第37話 退院
俺は三日ほど寝て過ごした後、更に一日使ってリハビリをして退院した。
「……前に言ってたファー何とか街っていつ行くの?」
「ん?ああ、ファーナント街か。そうだなあ、まず休んで鈍った体を完全に治してからDランク冒険者になるのが最優先かな」
「……Dランク冒険者?なんで?」
「Dランク冒険者は冒険者の中で『一人前』を指すランク帯で、一番人の多いランク帯でもある。なんでそのランク帯を目指すかというと、Dになると護衛依頼が受けられるんだよね」
「……つまり護衛依頼でお金を稼ぎながら町を出るってこと?」
「そゆこと」
俺はレンゲに説明しながら冒険者ギルドに向かう。
あんな事件があったとはいえ、魔物との戦闘経験はスライム討伐とゴブリン数匹だけなのでまだまだ時間はかかるだろうが、一応俺とレンゲ、両方Dランクになってから出発しようと思っている。
急ぐ必要もないのでのんびり歩いていると、ふと周りの視線がいつもよりこちらに向いてることに気づく。
何だろうと思いみんなの視線をたどると俺では無くレンゲのことをみんなは見ていた。
そしてすぐに俺は周りがレンゲのことを見ている理由と少し感じた違和感の正体を理解する。
「レンゲ、もう顔隠さなくていいのか?」
「……うん」
そう、今まであれほど顔を出すのを嫌がっていたレンゲが顔を一切隠そうとせず堂々と歩いているのだった。
思い出してみれば治療師さんが来た時も顔を隠さなかったので今更感が凄いが。
「……フードに付いてる認識遮断効果自体は装備してるから消えたわけじゃないけど、かぶってないから顔自体は認識できなくても体の一部の角が見えてるんだと思う」
「あ~、なるほど」
目、鼻、口といった見慣れた物なら低い遮断効果で認識を遮断できるが、角といった見慣れないものなら確かに隠せないだろう。角に驚いて顔を意識してみようとすれば普通に顔を見れてしまう程度の効果だ。
それに、レンゲははっきり言ってめちゃくちゃ美人さんだ。一度顔を見たら見惚れてしまっていても仕方ないと思う。
「……ちょっと恥ずかしいから詳しい理由は言わない。あえて言うなら、もう少し自分に素直になろうかなって」
「おお、いいことじゃん」
多分っていうか確実にその心変わりの原因はあの事件だろうけど、素直になるってことは溜め込むのをやめるってことだからきっといいことだろう。
俺たちはそんな感じで少し雑談しながらギルドに向かった。
「あ〜!!ナルミさん!それにレンゲちゃん!良かっぁ、ここに来たってことは冒険者復帰するんですね?」
「ああ、ララさん。お久しぶりです……かな?一応そのつもりだよ」
ギルドに入ってすぐに受付に行くと、丁度受付をしていたララさんと会う。
ララさんもすぐにこちらを見つけたようだった。
「も〜、びっくりしたんですからねぇ!自警団の人達からいきなりナルミさんとレンゲちゃんらしき人が医療院送りになったって聞いて心臓が止まるかと思いましたよ!」
「あはは、そりゃ色々あってね」
「笑い事じゃないですよ!」
「……落ち着いて」
どうやら相当心配してくれたようだ。一ヶ月ほど担当してくれたので、ある程度仲良くなった人だがら少し嬉しい。
プンプンと怒るララさんをなんとか落ち着かせてそろそろ話を進める。
「レンゲから聞いたんですけど、確か入院中って冒険者カードって凍結してるんですよね?」
「ええ、ナルミさんとレンゲちゃんの冒険者カードは現在凍結中になってます。なので期間切れになったりしてないので安心してください!」
冒険者カードの凍結とは入院などのやむを得ない理由で長期間依頼を受けられない人の為の制度で、凍結中依頼を受けられない代わりに冒険者ランクの期限が減らないというものだ。
冒険者ランクの期限はランクによって違い、上に上がるほど長くなっていく。確かEランクは10日程だったはずだ。
その期限を過ぎると一つランクが下がり、最終的にはGランク、つまり一般人に戻るというわけだ。
「じゃあ二人とも冒険者カードを提出お願い出来ますか?」
「わかった」
「……ん」
俺とレンゲは冒険者カードを言われた通り渡す。
ララさんは受け取ったカードを持ってカウンターの奥に持って行き、二十秒ほどたった後に少し早歩きでやってきた。
「ナルミさんレンゲちゃん!朗報ですよ!なんとナルミさんとレンゲさん、マスターからのお言葉で二人ともDランクに昇進らしいですよ!こんなに早くランクが上がった人中々いませんよ!」
「ええ!?二人ともDランクに!?」
「……良かった」
レンゲはあんまりピンと来てないようだったが、これは十分凄いことだった。
基本DランクはF、Eの下済みを追えてやっとなれるランクだ。どれだけ早くても基本一年かかると言われている。
それがたった一ヶ月、レンゲに至ってはたった一、二週間でDランクだ。
「で、でも俺、まだ討伐依頼まだ一、二回しかやった事ないし、まだまだ経験も浅いのにそんな……」
「なんでも、ナルミさん達が倒した人が元Dランク冒険者で冒険者時代は将来有望だった人らしいんです。しかも最近よく冒険者を襲ってて指名手配されてたらしく、討伐報酬も出るらしいです!まあ、つまり。ナルミさん達の実力が認められたって事ですね!」
ララさんはまるで自分の事のように喜んでくれたので、少し予定は狂ったが良しとすることにした。
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