第47話 記憶
「全員乗りましたね。では、出発します」
「了解」
「了解です」
商人さんの言葉にパーティを代表して俺とナカルが馬車の中から返事をする。
ちなみにフルベニカ街からファーナント街まで行くのには約二日、場合によっては三日ほどかかる。
馬車の乗り心地もあまり良いとは言えないが、仕事でもあるので我慢だ。
段々と馬車の速度も上がり、石などで馬車が揺れる頻度が増えて正直めちゃくちゃ尻が痛かった。
「……大丈夫?」
「あ、ああ。よく考えたら俺馬車に乗ったの初めてだから慣れてなくてな……。レンゲこそ大丈夫なのか?」
「……ん、鬼人族は頑丈」
「そ、そっすか」
鬼人族やべぇ、まじチートやん。そんなこと考えながらふとゴージュさんの教えを思い出す。
『ナルミ!この街から出るってことは馬車に乗るってことだな!まだまだ貧弱そうなお前はきっと馬車に乗ったらケツを馬車に持ってかれちまう。だからそうならないように服屋かなんかで厚めの布を買っておけ。少しはマシになるだろうよ!』
俺はゴージュさんの助言通りに買っておいた布を取り出し、椅子に敷いて座り直す。
……まあ、確かにマシになったな。
布を数枚重ねることで大きく揺らないと衝撃が来ないようにして揺れに耐える。いつかクッションを買うことを決意した。
「へ〜、やっぱり君鬼人族だったんだね」
「え、えっと、貴方は……」
「あ、ごめんごめん。私の名前は『エマ』!わかってると思うけど『庭園の番人』の一人さ。よろしくね!」
「俺は鳴海です。よろしくお願いします」
「……レンゲ、よろしく」
突然前方から話しかけられる。そちらを向くと人懐っこそう笑みを浮かべた女性がこちらに近ずいて来ていた。
彼女は俺達の近くに座ったのでお互いに軽く自己紹介をする。
「それで要件は……」
「あ〜、そういう硬っ苦しいのはよして。君って冒険者っぽくないねえ」
「それを言えばナルカさんも少し硬っ苦しかったですけどね」
「ははっ、確かに!そういや慣れてたけどそうだったな!まあ、それはそうと。レンゲちゃんだっけ?いや〜私って好奇心が強くてね?見たことない種族の人を見るとつい友達になりたくなるの。どう?友達にならない?」
「……たった二、三日だけなのに?」
「関係無い関係無い!同じ冒険者してたらいつかはまた会うかもしれないし、目的地は一緒だからまた会うかもしれないでしょ?だからほら、友達なろ?もちろんナルミ君も一緒に!その人の事を忘れなければ誰だっていつまでも友達さ!」
「え、ええ」
なんというコミュ力の塊。いや、むしろこの強引すぎる関係の詰め方はコミュ力が無いのか?よく分からない。だがまあ悪意のようなものは感じられないし、単純に友達になりたいって気持ちが凄い伝わってきて邪険にも出来なかった。
「こら、他人を困らせるんじゃないよエマ。済まないねぇ、うちの連れは気になった奴に、片っ端から友達になろうと近寄っていくんだ」
「ええと、大丈夫で……」
「ちょっと!まるで私が友達を作ることが相手に迷惑かけてるみたいじゃないか!」
「だからそう言ってんだろ。ほら、行くよ!」
「あ、ちょっとまっ、ぐえっ」
エマは少し大柄の女性に首元を後ろから掴まれて引きずられてパーティの場所に戻って行った。
パーティの人達の目が呆れだったのでこの光景はいつもの事なのだろう。
それでもエマさんはレンゲさんを見つめて友達になって欲しそうな目をしていた。
「なんか凄く真面目なパーティかと思ったら意外と楽しそうなパーティだな」
「……ん、暇になることはなさそう」
「確かにな」
『忘れなければ誰だっていつまでも友達』
その言葉を聞き、まだ別れて一日も経ってないフレデリカ街の人達の事を思い出す。
俺は馬車の外を小さな窓から眺めながら、尻の痛みを我慢するのであった。
♦♦♦♦
「はぁ、はぁ、はぁ……くそ!なんで俺がこんな目に」
男は悪態をつきながら人のいない路地裏を走る。
「あっちに行ったぞ!」
「どこだ!探せ!」
少し離れた場所で自警団達の誰かを探す声が聞こえる。
もちろん探している人物はこの男の事だった。
男の見た目は金のかかってそうな派手な服。だがよく見てみると所々汚れてきたり破けていたりしており、体も汚れていて数日間風呂どころか水浴びもしてないことが分かる。
容姿に関しては、単型は少しふくよかで目と髪の毛の色は深い緑色。
そう、この男はナルミ達を狙った男達の上司にあたる人物だった。
「クソっ、クソっ!自警団の奴ら何故俺の場所がわかった?!しかも上のやつらはこの俺を尻尾切りするなんて!」
自分は何事においても上の存在だと思っていた。その内こんな田舎じゃなく都会の重要な仕事につけると思っていた。
鬼人族の事もあの元冒険者にやらせておけば簡単に終わると思っていた。
なのに、つい数日前は狩る側だったのに自分は逃げている。それが屈辱以外の何者でも無かった。
「俺は、俺は選ばれた存在だ!なのにアイツらが失敗したせいで!全部全部アイツらのせいだ!」
男は自分の無能な部下と、顔も名前も知らない鬼人族を恨む。もう体力も切れて空腹で思考もまとまらない。誰かを恨むぐらいしか出来なくなってい。
「おっと、ここに居たか」
「っ?!だ、ダレだ!」
「ん〜?別に誰でもいいでしょ?あえて名乗るなら自警団だよ。ほら」
男の前に突然赤い髪をした男が現れる。その服装に少し見覚えがあったが今は頭が回らず男は問いかけると、赤い髪の男は紋章のようなものを見せつける。
それはこの街の自警団を示す紋章だった。
「……っ!?くそ!俺は捕まらねぇ!俺は選ばれた人間で、上に立つべき人間なんだぁ!!」
「そうかい、そりゃよかったね」
男は相手が自警団だとわかった瞬間、血相を変えて走り出す。
だがもはや体力の限界。むしろ立っていること自体限界なのに、それでも走っているその根性に赤い髪の男は少し驚くが、どうでもいいかと思い直す。
「よっと」
「……っ!?くそ!痛てぇ!ふざけんな!」
赤い髪の男は懐から出した小さな投げナイフのようなものを男の足に向かって投げる。
そのナイフは男の足にささることは無かったがズボンと足の皮膚を切り裂く。
「くそ!くそ!覚えてやがれ!」
「ああ、覚えておくよ。まあ、一日たったら覚えておく必要無くなるけどね。……ふう、さっさと帰るか」
赤い髪の男はその場から動かず男が走り去るのを眺める。男が視界の中からいなくなった後、赤い髪の男はナイフを回収してその場をさっさと立ち去ったのだった。
次の日、とある路地裏で男の死体が発見された。
その死体の状態は所謂『変死体』と呼ばれるで、服はボロボロで薄汚れており、爪はまるで何か硬いものを引っ掻いたかのように割れており、体の一部は変色して泡を拭きながら男は亡くなっていたという。
この事件を自警団はろくな調査をせず、酒飲みが食べ物を喉に詰めての窒息死だと発表した。
死体を発見した人達は少し疑問を抱いていたが次第に興味をなくして忘れ去られて行った。
たった二週間でその男のことを、その事件のことを覚えている人は誰もいなくなっていたのだった。
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