第38話 先輩
突然の冒険者ランクの上昇にびっくりしたが当初の予定は変わらない。
「まあ、退院したばっかりで体も鈍ってるからEランクの討伐依頼をやる予定なのは変わらいけどね」
「……ん、あと今後の事も」
「今後の事ですか?何かもう予定を立ててるんですか?」
そういえば言ってなかったと思いララさんに説明する。
「え〜〜!!もう行っちゃうんですか!?そんな〜、これからもっと仲良くなれると思ったのに……」
「まあまあ、冒険者ならレベルが上がれば違う場所に行くのは必然じゃないですか」
「う〜、そうですけどその口振りからしてあんまり長居しないつもりなんでしょう?」
「一ヶ月ぐらいかな」
「十分短いですよ!」
「……持ってきた」
ララさんが文句を言っている間にレンゲが何枚か討伐依頼を持ってくる。
「お、ありがと。どれどれ……うん、多分大丈夫だな」
「あ、そういえばレンゲちゃん顔隠さなくなったんですか?やっぱり思った通り美人さんですね!」
「……ララさんも可愛い」
さっきまで怒ってたり悲しんでたりしてたララさんがレンゲと会話すると笑ったり嬉しそうな表情をする。
こういう所がララさんの人気な理由だろう。
ララさんはコロコロと表情を変えて雑談しながらも仕事はテキパキとこなす。流石は冒険者だけではなくギルドからも評価が高いララさんだ。
「まあ結局、行先を決めるのは私ではなくナルミさん達自身なのでこれ以上は言いませが、一ヶ月の内に良くしてくれた人には挨拶は欠かさないようにして下さいね?」
「ああ、これから会うと思うのでその時に伝えようかなと」
「それがいいと思います。……はい、依頼を受理で来ました。気をつけてくださいね?」
「わかりました」
「……わかった」
俺達はララさんとの会話を終えてギルドを出ようとすると、野太い声で引き止められる。
「おおナルミ!元気にしてたか?なんでも入院してたらしいじゃねぇか!急に居なくなったから死んじまったかと思って心配したぜ!」
「ちょっとゴージュさん!?」
「冗談だよ、冗談。ったく、最近の若い奴は……まあいい。盗み聞きみたいになっちまったがDランクになったみてぇじゃねぇか」
話しかけてきた男は身長は二メートルぐらいの大男の『ゴージュ』さんだ。
ゴージュさんの冗談に敏感に反応したララさんを適当に相手して俺に凶悪な笑顔で話しかける。
……初めて会った時にこの笑顔にビビってチビりかけたのは秘密だ。
レンゲはスっと俺の後ろに隠れてゴージュさんを警戒しているのを苦笑いしながら俺も返事をする。
「ええ、ゴージュさんの助言のお陰でなんとかなることが出来ました」
「おお!そうかそうか!最近のやつは俺みたいな先輩の話は全く聞かないからそう言ってくれると嬉しいねぇ!それにしてももうDランクか……これが才能って奴なのかねぇ」
「あはは……、でもゴージュさんの経験の多さには敵いませんよ」
「がはは!そう言ってくれると嬉しいな!……ん?お前の後ろにいるちっこいのは誰だ?」
ゴージュさんは俺に色々と助言してくれた頼れる先輩だ。
他の冒険者からは『万年Dランク』と言われてバカにされてるが、それでも長年Dランクとして築いた地位と経験は確かな物だ。煙幕などの作り方もこの人から教わった。
Dランクとは言え、死ぬ可能性なんていくらでもある。むしろ人が多いい分、Dランクが一番死者数が多いお言っても過言ではない。
その中で安定した収入を獲得しているのは普通にすごいと思っている。
まあ、分かっていない他の冒険者からすれば同じランクに留まり続ける臆病者みたいな感じの評価なんだろう。
ララさん情報だとBランク以上の人によく尊敬されてるらしい。
ゴージュさんは俺の後ろに隠れたレンゲを見ながら聞くので少しレンゲの背を押しながら答える。
「ほらレンゲ……この子はレンゲって名前で同じパーティの子です」
「……どうも」
レンゲは最初よりは警戒を薄めて、それでも素っ気ない様子で挨拶をする。顔こそ隠してないがすぐにでも俺の後ろに隠れたそうだ。
「がはは!どうやら怯えさせちまったようだな」
「すいません、ちょっと人見知りで」
「……」
「いやいいんだ、怯えられるのは慣れてるしな!」
ちょっと落ち込んだように見えるのは気の所為だろう。
「この子は剣術に長けてて正直俺よりもずっと強いんですよ。ちょっと情けないですけど、この子がいなかったら多分もう死んでるかもしれませんね」
「おうおう、そりゃ頼もしいな!冒険者に男も女も種族も関係ねえからな!今後もこいつを支えるんだぜ?」
「……?!……ん」
ゴージュさんがどこまで知ってるかは分からないが経験豊富な人だからそれぐらい簡単に察することができるんだろう。
「はは、なんでゴージュさんが結婚できないか分かりませんね!」
「う、うるせぇ!俺は一生独り身を貫くって決めてるんだ!!作れねぇ訳じゃねぇ、作らないんだ!」
少し早口になりながら話すゴージュさんを見ながらいつも通りのこの人に少し安心したのだった。
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