第9話 夕食

 コンコンコン…

「ナルミさーん?起きてますかー?ご飯ですよー?」


 ドアが叩かれる音と、女の子の声がして目が覚める。


「あっ、そうか。俺、異世界転生したんだった…」


 少しボーッとしていたが頭が鮮明になっていく。


「ナルミさーん?」

「あ、ごめんごめん。すぐ行く!」


 服と髪の毛を直し、ドアを開ける。


「起こしてくれてありがとう。少し仮眠する気が、ぐっすり寝てたよ。」

「いえいえ〜、それがリラの仕事ですから!あっ、またリラって言っちゃった……。自己紹介じゃ、私って言えたのに……。」


 あ〜、なるほど。年頃の子供にはありそうな悩みだ。


「大丈夫だよリラちゃん。そういうのはそうやって意識してやめていたらいつか無意識でできるようになるし、そういうのが大人になるってことだと思うよ?まあ、きっと俺よりリラちゃんは大人だよ」


 現代社会みたいに職業の自由なんてほとんど浸透してない異世界。平民ならほとんどは親の仕事を受け継ぐのが基本だ。だとしてもこの歳からできるといえば違うと思う。まあ、文化が違いすぎるだけかもだけど。


「え〜、そんなことないですよ〜。えへへ」


 と、顔を赤らめ、モジモジしながら言うリラちゃん。はい、可愛い。


「と、とにかく!ご飯なので来てください!」

「うん、わかった。」


 そう言うと歩き出したリラちゃんを追う。その後ろ姿からちょっと見える顔は、まだ少し赤かった。


 宿屋の食堂に着くと、この宿屋のほかのお客さんだろう。


「では、適当なところに座ってください!」

「わかったよ。」


 適当なところに座り少し待っていると、リラちゃんがメニューのようなものを持ってきた。


「はい!この中から選んでください!」


 内容を見てみると、『日替わり定食』と、『雨宿り亭限定オリジナル料理』と、『焼き魚定食』と、『焼肉定食』だった。『雨宿り亭限定オリジナル料理』は追加でお金がかかるみたいだ。なかなかいい商売してるなぁ。お金が無いので節約のために今は我慢しよう、収入が安定してからだ。


「じゃあ日替わり定食をお願いするよ。」

「かしこまりましたー♪」


 リラちゃんが厨房に消えたあと数分で料理を持ってやってきた。少し不安定で危なっかしかったが、何とかここまで持ってこれたようだ。


「はい!日替わり定食です!」

「ありがとう」


 食べる。美味しい。なるほど、ここをおすすめにする理由がわかった。安いし美味しい。完璧だな。

 完食し、席をたとうとする。


(あ、チップとか渡してない。もしかして受付の時点で渡さなきゃダメだったかな?でも、料理渡されてからも催促するような目どころか、渡す暇もなく厨房に行ちゃったんだよな……。)


 すると、食べ終わったのが見えたのか、リラちゃんがやってきた。


「食べ終わりましたか?」

「ああ、うん。美味しかったよ。」

「ほんとですか!良かったです!」


 うん、この笑顔に貢ぐ(チップ)ことが出来ない世界なんて滅んでしまえ。

 そんなことを思いながらポケットに手を突っ込み銅貨を1枚取り出し机に置く。


「あっ…」

「じゃあ、俺は部屋に戻るよ。ご馳走様。」


 リラちゃんは、銅貨を見て少しの間呆然としていたが、すぐにこちらを見て笑顔で言った。


「はい!ありがとうございます!」


 リラちゃんが今日1番に元気な声でそう言った。そんなにチップが嬉しかったのだろうか?少し苦笑いしながら部屋に戻った。



 ……………………………………………………

 **sideリラ**


 私の名前はリラ、宿屋『雨宿り亭』の店主の娘。


 今日はな宿屋のお手伝い。今までもお手伝いはしてきたけど、ご飯を運んだりお皿を洗ったり、ベットを綺麗にしたりするぐらいで、表立っておてつだいすることはなかった。でも、お母さんと受付とかの練習してて、いつでもできるようにしてた。

 今日の朝、急にお母さんが風邪でお店どころではなくなった。お母さんは「大丈夫だから!」って言っていたけど、私でもわかるぐらい顔が辛そうだった。

 最初はお父さんが止めようとしたけど、ダメだったので私が頼んだら大人しくなってくれた。なんの違いがあったんだろう?まあいいや。


 それより今はお店のことだ。お母さんが風邪だからって休む訳には行かない。お父さんは料理で忙しいから、受付は私がするしか無かった。


 今日は偶然にもお客さんが少ない日で、思ったほど忙しくなかった。私がやるしかない!って思ってたけど。お父さんが忙しくない時はお父さんが受付をしてくれたので特に私がすることは無かった。


 お昼も過ぎ、もう来ないかな?と、思い始めた頃。お父さんもそう思ったのか、料理の仕込みを始めるから変わってくれと頼んできた。もちろん、すぐに交代した。


 最初はウキウキして待っていたけど、時間が経つにつれ段々と不安になってきた。噛んだらどうしようとか、計算を間違ったらどうしようとか、怖い人だったらどうしようとか。どうしようもない不安が出てきた。でも直ぐにこんなんじゃダメ!って気合いを取り戻すと、ちょうどお客さんが来た。なので直ぐに大きな声で、今まで練習してきた言葉を言った。


「いらっしゃいませー!お泊まりですかー?1泊銀貨2枚ですよー?食事付きなら銀貨2枚と銅貨5枚ですー!」


 大丈夫かな?噛んでない?変なこと言ってない?少し心配でお客さんの顔を見るとお客さんは少し驚いた顔をしていたけどすぐに笑顔で返事をしてくれた。計算が早くて貴族様かどうか聞いてしまったのは失敗だ。


 ご飯ができたのでお客さんの中で今も部屋にいる人たちを呼びに行った。そして最後の一人がナルミさんだった。


 ナルミさんは寝ていたのかすぐには出てこなかった。自分のことをリラって言っちゃったのは失敗だけど、私のことを大人って言ってくれたのは嬉しかった。でも、まだまだ私は子供だ……。


 そして、今日1番嬉しかったのは最後にナルミさんから貰った、チップの銅貨だ。今後宿屋で働いていけばもっと貰えるだろうけど、初めて自分で稼いだお金みたいな感じがして、(というかそうなんだけど、)とても嬉しかった。

 お仕事が終わった後、お父さんとお母さんに自慢した。少し子供っぽいかな?って思ったけど、今日ぐらいいいかなって思った。お父さんとお母さんは、私のことを褒めてくれた。この銅貨は、思い出の宝物にしようと思う。


 今日は1日よく頑張ったし、よく寝よう。

 おやすみなさい!



 ……………………………………………………


 予約投稿間違ってミスって先週2話投稿しちゃった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る