ドラゴンVS魔女!

「こうなったら、ドラゴン……、あなたが魔女と戦うしかないわ……。」


 ルカがボクの背中を押してボクに魔女の前に姿を現すように促した。

 やっぱりそうなるか……。ボクは覚悟を決めて魔法車から降りた。続いてルカも荷台から降りた。ミネには荷台の影に隠れてもらった。


「俺は見逃してくれねえかな……?」

「無理ね。」

「だよなあ……。」


 シュンさんは運転席の中から外には出なかった。

 なんだかわからない威圧感を魔女から感じる……。魔女はまだ何も喋っていないのに、ボクらはもう逃げられないという実感があった。



 魔女は魔法車の前に出たボクとルカを見て言った。


「まったくアンタたち、手間をかけさせてくれたね。」


 魔女は杖を持っているように見えない。どこかに隠しているのだろうか。


「ルカ。就活に失敗したところを拾ってやったのに恩を仇で返しやがって。さあ、ドラゴンをこちらに渡しな。」


 魔女の問いかけにルカは沈黙して何も答えない。ボクを引き渡したところで魔女が許すとは思えないということだ。

 魔女はジッとボクらを睨んだまま動かない。少しの時間、沈黙が続いた。


「ボクはあんたのところにはいかない。」


 その沈黙に耐えきれず、ボクは言った。


「……ドラゴン! 悪いけど憑依者には用はないよ。黙ってな!」


 魔女がそう言うと、急にボクの首に何かが巻き付く感触があった。

 え!? 苦しい! 首を絞められてる!? ボクはそれから逃れようとして手を首の周りを探ったが、ボクの手は空を切り首の周りには何もない。魔法で首を絞められている!


「変身して!」


 ルカが言った。

 ボクはすぐにドラゴンになる。太くなったボクの首がその周りにあった何かを破った感触があった。


「ふん! ルカ! アンタ、そういうつもりかい!」



 ルカが杖を構え白い塊を魔女めがけて飛ばす! しかしそれは魔女の前で弾けて消えた。


「あなたも魔女を攻撃して! 防御に魔法を使ううちは、私たちを同時には攻撃できない!」


 ボクも水球を飛ばして魔女に当てようとしたが、やはり魔女の前で弾けて消えてしまう。それは何度やっても同じだった。


「ったく、遊んでやってるんじゃないんだよ!」


 魔女が叫び、両手を広げたかと思うと、みるみる魔女の顔が黒く大きくとんがり体も大きくなって、巨大なカラスのような姿になった。


「魔女も魔物!?」

「いいえ、魔女は人間よ。でもいくつもの魔物の力を魔法で身につけているの!」


 目の前の魔女はもう完全に巨大カラスになっていて人間の面影はない。


「ほんと能無しばっかりだよ!!」


 魔女は地面に転がしていたプリンの体をクチバシで挟んで宙に放り投げるとバクリとそのまま丸呑みにした。

 そして更に魔女の体が大きくなった次の瞬間、地面からプリンの魔法と同じように木の根が伸びてきてボクの体に巻き付いた! ヤバイ!! この木の根はさっき破れなかった!


「リョウ! 土の魔法で地面の形を変えろ! その根っこを切るイメージをするんだ!」


 シュンさんの声が聞こえた! 無我夢中でボクは両手を地面につき、木の根の周りの地面に土の魔法を使って何か鋭い形をイメージする。地面がジャキリと刃物のようになって木の根を切断した。ボクに巻き付いていた木の根は切断されたことで枯れて、ボクは自由になることができた。



 よし! ボクは更に地面に土の魔法を流し込んで、地面を針のように変形させて魔女に当てようとする。

 しかし、巨大カラスになっている魔女はそれを空に飛んで避けた。


「小賢しいね!」


 空に飛び上がった魔女が羽ばたくと、空から何かが降ってきた。


「あぶない!」


 それは大きな石の雨だった。ボクとルカだけじゃなくて、ミネとシュンさんがいる魔法車を狙ってきた! ボクは体と羽を使って魔法車を庇う。背中に大きな石が当たる。痛い。

 ルカが杖を持って何かを唱えると、魔法車の形が変わって屋根が出来上がった。


「ドラゴン、魔女はまだあなたが欲しいみたいね。殺してしまうほどの威力の魔法は使えないんだわ。こっちは私が魔法で守るから、あなたは魔女に集中しなさい。」

「わかった。」

「リョウ! その姿なら魔法陣が無くても魔法が使えるんだな? これは知り合いの憑依者から聞いたことなんだが、憑依者の魔法は魔法陣みたいな平面じゃなく、なんかこう、立体的に組み合わせることができるらしい。」

「立体的?」

「さっきもイメージ通りに魔法が出来たろ? 手の魔法を憶えてるか? あれを使え。もっと魔法を自由に動かせ!」

「自由に……。わかりました。やってみます。ありがとうございます!」


 立体的なイメージ……。動かす……。そうか、魔法はもっと柔軟な使い方ができるのかもしれない。



 空の安全圏から魔法で石を降らせてくる魔女を見据え、ボクは魔女に攻撃を当てる魔法をイメージした。風の魔法を一つじゃなく二つ、いや三つ円形に並べて、その中心に水の魔法を置き、手の魔法でグルグルとかき回す……。

 できた! 竜巻の魔法だ!

 ボクが作った竜巻はボクの思い通りに動き、魔女に迫った。


「これだから憑依者はバカみたいな魔法を使う!!」


 しかし、魔女はギリギリのところを避けていってしまう。

 ボクはもう一つ竜巻の魔法を使るため魔法を配置しようとしたが、風の魔法を三つ並べたところでもうこれ以上の魔法が出せないことに気付いた。これはおそらく同時に使える魔法の限界値だ。ドラゴンの姿のボクの限界値は八つ!

 つまり魔法の組み合わせと順番が大事だ!

 ボクは竜巻の魔法で魔女を誘導し、その先に土の魔法と手の魔法で壁を作る。魔女が壁にぶつかる直前で急旋回したところで、ボクが風の魔法で空を飛びあがり魔女に体当たりをした!


「ぐっ!」


 そのままボクは魔女に捉まり近距離で炎を浴びせる。土壁の魔法を解除した分、火の魔法を二つ重ねて火力を上げる。

 ダメだ! 魔女の羽を焦がすくらいのダメージしか与えられていない!


「この! 私を! 舐めるんじゃないよ!」


 ピカッと周囲が光ったかと思うと、ズドンとボクの背中に衝撃が走った。ゴロゴロゴロという音が後から空に響く。雷!? 雷の魔法で撃たれた!?


「ああああ!」


 背中が焼けるように熱い。いや本当に焼けているんだろう。魔法を維持できなくて地面に向けて落ち始めている。

 魔法が全部解除されるほどの衝撃だ! ……それでもボクは意地で魔女を離さなかった!

 このまま、やられてたまるか! くそムカツク!! もう一度炎を吐くぞ! 火の魔法を四つ重ねて周囲に風の魔法を四つ配置し、最大火力を出す! イメージはゴジラだ!

 ボクが全力で吐いた炎はガスバーナーのように直線になって魔女の右腕を焼き落とした!


「ぎゃああああ!」


 魔女が悲鳴を上げる!

 ピカッ! ズドン!


「ぐああああ!」


 またボクの背中に雷の魔法が突き刺さる!

 ボクと魔女はキリキリともつれ合いながら落ちて、ドスンと地面に叩きつけられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る