第14話 親あるいは子。もしくはヨヨの指針。
「予定変更じゃ」
シルとラッコが獣人に襲われた直後、ヨヨは二人の救出のために動き始める。
蔓と根を使って地中を掘り進みながらヨヨは物思いに耽っていた。
植物型の魔物であるヨヨは、種子を撒くことで子孫を残している。子孫と言っても自身の記憶や魔力を引き継いでいるため、正確には生まれ変わりである。
前回のヨヨが種子を放った際、種子は偶然にも地下水脈へと流れてしまった。
流れに流れ、たどり着いたのはフレイト鉱石を採掘する鉱山の地下。
水とフレイト、採掘のために掘り返された柔らかい土。
そこはヨヨにとって天国となるはずだった。
しかし、ヨヨを見つけた亜人の採掘者たちは魔物を敵視して攻撃する。
ヨヨは強力な魔物だったが、それでも種子から生まれ変わったばかりのときは満足に力を発揮できない。
ヨヨは時間を稼ぐべく根を張って体を固定し、大きな蕾の中に身を隠した。
亜人たちとの争いは昼夜を問わず何日間も続いた。
採掘者である亜人たちは労働のための人員をヨヨの討伐に回し、採掘用の爆薬などを使って根を破壊し続ける。
ヨヨはしぶとかったが、根を破壊されたことで地面の下に埋まっているフレイト鉱石から魔力を吸収することができなくなってしまう。
亜人たちはここぞとばかりにヨヨの蕾を破壊して止めを刺そうと試みるものの、残った蔓が不用意に近づいた亜人たちを捕らえる。
捕らわれた亜人たちは巨大な捕虫嚢で溶かされてヨヨの養分となった。
時間をかけたヨヨと亜人たちの戦いは互いに消耗戦だった。ヨヨは初回こそ亜人を捕らえて養分にできたが、それ以降は亜人たちが警戒して近づかなくなったために養分を得られなくなってしまう。
亜人たちも犠牲や費用の問題からヨヨの討伐を断念。また、爆薬を手当たり次第に使ったことで坑内が崩落しかけていること、他の坑内でもヨヨや魔物を怖がる作業者が増加したことなどからこの近辺での採掘自体もできなくなってしまった。
亜人たちはここを閉鎖することに決め、残った爆薬でヨヨの周囲にある岩盤を崩落させる。
亜人たちはこの地を去り、ヨヨは生き埋めにされたのだ。
蕾と無数の草花をクッションにしたことで致命傷こそ負わなかったものの、消耗したヨヨは周囲を埋め尽くす硬い岩を砕くこともどかすこともできずにいた。
爆薬で露出した無数のフレイト鉱石を前にして、それに手を伸ばすことはおろか見ることさえもできない状態で過ごすこととなる。
もはやこれまで。このまま朽ちていくのを待つばかりと思っていた矢先に現れたのがシルとラッコの二人だった。
ヨヨにとって二人は命の恩人であり、赤子に乳を与える慈母の如き存在として映る。
それと同時に、ヨヨはまだ未成熟である彼らを子どものように庇護すべき対象としても捉えていた。
ラッコとシルに出会ったことでこのヨヨの生涯は決した。
二人に命を捧げる。根が千切れ、蔓が焼け、花弁が散り、茎が折れ、繊維の最後の一本まで彼らのために使うと。
そう誓ったのだ。
思考がそこまで至ったとき、蔓の先端が土と石以外のものに触れる。
地上はもう、すぐそこだった。
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