第33話 スキル



 すみません。予約投稿を間違って昨日になってました……。ほんとうに申し訳ない……。

 あ、今回長めです。


 ♦♦♦♦♦




「……ナルミッ!」


 突然のできごとに驚き、理解が遅れる。

 だけど、レンゲの俺を呼ぶ声ですぐに集中を取り戻すことができた。


 今にも崩れてしまいそうだったレンゲが何故立ち直ったのか、正確な理由はわからない。

 だが、今はそれを考える時ではなく、立ち上がってくれたレンゲを信じて魔法を対処することが重要だ。


 ラースの奴は俺よりも驚いてるようだった。

 そりゃあそうだろう。いくら鬼人族だろうと見た目はただの女の子。しかも今まで魔法しか使っていなかったのだ。

 しかも、体格差は俺よりも大きいのに吹き飛ばせないどころか押されかけている。


 ラースも油断していたわけではないだろう。レンゲも腰に剣を携えていた。それに鬼人族は剣術でも有名な種族でもあった。

 知っていたかわからないが警戒するには十分だろう。


 だとしても、いつ動くかもわからないし強さもわからない存在に意識をそぐほど余裕はなかったはずだ。


 俺はレンゲがラースの相手をしてくれている間に剣に『全能操作』の魔力を纏わせる。

 崩れた大勢を直してまるで魔法を斬るかのように構える。


 と言っても本当に斬るわけでもないし、そんな技は持っていない。いつかは出来るかもしれないが今ではない。


 レンゲ達の横を飛び出し、意識を集中させて剣先だけを魔法にかすらせる。

 すると二つの火球はまるで風に吹かれた落ち葉のように動きを変えて俺の剣に追従し、そのまま剣に纏わりつくように操作する。


 そして、その勢いでラースに斬りかかる。


「クソ!何!?」


 俺の動きを警戒していたラースは俺の攻撃を防ぐが、燃え盛る剣に驚きを隠せていなかった。


「……こっちも!」

「何ぃ!?」


 レンゲは俺に合わせ即座に雷を纏わせた刀で斬りかかる。


 しかし……


「使いたくなかったんだけどなあ!!『風魔閃ふうません』!」


 その瞬間、ラースの爆発的な力で二人とも吹き飛ばされる。これは……!


「……スキル!」

「冒険者時代に使えるようになった技だ。だからあんまり使いたくなかったんだけどなあ」


 スキルの発生条件は多数ある。

 剣術関連で言うと。『剣術』スキルなら剣を使って鍛錬や魔物討伐すると手に入るが、ラースが使ったであろうスキルは所謂『技スキル』であり、剣の鍛錬をした上で魔力等を使って技を磨いたり誰かに教わることで『戦士』などの職業に合った手に入るスキルだ。


『剣術』スキルはあくまで剣を上手く使えるという証明であると言っても過言ではなく、『技スキル』は剣術が使える前提で何ができるかを示してくれるスキルなのだ。


「俺はこの社会に入る時に冒険者という過去の自分を捨てるため、冒険者時代に使っていたスキルの使用を封じた。きっと俺はどこかでまだガキみたいに英雄に憧れてんだろうなあ。俺が冒険者になったのもそれが理由だった」


 ラースはこちらから目を離さず語り出した。


 正直に言えばコイツの過去とか全く興味無い。だが、わざわざ自分から時間を作ってくれているのだ。こちらもこちらでさっき何となく解った事を使って準備をする。


「だからこそ、冒険者時代の力を自分の意思で使わないようにしていた。その一番輝かしい時代を汚さないようにな。だが……ははっ、皮肉なもんだな。そんな英雄に憧れてるなんて言ってるくせに今や立派な悪党になってる」


 こいつが何を思って冒険者を辞めたのか何時知らないし興味もない。

 だけど、根っからのクズという訳でも無さそうという事だけは解った。

 ……まあ、だからと言ってこちらの命を狙う以上敵である事に変わりは無いが。


「そしてそんな誓いさえも自分の命欲しさに破った。……俺なんてやつは英雄には向いてない。まあ、こんなことしてる時点で分かりきったことだが」

「……話長すぎ」


 どうやらレンゲはラースの言葉に何かしら感じることは無く、ただウザイおっさんの長話でしかないようで、心做しか口調もイラついていた。


「ははっ!確かに長話し過ぎたな。俺の話なんざお前達にとっちちゃどうでもいいか」


 ラースはレンゲの言葉に少し笑う。


「……俺はお前に嫉妬している。摩訶不思議な力を持つ男と奴隷にされそうな所をその男に命がけで守ってもらった少女。はっ!どこかの英雄物語かってんだ」


 そう言ってラースは怒気と嫉妬を含んだ殺気をこちらに向ける。

 即座に俺のレンゲは武器を構え直す。


「これは俺の最低な八つ当たりだ。自分への誓いという枷すらも満足に付けられない、愚かな男のな!」


 そう言いながらラースはこちらに全力で斬りかかってくる。


「はた迷惑なやつだな!」

「……同意!」


 俺達は二人でラースの攻撃を受止めはじき飛ばす。


「ははっ!そう来なくっちゃな!お前ら!手ぇ出すんじゃねぇぞ!」

「「は、はひぃ!」」


 ラースは後ろの二人に声を掛け、こちらに突進してくる。


「くらいやがれ!『払い斬り』!」

「……『斬鬼』!」


 剣スキルの初級である『払い斬り』はその名の通り魔力で強化した剣で横薙ぎにする技だ。

 しかし、初級と言っても熟練度をあげれば自分より何十倍も大きな岩さえも切り裂くことが出来る技だ。


 その技をレンゲは真っ向から技を叩き付け、相殺する。


 一応言っておくが、『技スキル』と『剣技』は違う。

 少し変な言い方になってしまうが、スキルはあくまでステータスというシステム上で作られた『ステータスから得た力』であり、剣技は努力によって身につけた自前の力だ。

 勿論スキルも努力して手に入れるが、あくまでステータスとは後ずけの力であり、ステータスと肉体の力は必ずしも一緒では無いらしい。


 俺はスキル発動によってできた隙を突いてラースに斬り掛かる。


「効かねぇ!『鉄鋼』!」

「ぐっ!」


 戦士や重騎士などのアタッカー兼タンク役も務めるジョブが手に入れることができる初級スキルだ。


 効果は単純で魔力を消費して体の一部を硬化することが出来る。硬度はスキルレベルと使用魔力に寄るらしい。


 さっきから使用するスキルが全て初級だが全部ある程度のレベルで、伊達に元Dランク冒険者を名乗ってるだけの実力を持っていた。


 このままだとお互いにジリ貧、それはラースもわかっていたのだろう。ラースは段々と魔力節約を諦めて高威力の技を使い始める。


「『風斬り』!」

「……四式、『流鬼るずき』」


 レンゲはラースの技をまるで大きな滝にでも流されたかのような一見強引にも見える技で逸らす。


 その隙を突いて攻撃するもやはり防がれる。……正直に言えば俺は何の役にも経っていない。


 俺とレンゲは段々と体力が無くなっていってるのに対し、ラースは一切その様子は見せない。

 ただ隠しているだけかもしれないが、もしかしたら今のラースはゾーン的なものにでも入っているのかもしれない。


 そして中々ダメージを与えられていなかった。ただ隙を作っただけでは俺には致命的なダメージを与えることは出来ない。

 これが隙を作るのが俺だったなら話は別だろうが、俺がやってもスキルを使いだしたラースには防戦一方だろう。


『全能操作』で何とかスキルの妨害出来ないかと思ったが、今の俺にはそのレベルに達していなかったのがわかっただけだった。


 だが一つだけ有効な手段を見つけることが出来た。

 上手くやればラースに明確な隙を作れて『鉄鋼』の発動も防ぐことが出来る筈だ。


 ただこれを成功させるためにはレンゲに協力してもらわなければならない。


 戦闘中に長々と説明なんて出来ない。無理やり伝えてもラースに聞かれて警戒されるだけだ。


 何とか伝えられないか目線だけをレンゲに向ける。すると、丁度彼女もこちらを見たのかレンゲと目が合った。


 ほんの一瞬の視線の混じり合い。その間に俺はレンゲの目に信頼が宿っている様に見えた。


 これが俺の勘違いなのか、それとも本当に信頼してくれているのか。

 どっちにしろやらなきゃ負けるだけだ。


 俺は左手に魔力を溜める。レンゲはそれに気づいたのか、一瞬俺の手に目を向けた後にラースの攻撃に合わせて下から打ち上げるように斬りかかる。


「……八式、『無鬼かかし』!」

「今だ!」

「きかね……なっ!?」


 レンゲの技によって剣を腕ごと持ち上げられ、がら空きになった胴に剣を持ってない左手を掌底のように突きつける。

 そして手に溜めた魔力を解き放つ。


「『魔力衝撃波アビリティインパクト』!」

「かはっ!?」


 これはこの戦いで初めて『全能操』を使った時に何かあると感じ、レンゲが足止めしていてくれた時にラースに使って使い方が分かった『全能操』の派生スキル。


『魔力衝撃波』は一点に溜めた魔力を一瞬疑似的に爆発させて衝撃波を生み出して攻撃するスキルだ。


 と言ってもあくまで魔力なので物理的ダメージは無い。しかし、全身を魔力で強化していたりすると自分は一切動いてないのに突然壁にぶつけられたかのような衝撃を与えることができる……らしい。


 実際、ラースは吹き飛んだりしていないのにまるで強い種劇を食らったかのように体を硬直させ、よろめきながら後退していく。


 勿論そんな隙を逃すはずもなく、レンゲはラースに斬り掛かる。


「な、舐めるなァァァ!」


 ラースは全力で『鉄鋼』を発動する。


「……甘い。二式、『鬼牙かがや』!」


 だが、『魔力衝撃波』で魔力核まで揺らされたラースに安定したスキルの発動が出来るはずもなく、レンゲの攻撃に為す術なく切り裂けれた。


「がっ……ぐほっ……ははっ、俺にゃピッタリだ……」


 そう言ってラースは最後まで俺達を見つめたまま地面に倒れ込み、もう動くことは無かった。


『俺にはピッタリ』とは、もしかしたらラースには俺達が英雄にでもなる姿が見えたのかもしれない。


「ひ、ヒィ!ラースさんが殺られた!」

「に、逃げるぞ!」


 魔法使い達は俺達がラースを倒した事で完全に心が折れたのか全力で逃げ始めた。


 魔法使い達の気配が無くなった瞬間、一気に全身の力が抜けて行く。


「……な、ナルミ!」


 レンゲがこちらに駆け寄ってくる。

 その気配を感じ「勝てた」という気持ちが胸に広がって行く。


 俺はレンゲの俺を心配するような声を聴きながら意識を手放した。


『緊急事態の解除を確認。一時的なステータスの上昇を解除します。』

『スキルレベルの一時的な上昇を解除します。』

『身体の負荷を考慮し、長時間の休養を発生させ、レベル上昇を体の負荷が減衰するまで延期します。』



 ♦♦♦♦♦


 これでこの章終了でございます。お疲れ様でした。

 と、言ってもあと一話だけ閑話を入れようと思ってるんですけどね。

 いや〜、戦闘シーンって難しいですねぇ。

 説明が多すぎると迫力が欠けますし、無さすぎると何をしているのか分からない。もっと語彙力が欲しい……。


 そんな訳で、良ければ♡や☆、応援コメントをくれると嬉しいです!ではでは!





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る