第18話 起床


 鳴海はララさんと別れた後、早歩きで宿に戻る。


 もうそろそろレンゲちゃんが起きるのではないかと気になってしょうがないのだ。


 宿が目に見える距離に着くと、さっきよりもさらに歩く速度を早め宿に入る。


 鳴海は受付のベルを鳴らす。するとすぐにリラちゃんがやってくる。


「あっ、やっぱりナルミさんですね!待ってましたよ!すぐにご飯食べますか?」


 リラちゃんは少し早口で話した。もしかしたら忙しいのかもしれない。


「うん、食べるよ。だけど先に連れてきた子見てくるよ。もしかしたら目を覚ましてるかもしれないしね。」

「なるほど。わかりました!でも、もう時間がないですから用意はしておきますね!」

「ああ、助かるよ。」


 鳴海はリラちゃんから鍵を貰い、すぐさま自分の部屋に戻る。


 レンゲはまだベットで寝ていた。

 鳴海は少し心配になり、レンゲの体を揺すって起こすことにした。


「おーい、レンゲちゃーん。朝……じゃない、夕飯ですよ〜。」

「う〜〜ん……。」


 鳴海はレンゲの体を揺すりながら、声をかける。

 するとレンゲは少し目を開け、ゆっくり体を持ち上げた。


 今まで瞼で閉じられて見えなかった綺麗な赤い瞳に少し感動を覚えながら鳴海はレンゲに声をかける。


「おはよう、レンゲちゃん。気分はどう?」

「……んぁ……誰?」

「俺だよ俺、ナルミさんだぞ。覚えてないかい?」

「……なる…み?……あ、ナルミか。思い出した。……ここは?」


 どうやらレンゲは寝ぼけて鳴海のことを忘れていたようだがすぐに思い出し、今いる場所に疑問を抱いているようだ。


「ああ、ここは俺が泊まっている宿屋だよ。安心してくれ。それと体は拭いておいたし、服は『洗浄クリーン』をかけておいたよ。」

「……宿屋?……そう、ありが……!?」


 レンゲは話している途中でいきなり目を見開き、恐る恐る頭を触る。


 すると直ぐにベットに掛かっているシートでみを隠した。


 鳴海は突然の行動に驚いたが、すぐに理由を思い当たる。


(どうしたんだ!?……はっ!?もしかして全部脱がせたと思われたか!?それはやばい!確かに親切心とはいえ、女が男に体を見られるのは嫌か!勘違いで変態呼ばわりされるのはごめんだ!)

「あっ、いや〜その〜ね?拭いたのは手と足だけで他は拭いてないって言うか、『洗浄』をかけたって言うか……。」

「……見たの?」

「え?いや、その、え〜と。」

「……角、見たよね?」

「え?あ、角?あ〜、それは見たな。」

(はっ!?もしかして未成年の鬼人族は角を見られたらダメとか?!それならやばい!素直に謝らなきゃ!!)


 鳴海はそう勝手に解釈しすぐさま土下座するために膝をつこうとするが、その前にレンゲが先に喋った。


「……怖く、ないの?」

「へっ?怖い?何が?」


 鳴海は困惑して何が何だかわからなくなっていた。


(な、何が怖いんだ?……はっ!?まさか、通報されるかどうかか?!怖い!怖いです!まだ異世界の旅がしたいです!捕まりたくありません!)


 鳴海は混乱した頭で的外れなことを考える。


「……気持ち悪くないの?」

「あへっ?!め、め、め、滅相もない!むしろ可愛いというか、愛らしいというか、なんというか……。」

「……可愛い!?」

(おや?可愛いに反応した?)


 鳴海は混乱した頭を少し冷まし、何とか見つけ出した活路を突き進む。


「はい!可愛いです!なんというか、綺麗で美しくて愛らしくて、もうすんごいです!」

「……あ、え、う……。」


 レンゲは恥ずかしそうな声を出し、何と言えばわからなくなっていた。

 鳴海は何とか許しを貰うために低下した語彙力でもはや何を褒めてるのか分からない状態で何とか褒める。


「……うぅ〜、わかった!わかったから!」

「あ、はい。すいません。」


 鳴海はレンゲの少し怒ったような講義の声を聞いて、何だかシリアスをぶっ壊したようないたたまれない気持ちになった。……実際、そうであるが。


 少しの間、レンゲと鳴海は見つめ合う。


 すると、レンゲが意を決したように話し出した。


「……本当にナルミは角が怖くないの?」

「あ、ああ。」

「……本当に?」

「うん。」

「……本当の本当に?」

「ああ。むしろ何が怖いのかが分からない。」


 鳴海からすれば、確かに角があることは魔物とかを連想するといえばそうだけど、それがどうしたって感じだった。


 HENTAI部族であるJapaneseO☆T☆A☆K☆Uである鳴海からすれば、むしろ美点だった。


 レンゲは鳴海のその屈託のない(?)瞳から本気だと分かり、安心と一緒に恐怖も抱いているようだった。


「……絶対に私のことを嫌わない?」

「ああ、絶対にしない。」

「……神に誓える?」

「ああ、神に誓って絶対に君を嫌ったりしない。」

「……わかった。」


 レンゲはそういうと、ゆっくりとシーツから出てくる。


「な?別に怖くないぞ?」

「……本当に怖くないんだ……。」

(もしかしたら角のことで誰かに怖がられたり、もしくは気味が悪がられたりしていじめられたりされたのかな?)


 鳴海はレンゲにかける言葉が思いつかず、少し悩んだが、すぐにリラちゃんが夕飯を作ってくれていたのを思い出す。


「そうそう!お腹すいてるでしょ?食べに行くよ!」

「……えっ!あ、待って!」


 鳴海はレンゲの手を引き、食堂に行こうとしたが、レンゲちゃんは慌てて折りたたんでおいたローブを着た。


(やっぱりまだ誰かに見られるのは嫌なのかな?)

「怖いの?」

「……うん。それに知らない人に顔を見られるのもあんまり好きじゃない。」

(じゃあ、なんで俺には見せてくれたの?なんて、野暮なことは聞かない。別に鈍感主人公目指してないし勘違い野郎にもなる気はない。素直に信頼を勝ち取ったと思っておこう。)


 鳴海はレンゲを連れ、食堂に行く。


「あ、ナルミさーん!遅いですよ〜。も〜。」

「ごめんごめん。」

「も〜、ん?その方はお昼の?」

「うん、そうだよ。もう一人分頼めるかな?」

「わかりました、ちょっとまっててください!」


 そう言ってリラちゃんはキッチンに入っていった。

 鳴海と初めてあってリラちゃんの成長具合が目に見えてすごくなっていた。

 初めて鳴海会った時からしっかりしていたが、まだ緊張してガチガチになっていた。

 しかし、たった1ヶ月で今となっては常連さんも新しく来た人にも慣れたように接客していた。


 鳴海はやっぱり俺より大人だなぁ、と思っていると、リラちゃんが2人分の食事を持ってきた。


「はい!『日替わり定食』二人分だよ!しっかり食べて元気つけてくださいね!」

「ああ、ありがと。」

「……」


 レンゲはまだなれないのか黙ったままだったが、リラちゃんは気にせず「ではごゆっくり!」と、キッチンに戻って行った。


「ほら、食べよ?」

「……うん。」


 レンゲは恐る恐るスプーンを持ち、食べ物を口に運ぶ。


「……美味しい。」

「だろ!ここの飯はめちゃくちゃ美味しいんだ!」


 レンゲはそのまま黙々と食べ始めた。

 鳴海はそれを見て安心し、自分もと手を動かした。


 ポトッ、ポトッ


「ん?」


 なにか液体が落ちるような音がして、なにかこぼしたかな?と自分の手元を見るが零れていない。


 もしかしてレンゲちゃんかな?と思い、レンゲの顔を見ると、レンゲちゃんは泣いていた。


「……暖かい。」


 鳴海はその声を聞いて、驚いたと同時に少し心が傷んだ。


 もしかしたら今まで暖かいご飯どころか、まともに食べ物を食べて来れなかったのではないかと思った……いや、ほぼ確定だろう。


 多分だが、誘拐されるまで住んでいた村で角を見られ、村人達に迫害されてまともに食料が手に入らなかったのかもしれない。


「これからは何時でも暖かいご飯が食える。だから安心して、いっぱい食べな。」

「……うん。」


 レンゲは鳴海の言葉に涙声で答える。


「あ〜、ナルミさんが女の子泣かしてる〜!女の子には優しくしないとダメですよ〜!」

「なっ!ちょっ!違う!そういうのじゃないって!」

「何が違うんですかー?女の子ってことには否定しないってことはその子女の子なんでしょー?なら違わないじゃないですかー?」

「うっ、そ、それは……。って違って言ったら違う!」

「きゃー♪私も泣かされちゃうー♪」

「えっ!?待っ!?どういう意味?!そんなとこだけおっさんに似ないで!いや、フェナさんか?!」


 いきなりやって来たリラちゃんに茶化され、またもやシリアスがぶっ壊れた。

 まあ、リラちゃんがそれをわかって茶化して来たのかもしれないけど。


 ちなみにフェナさんとはリラちゃんのお母さんのことだ。


(リラちゃんしっかりし過ぎだろ……。将来が怖いよ。)

「……ふ、ふふふ。」


 鳴海は涙を拭きながら小さく笑うレンゲを見て、ほっこりしながらリラちゃんに感謝した。

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