第3話 キミの言葉を知りたい
旅に出たラッコとシル。2人は街道を通って近くの村を目指していた。
2人は道中何度かの休憩を挟みながら移動を続ける。
休憩が多い理由はいくつかある。
例えば、荷物が多く体力を消耗しやすいこと。これはラッコがシルに比べて身体能力が劣っていることにも関わっており、ラッコのペースに合わせて移動することになった。
また、移動ルートの確認や修正もある。まだ目に見える被害がないとはいえ、戦火から逃れることが目的なのは変わりがない。そのため、道中で出会った人々から得た情報などを頼りにルートをチェックする必要があった。
ルート確認のため、岩に地図を広げたシルは地名らしき文字列や街道などを指差してラッコに説明した。そのとき、シルはA4用紙くらいのサイズの紙の束と鉛筆のようなものをラッコに渡した。
ラッコはシルの説明の全てがわかるわけではなかったが、おおよそ言わんとしていることを汲み取ってメモしていった。
さらに、地名らしき文字列や記号を写し、シルの発音もカタカナで表記した。
ラッコは記録しながらあることに気がついた。シルは紙の本を所有しており、筆記用具や紙も多く持っていた。
この世界の紙は、もちろんプリンタ用紙のようなものではない。しかし、ある程度の質の紙を、比較的安価に大量生産できるような製紙技術が確立されているのだろう。
こうして、ラッコはこの世界のことをまた一つ知った。そして、紙が普及していることは、この世界のことをこれから学んでいく上で重要な要素でもあった。
ラッコが記録をつけている姿を見たシルは、休憩後の移動で歌い始めた。
歌いながら、空や草花、鳥などを指差していった。
ラッコはシルが歌っている意味がよくわからなかったが、シルが筆記のジェスチャーをして見せたことで理解した。
きっと、シルが歌っているのは、子どもが学習するための歌なのだ。周囲のものを指差すのは「名詞」で、身振り手振りで表すのは「動詞」なのだろう。
ラッコはシルの歌に合わせてもらった紙に記録していった。
ラッコにはこの世界の文字がわからないため、シルの発音をカタカナで表記し、意味を日本語で記した。文字がわかるようになれば、正式な単語も記入できるようになるだろう。
ラッコはようやくこの世界のことを知る足掛かりができたように感じた。
少し明るい気持ちになったラッコはシルの真似をして、(聞き取れた単語の部分だけ)歌いながら歩いた。ラッコに合わせてか、シルは少しだけゆっくり歌う。
夕暮れ前に目的の村に辿りついたとき、ラッコはいくつかの単語を覚えることができた。
宿にたどり着いた2人はまず入浴。ラッコの入浴中も足の傷は染みなかった。シルが用意してくれた薬のおかげか、だいぶ良くなったらしい。
食事の際、シルは大食だった。ラッコも空腹だったが、シルほどは食べなかった。
これまでラッコと一緒に食事したときは、シルがこれほど食べることはなかった。
シルは大食だが、食べ方が汚いわけではない。むしろシルの食べっぷりと仕草にラッコは見惚れてしまう。
「大食は命の取り越しって聞いたことがあるけど、シルの場合は生命力に満ち溢れているね」
何気なくそんなことを呟いてみる。
満腹になったシルは、少なくとも近いうちに死んでしまいそうには見えない。
幸せそうな顔をする食後のシルをラッコは愛しいと思った。
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