第二章 旅立ち、それは出会いと目的

第34話 目覚め



 ……ふと目が覚める。どれくらい寝ていたのだろうか。

 見慣れぬ部屋の様子を何となく眺めながらまだボーッとしている頭を動かして最後の記憶を探る。


「え〜と確か、レンゲと一緒に買い物行って、服買って、刀買って、そしたら変な男が……ってレンゲは?!って痛ぇ!?」


 レンゲの事を思い出して頭を覚醒しつつ、ガバッと起き上がると全身に筋肉痛のような痛みが走った。


(コンコン、ガチャ)「……っ!?ナルミ!」

「ああ、良かった。レンg……グェッ!?」


 その時、丁度やってきたレンゲの何ともなさそうな様子に歓喜を示そうとしようとした瞬間、レンゲ全力タックル&全力ハグをされる。


「……う〜、ナルミィ……」

「レ、レンゲさん!?ギブギブギブ!!死ぬ!!まじで死ぬ!!」


 今にも泣きそうになりながらベットに乗り上げて抱き着いてくるレンゲに何故かさん付けになりながら痛みを訴える。


 鬼人族なので人族の俺とは圧倒的に違う力で筋肉痛の、しかもさっきまで寝たきりなので力も入らない体を全力で抱きしめられるとまるで体をへし折られるかのような激痛が身体中に拡がった。


「あっ……。ご、ごめん」

「イテテ……いや、いいんだ。そんなことより……」


 レンゲは俺の訴えを聞いて慌てて離れる。

 俺はレンゲが寝たままの状態で手が届かなくなる前にレンゲの頭に手を乗せてなでる。


「あっ……」

「よかった、無事で」


 守れた。その思いが心に余裕を与えてくれた。

 こうやって平和に居られる幸せを命を懸けて戦ったことで強く実感した。


 レンゲは頭を触られた瞬間は少しびっくりした声を出したが、今は俺のなされるがまま気持ちよさそうにしていた。


 俺はあの後の事、そして今後の事を話すためにレンゲの頭から手を放す。


「あっ……」

「レンゲ、俺が気絶してからの事教えてくれる?」

「……うん」


 レンゲは名残惜しそうな声を出して俺の手を見ながら返事をする。


「……突然ナルミが倒れた後、どうにかしようとしたけど私も体力が尽きちゃって、座り込んでどうするか考えてたら丁度自警団?がやって来た」

「丁度?レンゲが呼んだのではなく?」

「……うん。それも事情もある程度知ってるみたいで、私達を保護して魔法使い達の事を言ったら追いかけて行った」


 あんな人気がない路地裏で偶然自警団がやってくるなんて有り得るだろうか。しかも明らかに重症の人が俺含め三人も居て、しかもこちらの事情をしっている。


 ……これは単純に誰かが助けてくれたのか、それともこの事は誰かの手のひらの上で起きた事なのか判断はつかない。だけど、今は無事助かった事を喜ぶとしよう。


「……その後、この場所に連れて来られて、私も疲れて殆ど気絶するように寝て、起きた後事情聴取された」

「事情聴取って、どんな話を?」

「……大男の言ってた事や、逃げた魔法使いの特徴ぐらい」

「え?戦った理由とかは聞かれなかったの?」

「……うん、最初にちょっとだけ軽くは聞かれたけどそれ以降は聞かれなかった。知ってるのか、もしくは見当がついてるのか追求はしてこなかった」

「なるほどねぇ……」


 これは俺が気絶した時に自警団を呼んでくれた人が先に情報を伝えて誤解のないようにしてくれたか、それとも自警団が予想以上に有能だったか。


 どちらにしろ、色々バレているのかもしれない。


「……後はそこから今まで、約10日間寝たままだったってことぐらいかな」

「なるほど……10日間!?」


 いきなりの事実に驚きを隠せなかった。


「えっ?!俺十日間寝てたの?!っていてぇ!!」

「……落ち着いて」


 唐突に衝撃の事実を告げられて起き上がろうとしたが、勿論全身筋肉痛なので起き上がることは出来ず、レンゲに落ち着けと言われてしまった。


「……ここで働く治癒士さんに聞いたら、体への負荷が外傷以上のダメージだったらしい」

「あ〜……」


 何となくその理由はわかった。

 あの時、明らかに俺の体は謎のパワーアップをしていた。今の俺じゃ確実に出来ない身体能力と技術を使うことが出来た。きっとその反動だろう。


「ステータスオープン」


 俺はステータスを開けて俺があの戦いの時に聞いたログのようなものがないか確かめる。


「おっ、あったあった」

「……ん?何があったの?」

「あの戦いの時に頭の中に声が聞こえてきた事を思い出してね、全く聞いてなかったからステータスに残ってないかなぁって思ったんだ」

「……声?」

「ん?聞いたことないのか?」

「……あ、レベルアップの時のやつ?」

「そうそう、そんな感じ」


 俺はログ画面を開くとすぐに10日前のログが出てきた。


 …… 緊急事態の時に『女神の加護を受けし者』からの一度限りの効果、か。


 そういえば俺はこの称号鑑定してなかったなと思い、称号の詳細を確認する。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 名称:女神の加護

 種類:称号

 説明:女神から加護を受けたものが手にすることが出来る称号。どんな加護を受け取ったのかをわかりやすく説明するための称号でもある。


 加護1:取得経験値が1.5倍。加護所有者の仲間も同じ恩恵を得ることが出来る。

 加護2『使用済み』:緊急事態の時、一度限りの一時的なステータス上昇、必要スキルレベル上昇及び技術の付与を行う。使用後はは身体的負荷により、長期的な休養が必要になる。(期間は上昇したステータスの大きさによる)


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 つまり、もしも本気でやばい時があった時の保険的な感じなのか。


 正直に言ってしまえば今後の目標を考えたらこの程度の戦いでこの力を使ってしまったのはめちゃくちゃ痛いが、レンゲを守れたので良しとしよう。


 それに今のレベルで10日間も寝てしまうのに今後どんどん強くなって魔王討伐レベルになったとして、その状態で勝てない奴にこれを使ったらどれくらい寝たままになるのかが怖いからこれはこれでよかったのかもしれない。


「……ナルミ」

「ん?どうした?」


 少し考え事をしてボーッとしていたが、レンゲに呼ばれて直ぐにそちらに意識を向ける。



「……ナルミは……私の事どう思う?」

「へあっ!?」


 いきなりのことで変な声が出る。

 しかしレンゲは至って真面目な様子でこちらを見つめてくる。


「……少し言葉を変える。ナルミはなにか目標っていうか、やりたいことがあるの?」

「や、やりたいことッスか?」


 気が動転してまた変な口調になったが、何とか頭を落ち着かせて考える。


「そうだな、今はまだ実力が足りないけど、ある程度の実力が付いたらこの街を出で旅に出ようと思ってる」

「……旅」

「ああ。ソレにやりたいことって訳じゃないけど、どちらかと言うなら使命と言うか、俺にはとある人との約束があるんだ」

「……約束?」


 勿論女神様に言われた魔王討伐の事だ。正直いって、人間一人に死にかけてるような今じゃ到底叶わないだろう。


「でも今の俺じゃ絶対にその約束を達成できないし、この街に居るだけじゃそのための力も付かない。だから色んなとこに旅をして、色んなことを知って、そして強くなってその約束を達成する。それが俺の目標かな」

「……」


 俺はレンゲの目を見てそうはっきりと言う。これは間違いなく俺の本心であり、この世界に来た理由だ。


「まあ勿論これだけじゃなく、世界中の色んな料理食べたり色んな人と出会ったりとかするのも旅の目標だけどね!」

「……」

「レンゲは?」

「……え?」

「レンゲはなにか目標はあるの?」


 レンゲが何を求めているかははっきりとは分からない。でも、ただ求めている言葉を言うだけじゃなく、お互いの意志を確かめ合うことは何事においても大切だ。


「……私には帰る所は無い。だから、行く所も目標も無い」

「無くなっていたとしても、うちに帰りたくないのか?」

「……分からない。もう私の中では諦めた事になってる」


 レンゲは少し悲しい目をする。過去のことを思い出しているのだろうか。


「……助かったのが私だけかもしれない。少なくとも、あの時戦えた人は皆死んだと思う」

「……」

「刀は持てるようになった。でも、あの化け物を倒そうなんて思えない。今もまだ、あの化け物は私の中で今も私を狙っている」

「怖いのか?」

「……うん。偶に夢に出てくるぐらい。きっと、アイツをこの手で殺すまで、私はアイツを忘れられない」


 それはまさにトラウマという事だろう。

 人族よりも圧倒的に戦闘能力が優れた鬼人族が束になっても勝てなかった化け物。トラウマになっても仕方が無いだろう。


「……私も、強く、なりたい」

「……」

「……ただ守られる存在じゃなく、次は守れるように。頼るだけじゃなく、頼られる存在に」

「……レンゲ」

「……私もその旅に連れて行ってくれませんか?」


 レンゲは小さな声で、しかし強い意思の籠った眼差しで俺にそう言った。


「もしかしたら、死ぬ程辛い目に会うかもしれないよ?」

「……大丈夫。鬼人族は頑丈」

「ははっ、流石鬼人様だ」


 俺はもう一度レンゲの頭を撫でながら、次は俺が確かめるように言う。


「俺と一緒に来てくれるか?」

「……うん!」


 こうして、俺はレンゲという仲間を手に入れたのだった。




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