逃避行
シュンさんが運転するトラックは街の広場から東に向かう道を人を避けながら走って、そのままの勢いで街を抜けた。街の東側には荒野が続く。
「このトラック、どうしたんですか!?」
「トラックってこの魔法車のことか? いや、目玉商品として中央王国から仕入れて来たんだが、西の国では魔法を使える人間がいないから全然売れなくてな……。ずっと倉庫に眠ってたんだわ。」
「リョウを助けてくれてありがとうございました。これでどこまで行けるんですか?」
ミネが聞いた。
シュンさんは顔を隠していた布を取って言った。
「まあ、行けるとしても隣の街までだな……。おい、リョウ! それより、この魔法車、すげえ燃費悪いんだよ! もう俺の魔法力が尽きそうだ! お前が代わりに魔法力を供給してくれ!」
「あ、はい。」
ボクは荷台にあった土の魔法陣に触れて魔法を流し込んだ。本当ならここに予備の魔法タンクを接続するのかもしれない。
「このまま中央王国まで行って!」
そう叫んだのはルカだった。
「おいおい、魔法使いの嬢ちゃん、中央王国って……。この魔法車でも二日はかかるぜ。それに俺どうするんだよ? 帰れねえじゃん。」
「帰る気だったの? きっと今頃、あの街には魔女が着いているわ。私たちの居場所もバレているはず。」
「魔女ぉ!? はあ、マジかよ……。」
シュンさんは大きなため息をついた。
話には聞いていたけど、魔女って何なんだろう。魔法使いとは違うのか? ルカは眉間に皺を寄せて何かに怯えたような顔をして小刻みに震えている……。
「魔女が来る……。魔女が来る……! 魔女が来る……!!」
両腕を組んで震える自分の体を抑えるようにしていたルカが、急にボクの方を見た。
「ドラゴン、今ならまだ間に合うわ! 力を寄越しなさい!」
「え!? いや、無理!」
「黙って言うことを聞きなさい!」
魔法車に魔法を流して込んでいて体勢を動かせないボクにルカが抱きついて、後ろからズボンの中に手を突っ込んでくる。
「ちょっと! 妻の私の目の前で堂々とリョウに何してるの!!」
ミネが、ボクのズボンを脱がそうとするルカの首を締める。
「うるさい! あなた死にたいの!?」
それでルカがボクから離れ、今度はミネの方に向かい押し倒し取っ組み合いになった。ミネとルカが掴み合いになって荷台の上をドタバタと転がる。
「ガキども! 後ろで暴れるんじゃねえ!」
「あ!!」
急に魔法車がブレーキをかけて停止した。ボクらは荷台でバランスを崩して倒れた。
「シュンさん、どうしました?」
運転席のシュンさんが前方を指さしている。ボクが荷台から顔を出して魔法車の進行方向を見ると、そこに黒い服に身を包んだ白い髪の老婆が立っていた。シュンさんはこの老婆にぶつかりそうになったのでブレーキを踏んだのだ。
「あ、あいつ、急に空から目の前に降りて来やがった……。」
「空?」
老婆は魔法車の前に立って退こうとしない。よく見ると老婆は裸の少女を脇に抱えている。……あれはプリンだ。
ルカが緊張のせいかカラカラになった声で言った。
「魔女……!! もう追いつくなんて……!」
あれが、魔女!
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