第30話 漲る力
何故かは分からないが
しかし慢心はしないし、する余裕もない。
相手はこちらを格下だと思っているだろう。そこを突いて速攻で決める!
「……はぁ!!」
「ふん、馬鹿の一つおぼ……っ!?」
駆け引きもくそもない全力ダッシュで近ずき、剣を振り下ろす。
ただそれだけだが、さっきより倍以上の速度で近ずいてくる俺に驚愕して反応が遅れる。
しかし、流石にその程度でやられるような奴ではなかったようで、すぐに鞘にしまっていた剣を抜き攻撃を受ける。
(なっ、何だこの力は!?さっきの速さといい、明らかに強くなっている!!)
「お前、何をした?」
「は?何が?」
「なんでそんなに強くなってるんだって聞いてるんだよ!」
ラースはこちらの攻撃弾き、そのまま斬りかかってくる。
「死ねぇ!」
このまま剣で受けるのは良くない。何故か強くなってるとはいえ力はラースの方が上であることは確実。まともに受ければさっきの二の舞だ。
咄嗟に剣で受けるか前をするが剣同士がぶつかる前に剣を斜めにする。
そして、そのまま剣を受け流して切りつける。所謂受け流しと言うやつだ。
「……ふぅっ!」
「がぁぁ!」
「なっ!?」
決まった。そう思ったが野生の勘なのかどうか分からないが獣のような声を上げながら後ろに飛ぶことでラースは避けた。
完全に外れた訳では無い。しかし、腕に切り傷を残す程度だった。
ラースは無理やり後ろに飛んだことで体制が崩れている。チャンスと思いすぐに剣を構え直し、斬りかかろうとするが……。
「俺を忘れるなでやんすよ!」
「ッ?!」
ラースのことだけに集中していたことで気配を消して近ずいてきたダズに気付かず不意打ちをくらいかけるが……。
「……私のこともね……『雷撃』!」
「あばばば!?」
ダズが二度目の雷撃をくらい、ラースの方に吹っ飛んで行った。
「クソガキ……俺に傷をつけやがったな!おいお前ら!魔法を使え!」
「で、ですが……」
「いいから使え!少々傷ついたところで鬼のガキは死なん!早くしやがれ!!」
「「「は、はい!」」」
それぞれ三人は魔法の杖らしきものを構え、詠唱を始める。
「させるか!!」
俺は魔法使いに斬り掛かる。
「「「ヒイッ!」」」
「させねぇよ!」
「させないでやんす!」
「だろうな!!」
「「「?!?!」」」
さっきまで強気だった魔法使いもさっきの戦いをみて怯えたのか情けない声を上げる。
ラースとダズは勿論魔法使いの方に俺が行かないように立ちはだかるが、剣で斬り掛かる……と見せかけて残りの手作り目潰しを目の前にばら撒く。
その目潰しはラースとダズ、魔法使いの一人に当たった。
ラースとダズは一度食らったことがある為、すぐに目を手で覆うなり何なりして防いだが初見の魔法使いは直撃する。
「目、目がぁ!」
「今だ!」
「ッ?!ギャァァ!!」
血飛沫が舞う。しかし今はその事を実感している場合ではなかった。
「舐めるなぁァァ!!」
「!?」
ダズよりすぐに目を開いたラースがブチ切れたように……いや、実際にブチ切れたのだろう。
身体強化は今までも使っていたが、本気を出したのかさっきとは比べ物にならないほど魔力を使って身体強化を使い、斬りかかってくる。
魔法使いを切りつけたばかりで体制も崩れていたがすぐに剣を受ける準備をする。
さっきのように受け流す余裕は無いので腕を重点的に身体強化する。
「おぅりゃぁぁぁぁ!」
「馬鹿力過ぎだろ!」
全力で魔力を込めたが腕に激痛が入り、そのまま吹っ飛ばされる。
「今度こそ死ねぇ!!」
「死ねるかぁ!」
吹き飛ばされる予想は着いてはいたので何とか受身を取り、こちらに急接近している気配を迎え撃つように全力で剣を叩きつける。
鉄と鉄がぶつかり合い、高い音が鳴り火花を散らす。
全力で身体強化したラースの方が圧倒的に力が強い為、手を離さなかったものの頭上に剣を弾かれる。
「横ががら空きだぜ!」
やばい!そう思った時に後ろから魔法が放たれる。
「……鳴り響け『雷撃』!」
「がはっ!?……く、いってぇなぁ!」
だがやはり全力とは言えない今のレンゲの魔法では致命傷には至らない。しかし、十分な隙にはなる。
「はぁぁ!」
「甘い!」
すぐに首に向かって剣を向けたが簡単に避けられる。
ラースはカウンター気味に剣を振りかざしてきたので受け流そうとするが……。
「ふんっ!」
「なっ!?」
ラースは剣が当たる寸前に速度を落とし、腕力で俺を吹き飛ばした。
ラースもバックステップで後ろに下がったその瞬間。
「「火よ、我が敵を燃やせ『火球』!!」」
二つの魔法がこちらに飛んでくる。俺が使ったことのある『火球』と同じだが、完璧に詠唱し終わり、大きさも込められた魔力もそれによって上昇する威力も俺のとは比べ物にならないだろう。
避けられないわけじゃない。だけど何もせず良ければレンゲに直撃するのは目に見えていた。
絶体絶命。まさにその言葉が当てはまる状況だった。
────だとしても、
「……こんなところで負けられるか!」
俺はその魔法を捕らえるように両手を突き出した。
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