第31話 覚醒



 イメージは魔力を纏った腕を伸ばして空中でつかみ取る感じ!

 そう思いながら俺は『全能操作』を発動して魔力を伸ばす。そして丁度俺達とラース達との間の中間あたりで火球をつかむ。


「「「「っ?!」」」」


 急に空中で動きを止めた火球にラース達は驚き目を見開く。


「……!?」

「はあ!!」

「なっ!?ど、どうなってやがる!!」

「え?あへ?」


 俺は自分の操作下に置いた火球二つをラースとダズに向けて叩き落とすように放つ。だがもちろん操作権を手放したのではなく、ここから更に動かせるように維持する。


 ラースはこちらに向かってくる火球にすぐに反応して立ち直り剣を構えて受ける覚悟をするが、ダズは理解不能な現象に茫然として防御を忘れていた。


 今しかない。そう覚悟を決めてダズの方向に向けて放った火球を方向転換してラースの足を狙う。

 そして火球の操作権は維持しつつ、操作を終了してダズに向かって走る。


「げひっ!?」

「ダズっ!?ぐっ!?」


 ダズはたった二、三秒の間に起きた出来事に脳の処理が追いつかず、俺が近づいてきても対応が遅れる。


 俺はその隙をついてダズを切り裂く。魔法使いの時と同じように確実に肉を切り裂く感触を剣越しに感じた。


 ダズの悲鳴に意識をこちらに向けたラースは、こちらに飛んでくるもう一つの火球に驚きつつ二つの火球を剣で受け止められるように構えるが、タイミングが違う二つの火球にバランスを崩していた。


 ダズが死んだかどうか確認するほど余裕はない。しかし、さすがにこのダメージを受けて動けるほど高レベルではないだろう。


「舐めるなア!!」


 ラースが今まで以上の怒気を含めた声で叫びながら飛び込んでくる。服の所々が焦げているように見えるので、完全には防御しきれなかったようだ。


 今使った『全能操作』スキルの感覚を忘れないように意識しつつ、ラースの攻撃を確実に防御する。


「死ねやあ!!!」

「ぐっ!?」


 今までも十分重い攻撃だったがそれ以上に重い攻撃。感情任せに攻撃しているかと思いきや、そこに隙はなかったので冷静に状況を把握しているのであろう。


「お前ら!もう一度だ!」

「「っ!!で、ですが!」」

「いいからやれ!!」

「「は、はい!」」


 さっきの現象に呆然としていた魔法使い二人はラースの命令を聞いてすぐに立ち直り何か言おうとしたが、ラースは有無を言わさない様子の命令にすぐ火球を発動する準備をする。


「……」

「ふん、『いいのか?』って言いたそうな顔だな」


 そんなに顔に出ていたのだろうか。俺の顔を見ながらラースはそう言った。


「さっきの謎の現象。明らかにアレに何かしているような動作をしてたお前が起こしたんだろ?」

「……」


 そりゃあ流石に気づくか……。しかし、ここは無言を通す。


「はっ、だんまりか。まあいい、お前が何をしたかは知らねえが……」


 ラースは話を途中で切り、こちらに切りかかってくるがその程度の不意打ちは予想できていたのですぐに対処する。しかしさっきの攻撃より軽い攻撃だった。


 これは……連撃か!

 すぐに次に攻撃を動体視力をフルに魔力で強化し、ラースの攻撃に合わせることで何とか防御する。


「それに集中できないぐらい攻撃し続ければいいだけだ!」


 ラースの作戦は実際に効果てきめんだ。


 さっき使って分かったことだが、使い慣れたり集中したら別かもしれないが今のところ何かを媒介にしなければこの力は使えない。さっきのも自分の手を媒介に使った。

 ……まあ、媒介といえばかっこよさげだが実際は想像力が足りないだけだが。


 とにかく、ラースの連続攻撃をさばきながらスキルを使えるほど器用でもなければ余裕もないのだ。


「……鳴り響け『雷撃』!」

「そう何度も何度も食らうかよ!」


 何とかラースの連撃をしのいでいるが、隙を見て放たれるレンゲの攻撃も完全に対応できるようになっているし、聞こえてくる詠唱も終わりかけているし対応も思いついてない。


 ラースも自分で作戦を言ったぐらいだ。本当にギリギリまで居るつもりだろう。


「「……我が敵を燃やせ『火球』!!」」


 そんな事を考えてるも魔法が放たれる。さっきのようにラースは俺を吹き飛ばすことはせず、火球がこっちに飛んできているのにまだ攻撃が続けてくる。


「よそ見かぁ!?」

「がっ!?」


 こちらに飛んでくる火球に意識を持っていかれて隙を作ってしまい、そこに蹴りを食らってしまう。

 こちらを蹴り飛ばして怯ましたのにも関わらずこいつは後退する動作は見せない。


 ……まさかこいつ、自分も食らう気か?それとも俺がスキルを使った時に攻撃するつもりか?


 こいつの心理は分からないがやばい状況なのは変わりない。しかも蹴られてバランスも崩した。特に構える必要のない『全能操作』スキルならすぐに使えるが、そんなことをすればすぐさま切られる。


 それなら被弾覚悟で迎え撃つ!そう覚悟を入れて次の攻撃に備えようとした時。


「なんだと!?」


 俺は目を見開く。ラースも驚いた様子だった。そこには……


「……ナルミッ!」


 ラースに斬りかかり、俺の時間を稼ごうとするレンゲがいたのだ。








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