第29話 トラウマ



「……あの人たちを見ていると、つらい記憶が蘇る。思い出したくない、心の奥底に封印した記憶」

「レンゲ……」

「……ごめんなさい。私は戦えない」


 レンゲは恐怖と絶望を滲ませた目でこちらを見つめる。

 俺には、そんなレンゲにかける声は見つけることはできなかった。


「さ〜て、そろそろ話し合いは終わったかな?じゃあさっさと答えを聞かせてもらおうか?こちらも暇じゃないんでね」

「……わかった」


 ラースの催促する声を聞き、そちらを向く。


「……俺ら答えは……『断る』だ!」

「……ッ!?」

「はっ、だろうと思ったよ」


 俺は叫ぶのと同時に身体強化をして剣を抜いてラースに振り下ろす。


「甘いわっ!」

「ぐっ!!」


 やはりレベルや経験の差が大きいラースをそう簡単に倒せる訳もなく、そのまま跳ね返され元の位置に戻る。


「……だめ、ナルミじゃ勝てない。逃げて」

「今更逃げられるかよ!!」


 そういい、もう一度走り出す。

 ラースはあまり魔法を使わなさそうだから後ろの奴らに魔法を使わせるしかスキルを使う方法は無さそうだから、どうにかして魔法を打たせるしかない。


「ヒヒヒ、俺を忘れるなでやんすよ!」

「なっ!」


 突然横からダズが短剣を持って飛びかかってくる。

 やばいと思ったが即座に反応できない。


「……『雷撃』!」

「あばばば!?」


 今にも短剣が当たりそうになった瞬間、後ろから魔法が放たれダズに直撃する。


「レンゲ!」

「……剣は使えなくても、魔法は使える」


 震える手をこちらに向けてレンゲはそう言った。


「イテテ、何するでやんす!」

「……詠唱省いたから威力が下がった」


 確かに初めて魔法を見せてくれた時より威力が弱い。

 相手が怯んでいるうちに覚悟を決めてダズに切りかかる。


「ヒィ!」

「させねぇよ!」

「ガハッ!」

「……ナルミ!」


 すぐに近ずいてきたラースに蹴り飛ばされて壁に打ち付けられる。

 叩きつけられた衝撃で意識が飛びそうになるが何とか耐えて何とか立ち上がる。


「はぁはぁ、まだ!」

「はあ、もういい飽きた。ダズ、適当に援護しろ」

「……?」

「おい!ダズ!聞いてんのか!」

「え?は、はいでやんす!」


 ダズは上を向いて何かを気にしているようだったが、ラースに喝を入れられこっちに集中する。

 ラースは剣を構えた瞬間、本気の殺気を向けながら剣で横から斬りかかってくる。


 やばいと思い、何とか剣をかざしてガードする。しかし、圧倒的なステータスの差に為す術なく吹き飛ばされる。

 想像以上の威力と衝撃で冗談抜きで死にそうになり、意識が朦朧とする。きっとHPもほとんど無くなっているだろう。


「……ナルミ!」


 レンゲが何とかこちらに歩いてくるのがわかった。何とか自分も立ち上がろうとするが力が入らない。


「れ……んげ……」

「あ?なんだ?まさかたった一撃で伸びてんのか?根性のないやつだな。その程度で俺に挑むとか、ただのアホじゃねぇか」

「そりゃあんなヒョロガキがラースさんの攻撃に耐えれるわけないでやんすよ!」

「それもそうか!」


 言い返してやりたかった。しかし、体が言うことを聞かず、まともに喋ることも出来なかった。


「さて、もういいだろ。おいガキ、お前の意思で抵抗せずに俺らに着いて来ればそいつには手を出さん」

「……ほんとに手を出さない?」

「ああ、約束しよう」

「……わかった」


 行ってはダメだ!と、いくら心の中で叫んでもレンゲには届かない。今の俺には地面に倒れて見ていることしか出来ない。

 レンゲはゆっくり立ち上がる。

 ────ダメだ、言ったらダメだ!


「おい、あれを用意しろ」

「あれでやんすか?」

「魔法を使えなくするあれだよ」

「ああ!魔封首輪でやんすね!」

「そうそう、それそれ」


 ────立て!立て!立ち上がれ!なんで体が動かないんだ!ふざけるな!こんなことでレンゲを失うのか!!


 レンゲがゆっくりとラース達の方に足を進める。


 ────レンゲか行けば自分は助かる。いいじゃないか。別に恋人でもなんでもないだろ?見捨てようぜ?その方が痛い思いしなくてもいいんだぞ?


 そんな考えが頭をよぎる。


 ────違う!そんな訳ない!どの道助からない!なら戦う!こんな理不尽な終わり方は嫌だ!


 チートを持って異世界転生なんて人生楽勝、なんて考えてないと思っていた。でも結局心のどこかでは自分が主人公であり、自分には命の危険なんてないと思っていた。


 そしてこのザマだ。もっと早く強くなろうとしていれば、もっと貰った能力を磨いていれば。そんな後悔だけが頭を埋め尽くす。


 だけど今更考えても遅い。頭の中の後悔を無理やり頭の奥に押し込み、死ぬ気で身体中に力を入れ、全力で身体強化に使う。


『緊急事態を確認。『女神の加護を受けし者』の一度限りの効果の発動します。』

『一時的に全ステータスを上昇させます。』

『一時的に『剣術』スキルのレベルを2レベル上昇させます。』

『一時的に『全能操』スキルのレベルを1レベル上昇させます。』

『一時的に魔力容量を増やします。』

『一時的にHPを全回復します。』


 目の前に何かが出ているが、今は気にしてられなかった。


 ────立て!


「待て!」

「……ナルミ!?」

「ほう?まだ立つか」

「マジでやんすか!?」


 なぜ立てたかは分からない。それに今はそんなことはどうでもいい。


「絶対に倒す!」

「はっ、やってみろよ」









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