が居たならその違和感に気づいただろう。


 街の外の森。しかもその奥深く。そこは確実に強い魔物が沢山いる場所だ。

 なのに今この森は静かで、物音一つしない。まるで近くの魔物が何かを感じて逃げ去ったかのような森に。


 そしてベテランですら歩くのが難しいような森の中を普通に歩く彼女に。


「……Sランク冒険者の癖に徒歩ってもしかして変か?」




 これまた一方その頃……


「さーて、着いたなこの街。名前なんてったっけ?」

「ファーナント街です」

「あーそれそれ。ま、どうでもいいけど」


 彼は街を

 その目からやる気というものはほとんど感じられなかった。


「うわ〜、キモイぐらい人が集まってる。さっさとあそこに魔術撃って終わりにしない?」

「まぁ、それもいいですがもし防がれた場合、めんどくさいことになります。それでもいいですか?」

「それは困る。なら辞めとこう」

「……はぁ」


 男はごろんと転がる。そんな彼を見て執事のような男はため息をつく。


「私が手に入れた情報によると、約一週間後ここでは大きな祭りが行われるようで、街の守りが確実に薄くなるようです」

「へ〜ん。守りの薄さとか俺たちなら関係なくね?」

「確かにそうですが、それだけでなく一箇所に戦力が集まるようです」

「戦力〜?」


 彼は戦力と言われてもピンとこなかったが少し興味を持つ。


「ええ、どうやらSランクもいるようです」

「へぇ……ちょっと興味湧いてきた」

「それは良かったです」


 彼は体を起こして街を見る。その様子はまるで玩具を品定めしているようだった。




 こうして、少しずつ大きな力が誰も知らぬところで動き始める。


 これが始まりなのか、終わりなのか。まだ誰も分からない。





 ♦♦♦♦♦


 新作『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿し始めました!ぜひ読んでみてください!




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