第17話 狩り場の動乱

 蔓に巻かれた状態で小屋の外に出されたシルとラッコの二人はそのまま鉱山地帯が見下ろせるほどの高さに持ち上げられる。

 ラッコもシルも初めての高さに身体が竦んでしまった。

 少し冷たい夜風に当てられながらも眼下を見下ろすが、暗くて地上の様子はわからない。

 ヨヨはまかせてほしいと言っていたが、いったいどうするのか。

 そんなことを考えていると闇夜の中で青白い爆発があった。

 しかし、火薬のように周囲の家屋などを燃やしている様子はない。

「あれはフレイトの爆発?」

 シルが呟くと今度は暖色の爆発が見える。

 こちらは火薬のようで、いくつかの家屋に飛び火して火災を広げていた。

「もしかして、ヨヨが戦ってくれてるの?」

 ラッコは爆発の光に照らされる獣人の影と、無数の蔓のシルエットを発見する。

 彼の予想通り、地上ではヨヨが獣人たちと争っていた。

 いや、正確には獣人を狩っていた。

 獣人の賊たちを纏めるハンモは残った数人を連れて抵抗するが、それも魔物であるヨヨには大した意味を成していない。

 ハンモたちはかつてこの鉱山で使われていた掘削用の爆薬を使ってヨヨへ攻撃を仕掛けるが、かつてここにいた鉱夫たちと争って生き延びた魔物にそんなものは通用しない。

 獣人たちの攻撃は落盤にも耐えられる強固な蕾はもとより、蔓さえも満足に破壊できずにいる。

 ヨヨの本体は厚い皮と繊維に加え、組織の内部に通っている管は大量の水分を含んでおり、衝撃だけでなく炎にも耐性がある。

 獣人たちはむしろ、自分たちの使った爆薬で火災を広げてしまい、逃げ場を狭めることさえあった。

 そんな一方的な戦闘に拍車をかけたのはヨヨが地下から掘り出した無数のフレイトの結晶だ。

 ヨヨはラッコたちを待たせていた時間で地下のフレイト鉱石を砕いて精製し、結晶上にしていた。

 多数の蔓から投げつけられたフレイトの結晶は地面の近くでぶつかり合い、衝撃で爆発する。そのたびに青白い光とともに衝撃が広がって獣人たちを追い詰め、ときには命を奪っていく。

 ここはもうヨヨの狩場になっているのだ。

 魔物の圧倒的な力を目の当たりにしたラッコは背筋の凍るような思いをする。

 シルも同様に身を強張らせていると、不意に蔓が動いて地上へと降ろされた。

 眼前に黒い人型のシルエットが近づいて来る。ヨヨだ。

「待たせたなシル」

 ヨヨはそう言うと、シルとラッコを蔓から解放する。

「最後まで予がやるつもりだったのじゃが、それだとシルは納得できないじゃろ?」

「うん」

 シルの目的は両親の敵討ちだ。彼女は家族を殺した賊の頭を討ってこの復讐に決着をつけたい。

 ヨヨは自分が全ての獣人を手にかけるのが一番安全で確実だと理解していても、それをシルに言い聞かせようとはしなかった。

 彼女をここで押さえつけても、シルの心は救われないと知っているからだ。

「シル、ここまでは予のお膳立てと思ってほしいのじゃ。この後は二人に決着をつけてもらう。予は残った取り巻きの獣人を蹴散らすことに専念するのじゃ」

 ここにいる獣人の中で最も強いのはハンモだが、リーダーである彼を討ち取るのが目的なのでそこはシルとラッコでやらなければならない。

 ヨヨの攻撃によって獣人側は混乱や負傷、戦意の喪失など、望外とも言える状況になっているがハンモが格上であり、依然として高い戦闘力を持っているのは変わらない。

「わかったよ。ありがとう、ヨヨ」

 シルはここまで協力してくれた魔物にお礼を言う。

「最後まで気を抜く出ないぞ」

「ヨヨも気をつけてね」

 ラッコは自分たちに助力してくれるヨヨを心配したが、これは不要な言葉だったかもしれない。

「うむ」

 ヨヨは特に気にした様子もなく蔓と共に獣人たちの元へ向かう。

 ラッコとシルも賊の落とし物らしい落ちている短剣や金属の棒を拾って移動し始めた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る