第28話 器の大きさ


「はあ……はあ……」

「……大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ……」


 路地裏を全力疾走したことで息切れを起こしてしまった。

 俺が手を引いていたはずのレンゲはそこまで疲れていない様子を見て、俺は根本的な体力差を感じた。

 冒険者になって体力も増やしたはずなんだけどなぁ……。


「ここまで来れば流石にすぐには追いつかれないだろうから少し休憩しよう……」

「……うん、もしものことを考えて体力は必要」


 アイテムボックスから水の入った皮袋を取り出し、喉を潤す。


「……んく、んく、ぷはっ。……あ、レンゲの分の水袋がない」

「……大丈夫。コップさえあれば魔法で出す」

「ああ!その手があったか!コップは無いけどコップの様に使える物ならある」


 アイテムボックスからコップでは無いものの、深さのある白いお皿取り出してレンゲを渡す。


 もしもの時のために何かをすくったり貯めることが出来るものをどうにかして持っておけ、というこれもまた先輩冒険者さんの教えだ。


「……『水球ウォーターボール』」


 レンゲが小さく詠唱すると、レンゲの指先から透明な水がまるで水道のように出てきた。


 水をお皿の半分ぐらい入れるとレンゲは魔法を止め、水が零れないようにゆっくりとお皿を持ち上げてゆっくり飲み始めた。


 これでお皿が真っ赤だったらいい感じになるんだけどなぁ……なんて妄想にひたっていると、レンゲが水を飲み終えたので話しかける。


「さっきの男達、もしかしてレンゲが誘拐された時にいた?」

「……ッ!?……うん。なんでわかったの?」

「えーっとな、まずあの男の顔を見てレンゲが俺の後ろに隠れたのと、明らかにアイツらがレンゲのことを狙ってたからかな?」


 まあ、レンゲの反応を見ただけの想像なんだけども。

 でもレンゲが狙われたのは事実だからアイツらがレンゲを誘拐したヤツらと関わりがあってもおかしくはない。


「……私が捕まった時、あの二人とも居た気がする。特にあの大男。ちっさい方はあんな感じの喋り方を聞いた……気がする」

「そうかぁ……」


 あの二人がその場にいたならもしかしたらレンゲの顔を見てるかもしれないし、追跡系のスキルがあってもおかしくない。

 大男が言っていた「路地裏から出てくるのを見つけた」ってのもどこまで本当か分からないしな。


「さて、そろそろ行くか。いつあいつらが追いついてくるかわかんないしな」

「……ん、わかった」

「あっ!お前らは!奴らを見つけたぞ!2人に報告しろ!!」

「……「ッ!?」」


 休憩をやめてそろそろ行こうかと思った瞬間に聞き覚えのない男の声が聞こえる。


 その男はローブをしているのと路地裏の薄暗さで顔は見えないが、言動からあの二人組の仲間と考えていいだろう。


「逃げるぞ!」

「……ん!」

「あ!待て!」

「追いかけるぞ!」

「逃げるんじゃねぇ!」


 ローブを着た男三人組が逃げ出した俺たちを追う。

 しかし見た目通り魔法使いだからか俺達には追い付くほど速さではなく、追いつかれるほどではなかった。


「一回人通りに出よう!」

「それは流石にいただけないなあ」

「……「っ!?」」


 目の前の曲道からいきなり大男であるラースが出てくる。


「くっ!こっちだ!」

「おいおい、そっちでいいのかよ」


 後ろからも追手が来ているので、すぐ目の前の曲道を曲がる。

 しかし、そこに見える景色は……。


「行き止まり!?まさか誘導された?!」

「はあはあ、ヒヒヒ!そうでやんすよ~!」


 歩きながらこっちにやってきているラースの後ろから息たえたえ小柄な男のダズがそういう。

 やはりこの男には何かしらを感知する力があるのかもしれない。まあ、ただこのあたりの道を知っているだけかもしれないが。


「はぁ、懐かしいなあ手作り煙幕。魔物によってはすごい効くやつがいるから俺も作ってたなあ」

「いや感傷に浸ってる時じゃないでやんすよ!まだ目も痛いし、口の中も土の味がする出やんす……。それにラースさん走るの早すぎて追いつくのに必死でやんす……」


 二人は話ながらこちらにやってくるがラースはこちらから目を離さず、油断をしているようには見えなかった。

 ……少なくとも煙幕はもう聞かないだろうな。


「さて、自分で言うのもなんだが俺は器がデカいほうだ。だから最後にもう一度聞こう。取引をしないか?」

「おお!さすがラースさん!器がでかい! 」

「はは!そうだろそうだろ!」


 なーにが器がデカいだ。本当に器がデカいやつは自分で言わねーよ。

 ……って言ってやりたいが、今は少しでも考える時間を稼ぐために黙っておく。


「おいおいだんまりか?まあいい、どうせもう逃げられないからな。いくらでも待つぜ?まあ、変な真似したら切るけどな」


 男は剣に手を掛けながらそういう。気が付けばローブを着ている男たちも二人の後ろに待機していた。……本気で捕らえる気だな。


「……ナルミ」

「大丈夫だレンゲ。どうにかして助けを呼べば……」

「……もう、いいよ」

「……え?」

「……私が行けばナルミは助かる」

「……」


 一瞬何を言われたかわからなかった。しかしすぐに理解が追いつき焦りなが問う。


「な、なに言ってんだレンゲ!お前を見捨てるわけ……」

「……でもこの状況から逃げられる?」

「そ、それは……」


 正直に言えばこの状況から無事に潜り抜けることは絶望的といってもいいだろう。


「で、でも!二人で戦えば……」

「……それは無理かも」

「ど、どうして?」

「……これ」


 そういってレンゲは自分の手をこちらに見せる。

 その手は、いやよく見ればレンゲの全身が……震えていた。



「……あの人たちを見てると、体が震えて力が入らない。剣を抜くこともできない」



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