第53話 推し


「おお、予想はしてたけどとんでもない人の量だな!」

「……ん、気持ち悪いぐらい」

「まあ、否定はしない」


 基本的に人が苦手なレンゲからしたらこの人混みは気持ち悪いかもしれない。

 祭りが始まったらどうなる事やら。


「すいません、すいません。通ります」

「……邪魔」


 レンゲは俺から離れないように俺の左腕に掻き付く。

 俺はレンゲが人にできるだけ当たらないようにしながら人の波をかき分ける。


「ふう、着いた」

「……ここは?」

「ここは受付……に行くための列だな。参加する気は無いけど会場に入るにはここでチケットを買わなきゃならないんだ」

「……成程」

「まあ、もう売り切れてるかもしれないけど」


 俺たちは何時までかかるか分からない列に並ぶ。確かお祭り会場に入るためのチケットは二十七種類あり、基本が一人一枚限定で三日間中の一日の前半後半で十二種種で一枚100ユル、つまり日本円で千円。三種は所謂VIP用で一万ユル、つまり日本円で十万円だ。そして残りは時間は先程言った奴と一緒だが、家族用としての少し割引されたチケットがあった。


 いや祭りなのに金取るのかよ!と思うかもしれないが金取っても誰も文句言わないぐらい人気だし、チケット販売で人数を制限しないと人が会場にはいりきらないのだ。


 俺は左腕に感じる感触をできる限り無視しながら人だかりを見る。


 そのには明らかに強そうな冒険者もいれば見た事ない種族の人、個性的な服装の人もいた。


 何となく人間観察をしていると周りが今までと違う意味でざわめき始める。


「おい、あの人達を見ろよ!もしかして『閃光の道化師』じゃねぇか?」

「おお、ホントだ!」

「あっちも見てみろ!あの人達は『森園りんえんの精霊』だ!すげぇ!」

「オイオイ待て待て!あそこにいるのは『疾風の剣劇団けんげきだん』じゃないか?!」

「おおお!とんでもないな!」


 周りから情報がどんどん入ってくる。

 彼等は普段は冒険者としての活動しているが、この祭りに常連で参加しては毎回その演出の凄さに大人気のパーティだ。


「……『健康のお菓子』『離縁の精霊』『湿布の原液団』?って何?」

「とんでもない聞き間違いだな……。『閃光の道化師』『森園の精霊』『疾風の剣劇団』な。彼等は去年の美魔身祭ので優秀な成績を残した三組だな。三組とも優勝は逃したものの凄い演出だったらしい」

「……へぇ」

「レンゲはあの中で一番気になる人は居る?」

「……ん〜、剣を使いそうな三番目」

「それはお目が高いですね!!!」

「「?!?!」」


 何となくレンゲと暇を潰すために会話をしようとすると突然後ろから大きな声で会話に割り込まれる。


「いいですか?『疾風の剣劇団』はその名前通り剣を主に使った演出をします!勿論、美魔身祭は魔術やスキル込みの演出を披露するお祭りなので剣以外も使いますが、その使う魔術もなんと剣の形をしているのです!彼等の動きに合わせた魔力でできた剣が彼等の剣と体の隙間を通る時は一瞬本当に斬られてしまうかと思うほどギリギリで、ヒヤヒヤしますがその分彼らの息のあった連携は観客全員を魅了します!そして、彼等が使う剣術による剣舞は他の参加者よりずば抜けてに美しく、洗練されていると専門家からも定評があり、その剣術は実践においてもその動きは乱れることはなく魔物を倒す姿は芸術的とすら噂されています!その他にも……」

「待って待って待って」


 突如として後から現れた少女がいきなりマシンガントークを披露する。


 俺達は突然のことに呆気に取られたが放っておいたら何時までも喋り続けそうな少女を何とか止める。

 よく見ると少女には犬耳と尻尾のようなものが生えていた。


「っは!?す、すいません!すいません!つい目の前で推しの話をされると会話に入って話してしまうんです!何時もは我慢できるんですが今日は遂気分が舞い上がってて我慢出来ませんでした……。すいません……」

「あ、いや、別にいいんだが……」


 しゅん……と、落ち込んだ様子の少女になんだかこちらが悪いことをしたような気分になってしまう。


「えっと、君の名前は?」

「あ、はははい!わ、私の名前は『サヒリーナ』と申します!き、きき気軽に『サーナ』とおおお呼びください!」

「そ、そうか。俺の名前は鳴海こっちはレンゲ。よろしく」

「……ん」

「ひゃい!よろしくです!」


 突然ガチガチに緊張し始めたサーナにこれまた面食らいつつこちらも自己紹介する。


「す、すいません。さっきまでは推しの話だったので緊張しなかったのですが……」

「な、成程」

「……よしよし」


 さっきから感情の起伏が激しい彼女に絆されたのかレンゲが項垂れたサーナの頭を撫でる。


「うぅ……、まさかこんなちっちゃい子に慰められるなんて……」

「……む、私はもう立派な大人」

「あう。ご、ごめんなしゃい」


 レンゲはちっちゃい子扱いされたのが気に入らなかったのかなでなでしていた手でサーナの頭をはたく。


「ははは、こう見えても16だよ」

「えっ!同い年?!み、見えない……」

「……(ぴとっ)」

「?っ!?あばばば!?」

「こらこら」


 サーナの発言にぷっちんしたレンゲがサーナの肌に触ったと思うとサーナに電流が走る。

 死んでしまうような威力ではないだろうがそれなりに痛いだろう。


「あ〜あ」

「……ふん、自業自得」

「しょ、しょんなぁ」


 サーナからレンゲを剥がす。

 サーナは静電気かなにかのせいで髪や尻尾がボサボサになってしまっていた。


「ははっ」

「わ、笑わないでくださいよ〜」

「……」


 どうやらこの街では暇になることは無さそうだ。



♦♦♦♦♦


新作『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿し始めました!ぜひ読んでみてください!






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る