第46話 専門


「それでねぇ!ゆーちゃんがてのてのにこう言ったの!『それは説得ではなく宣告では?』って!あれは本当に傑作だったわ!」

「ははは!それは面白いですね!」

「でしょ〜?」

「……」


 口調こそしっかりしてるもののテリーヌさんは酔っ払った様子で色々なことを話していた。

 正直『ゆーちゃん』さんも『てのての』さんもその他の人も誰のことを指しているのかか全く分からないが(門番さんとゴンズさんは分かった)、テリーヌさんの話し方が上手なのかとても面白かった。


「……」

「あら?いつも以上に無口だと思ったらレンゲちゃん、もう眠たそうね。私もこれ以上は明日に響きそうだからお開きにしましょっか?」

「そうですね。もう少しお話聞きたかったですけど俺達も明日依頼受けるので寝ることにします。ほら、レンゲ。立てる?」

「……んん?」


 寝ぼけたレンゲを支えながら二人分の追加料金を払って部屋に戻ることにする。


「では、お先に失礼します。ゴンズさんも」

「は〜い。おやすみ〜」

「ああ、おやすみ」



 俺は部屋を開けてレンゲをベットに寝かせ、俺も一緒に寝転がる。

 もう完全に一緒に寝ることに慣れてしまった自分に少し呆れながらまぶたを閉じようとした時、横からぎゅっと暖かい何かが左腕に抱きつく。


 まあ、誰かはわかっているが確認のために目を開けて顔を左に向けを確認すると、レンゲが顔をこちらの顔の近くに寄せ、俺の腕に抱きついていた。


 まさか顔まで近ずいていると思わずドキッとしてレンゲの顔を凝視してしまう。

 レンゲは見れば見るほど顔が整っていることがわかるし綺麗なまつ毛や柔らかそうで整った輪郭を触りたくなってしまう。が、勝手にレンゲに向かおうとした自由な右腕を理性で制御し、レンゲの肩を押して顔を遠ざけようとする。

 流石にこの状況で寝られるとは思わなかった。


「……んんん、」

「っ?!」


 優しく遠ざけようとするが逆にレンゲは腕に抱きつく力を強め更には顔が近づく。

 今にもキスしてしまいそうなほど近寄ってくる。


「れ、レンゲさん?実は起きて……るわけないよねェ」

「……」


 レンゲの柔らかそうな唇が近ずいてくる。これは俺の妄想か俺が近ずいてるのかレンゲが近ずいてるのかわからなくなっていた。


 少しずつ……少しずつ……少し、ずつ……


「……いやいやダメだ!」


 俺はレンゲが起きない様に小さな声で最小限の力で顔を右側に顔を背ける。

 レンゲの初めて……かどうかは分からないがそれをこんな寝ぼけて貰う訳には行けない!と、童○丸出しの意地を張って顔を背けた。


 俺は心臓のドキドキを深呼吸して収め、さっさと眠ることにするのだった。


「……むう、もう少しだったのに」


 寝る寸前の俺には小さな声で誰かが言った言葉を聞き取ることはなかった。



 ♦♦♦♦



 それから十日、特に特出したことはなくすぐに俺達がこの街を出る日がやってきた。


「では、俺達は出ます。今までありがとうございました!」

「……ありがとう」

「おうよ!またこの街に来た時はここに泊まりに来てくれよな!」

「はい!ありがとうございます!また次も絶対に、絶対に来てくださいね!」

「ああ、約束するよ」

「……ん、約束」

「は、はい!約束です!」


 リラちゃんは少し涙目になりながらも最後まで笑顔を絶やさず俺達を見送ってくれた。次会う時はきっと更にしっかりした看板娘になってることだろう。




 いつもとは違う門から出る為、いつもの門番さんは居ない事に少し寂しく思いながら依頼主がいる馬車置き場に向かう。


「あ、貴方が依頼主の商人さんですか?」

「ん?ああ、君はもしかして依頼を受けてくれた冒険者かい?二人組ということは……ナルミ君とレンゲ君かな?」

「ええ、護衛頑張ります」

「はい、頼りにしてますよ」


 少し素っ気ないように感じるがたった数日の関係なのでこれぐらいが普通なのだろう。まあ、ララさんが勧めてくれた依頼なので疑ってはなかったが傲慢そうな依頼主だったりしなさそうなので良かった。


 馬車に腰掛けて少し待っていると、四人組の冒険者らしき人達が近寄ってくる。きっと一緒の依頼を受けた冒険者だろう。


「どうも、依頼を受けた冒険者パーティ『庭園の番人』です。今回はよろしくお願いします」

「ああ、確か護衛依頼を専門にしているパーティだったな。頼りにしているよ」

「はい、期待に添えられるように頑張ります」


 冒険者には特定の依頼を専門として受けている人達がいる。例えば採取系だったり討伐系だったり。

 彼らは護衛依頼を専門に受ける冒険者らしい。


「……(つんつん)」

「ん?どうした?」

「……『何とかの番人』って?」

「『庭園の番人』な」


 レンゲが腕をつついてきたのでどうしたか聞くとどうやら彼らが名乗った『庭園の番人』と言うのに興味を引いたらしい。


「あれは所謂パーティ名と言ってな、パーティを区別するために付けることが出来る二つ名と違ってDランクから自分達でつけることが出来る自分たちを指す総称だ」

「……なるほど。じゃあ私たちのパーティ名は?」

「あ〜、二人組のパーティは付けるのは任意でな、まだつけてないんだ。三人組のパーティになったら強制で付けなきゃ行けないんだけどね」

「……じゃあ、向こうで着いたら付けよう」

「そうだな。それに向こうで新しい仲間が出来るかもしれないしな」


 俺達は先輩冒険者達を見ながら自分達のパーティ名を考えていると、こちらに気がついた先程商人さんと話していたリーダーらしき人がこちらに近づいてくる。


「君たちは私達と一緒の依頼を受ける冒険者達かな?」

「ああ、ナルミだ。よろしく」

「……レンゲ、よろしく」

「ナカルだ。こちらもよろしく。ちなみに護衛の経験は?」

「あ〜、すまない。護衛依頼をするのは初めてなんだ。一応先輩からやり方は教えて貰ってるんだけどね」

「なるほど。まあ、やり方と言っても馬車に乗って敵が来たら戦って、夜は野営のをする。極端にいえばそれだけなんだがな」

「ははっ、確かにそうだな。まあ、もしもの時があるかもしれないからお互い気をつけような」


 その後少し世間話をしてナカルと別れる。と、言っても彼がパーティに戻っただけだが。


 俺は少しは楽しい旅になりそうだと思いつつ、馬車の中に入り込むのだった。










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