第48話 友達
それから数時間後、馬車は何事もなく進んでいた。
何事も無いのはいい事だがやはり暇なものは暇だった。
「皆さん、馬を休ませる為に休憩所に寄りますがいいですか?」
「ええ、大丈夫です」
「了解です」
あまり馬の管理等に詳しくないが流石に朝から夜まで馬を走らせることは出来ないらしい。
俺は軽く返事をして感覚が無くなったお尻の位置を調整する。
ちなみにレンゲは俺にもたれかかって寝ていた。
十数分後、馬車が少しずつゆっくりとなったと思うとすぐに停車した。
気分転換の為にレンゲを譲って起こし、馬車を出て身体を伸ばす。
「んんん、はぁ。やっぱり長時間の馬車はきついなぁ」
「だろうな、私も最初はそんな感じだった。これは慣れるしかないぞ」
「……ですよねぇ」
後ろから近ずいてきたナカルさんの言葉に苦笑いしながら応える。
「三十分程の休憩ですので、今のうちに食事を取ったり用を足しておいてくださいね」
「了解です」
俺はゆっくり降りてきたレンゲと馬車の端に座り、持ってきていた定番食料である干し肉とパンをレンゲな渡す。
まだレンゲは眠いのか受け取った干し肉を見つめながらぼーっとしていたがゆっくりと齧り付く。
「……硬い。でも美味しい」
「だろ?雨宿り亭限定の干し肉だぜ?」
レンゲは力の入ってない顎で両手で持った干し肉をハムハムと噛む。
干し肉は基本的に固くてあまり美味しくない物が多いが、この干し肉は雨宿り亭で売っている干し肉。噛めば噛むほど旨みが溢れてヤミツキになり、さらに程よい硬さで食べやすい。
正直これに慣れてしまうと普通の干し肉を食べるのが怖くなってくる。
ナカルさん達があんまり美味しそうに干し肉を食べてないのを見れば一目瞭然だ。
「わっ!!」
「……っ!?」
「わへ?!」
俺とレンゲが干し肉を食べ終わった瞬間、突然俺達の耳元で誰かが叫ぶ。
驚いて俺達はすぐさま後ろを見るとそこにはいつの間にか近ずいてきていたエマさんがいた。
「……びっくりした」
「エマさんか……心臓に悪いから急に驚かすのは辞めてくれ……」
「いや〜、なんか無言で食べてたからもう少し楽しそうにしたら?って思ってね!」
「いや、エマさんたちも基本無言だったじゃないか……」
「ははっ、確かに!」
エマさんはニヤニヤとした顔でそう答える。どうやら俺達が素直に驚いた様子をお気に召したようだ。
「ま〜た迷惑かけてんのかい?エマ?」
「ちょっ、違うって、パーミャ!ほらっ!今私達は友達になったんだ!なっ?」
「……」
「あ、あはは……」
ジロっと大柄の女性、パーミャさんに睨まれたエマさんは後ろから俺とレンゲをギュッと抱きしめる。
想像以上に強い力で抱きしめられ、少し苦しくなりつつもパーミャさんに俺は苦笑いをする。
「……はぁ、そうかい。私の名前はさっきエマが言ったが『パーミャ』。もしエマが迷惑かけたらすぐいいな。連れ戻すから」
「り、了解です。俺の名前は鳴海です」
「……レンゲ」
「ああ、短い間だがよろしくね」
「ええ、よろしく」
「……よろしく」
「アイタっ!?」
握手でもしたいところだがエマさんに捕まえられてて動けない。
パーミャさんはエマさんの得意げな顔にイラついたのか少し不機嫌にふんっと鼻息を着いた後、スっと上げた手でエマさんのおでこにデコピンをして去っていった。
「アイテテテ……もう、パーミャは容赦ないんだから!それはそうと、レンゲちゃん達の話を聞かせてよ!」
「……話?」
「うんうん!自慢話でも趣味でもなんでもいいから聞かせてよ!私、友達の話を聞くのが好きなんだ!勿論私も話すからね?ね??」
「お、おうふ」
「……わ、わかった」
そのとんでもない間の詰め方に俺達は少し引き気味になるが、引いた分近づいてくるエマさんに俺は対応しきれず、レンゲもその純粋な目に邪険にできず受け入れる。
「やったー!じゃあ私から……」
「そろそろ出発しますよ〜!」
「……あ〜、もう時間か……。じゃあ続きは次の休みね!」
「お、おけです」
「……(コクコク)」
エマさんはルンルンとした足取りで馬車の中に入っていく。
あったことない(性格的な)人種を前に俺達は少しの間フリーズしていたのだった。
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