第17話 レンゲ


 鳴海が起きたのはだいぶ外が暗くなってからだ。


「……うーん、はぁ。今何時だ?……やべっ、もうすぐ日が落ちるっていうか、もう落ちてる!?早くギルドに行かなきゃ!あっ、レンゲちゃんは……まだ寝てるな。すぐ帰ってくるからね〜。」


 鳴海は1人で喋りながら服を整え、部屋を出で宿の出口に向かった。


「あっ、ナルミさん!もうすぐご飯ですけどどこ行くんですか?」


 ちょうどいたリラちゃんに問いかけられたので早口で答える。


「ああ、えっとね。依頼はクリアしたんだけど報告と納品を忘れててね。今すぐ報告してくるよ。」

「なるほど!了解しました!行ってらっしゃいです!」


 鳴海は「行ってきます」の意味を乗せた手を挙げ、猛ダッシュでギルドに行く。


 家に帰っている人で人通りが多くなっているので少し人目を引いたが、全て無視してギルドに向かった。


「はぁ、はぁ、やっと着いた……。」


 鳴海はギルドの前で深呼吸をして息切れを治し、扉を開けて中に入った。


 やはりこの時間帯は高ランク冒険者達が多く、列も長かった。


 鳴海は納品場の列を並び、十数分待った。


 その間に鳴海は周りの冒険者達を観察することにした。


 ちなみに『鑑定』スキルは使わなかった。魔力に敏感な人や、もしくは誰であろうと『鑑定』をされると何かしらを感じる可能性があったからだ。


(やっぱりすげぇ。身長が2m以上でムキムキの人とか普通に何人かいるし、女性冒険者には露出の多いいドレスとか着てい人とか居るんですけど……。今までこの時間帯になる前に宿に帰ってたからよく見てなかったけど、改めてよく観察すると個性の強い人多いいなぁ。もしかしたら名のある有名冒険者とかいるのかもしれない。それにしても今日はいつもより人が多い様な……。もしかしてレンゲちゃんのことが関係してる?)


 そんなことを考えていると鳴海の順番がやってきたようだ。


「おっす、おっさん。納品しに来たぞ。」

「おお、ナルミか。今日は遅かったな。どうかしたのか?お、スライムジェルか。討伐依頼だったのか?これはそこまで鑑定する必要はないからそこにいろ。」

「わかった。」


 鳴海は納品物のスライムジェルを渡しながら話す。


「そうそう、初めての討伐依頼だからな。それとちょっとしたイレギュラーが起きたんだよね。疲れてちょっと仮眠しようとしたらこの時間まで寝ちゃったんだよね。」

「なるほど。イレギュラー?なんかその話聞いたような……。ああ、思い出した。魔物の増加と違法奴隷のやつだな?そういやスライムの狩場はあの辺だな……。お前が報告したのか?」

「ああ、そんなところかな。」

「おお。お手柄じゃねぇか!」


 流石冒険者ギルドの一番冒険者からの情報が多そうな納品場だ。いや、門番さんがギルドにも報告するとか言ってたからギルド内全員に知れ渡ってるのか?


「ちなみにどこからの情報?」

「ん?ああ、受付の嬢ちゃん達から聞いたな。奴隷の方は国レベルの問題って言っても過言じゃないからな。魔物に関してはもしかしたら国から依頼が来るかもしれないしな。」

「なるほど。」

「ああ。……よし、鑑定終了。ほいよ。」

「おお、ありがと。」


 鳴海は納品場のおっさんから換金版をもらい、次は受付に並ぶ。


 受付の方が列は混んでいたが納品場より受付が多いいからかサクサク進んでいく。


 数分待っていると鳴海の番になったようだ。


「あ、ナルミさん!遅かったですね?あっ!そういえばナルミさんがを報告したんでしたっけ?」


丁度並んでいた列がララさんの受付だったようで、気が付いたララさんが意気揚々と話しかけてきた。 

多分とは、さっき話した魔物と奴隷の話だろう。


「ええ、そうですよ。」

「やっぱりそうでしたか。全く、どうしてダメって言ってるのにい言うことをする人がいるんでしょうね!あ、そのナルミさんが保護している子からナルミさんが聞いた話を元に高ランク冒険者が周辺の捜索をしたところ、崩壊した馬車と数人の人族の子供達の亡骸が発見されました……。」


 ララさんはしょんぼりしながらそのことを報告してくれた。


 ショッキングな内容で悲しみと怒りが湧いたが、気になる内容があったので少し聞いてみることにした。


「全員人族だったんですか?」

「……? ええ、全員人族の亡骸でした。」


 ……つまり、レンゲちゃんは人族の村に住んでいたということ?でもなんで?その村の近くに鬼人族の村があったとか?


 聞いてみたい気持ちもあったが、鬼人族の話は調べるまで知らなかったので、普通の人族は余り鬼人族に良いイメージを持ってない可能性もあったのでやめた。


「どうしてそんなこと聞くのですか?」

「え?ああ、やっぱり奴隷って言われるとどうしても獣人のイメージが離れなくて……。」


 ララさんの当然の疑問に鳴海は用意していたセリフを少し小声で返す。


 ララさんは「ああ、なるほど。」という感じで納得した顔になった。


「確かにその疑問は出てもおかしくありませんね。最近では同じ種族同士での奴隷用の人を誘拐する事件が多発してるんです。人族が人族を捕らえる理由としては、まず獣人は身体能力が高く、子供であっても捕まえにくいこと、人族を奴隷にした方がバレにくく人数も多いいので効率が良いから、と言われています。」

「なるほど……。」


 その情報は今まで捕まえた違法奴隷商人から聞き出したのかもしれない。


「現在、彼らの遺体を回収して服や顔に見覚えがないか聞き回ってるようです。他にも近くの村にも大量誘拐事件が起こったりしてないか調べているようです。」


 鳴海はその話を聞いて、やはり大事件なんだなと再認識した。


 これ以上話すと他の冒険者達に迷惑になるので換金版をララさんに渡す。


「あ、依頼達成報告ですね。えっと、『スライム討伐依頼』報酬の500ユルと、情報提供報酬の5000ユルです!良かったですね!あ」

「え?いやいや待ってください!情報提供の報酬ってなんですか?ていうか5000ユル?!」


 情報提供の報酬と言う初耳のことと、5000ユル、つまり大銀貨五枚というその日暮らしの低ランク冒険者からすれば大金の報告に驚く。


 するとララさんはふんすっと「何を当然のことを。」みたいなドヤ顔をした。


 何故ララさんがドヤ顔を……と思いながらララさんの話を聞いた。


「いいですかナルミさん。現領主様は大金を払い、冒険者と手を組んでそういう闇の部分を取り締まりました。まあ、もちろん全部捕まえたという訳ではありませんが、それでも半分以上は捕まえることが出来ましたし、最近まで一切動いてる様子がなかったんです!……でも、ナルミさんのおかげで活動開始の証拠を回収される前に見つけてくれたかもしれないんです!もしかしたら、これによってもっと大元を捕まえることが出来てもっと報酬が膨らむかもしれませんよ?」

「えぇ……。」


 あんまり目立つつもりがない分、鳴海は喜んでいいのやら悲しんでいいのやらわからなくなっていた。


 だが、お金が増える分には嬉しいので素直に受け取っておく。


「わかりました。ララさんがそこまで言うなら受け取っておきます。」

「はい!それでいいんです!」


 鳴海は報酬を受け取りそろそろ本当に迷惑になりそうなのと、レンゲのことも気になったので、話を終えることにした。


「では今日はこのぐらいにして帰りますね。」

「あ、はい!お疲れ様でした。」


 鳴海はそのままギルドを出て、宿に急いだ。

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