ドラゴンVSブタ!
屋根を転がって大通りに落ちたブタはそのまま大通りをヨロヨロと歩き、大通りにいる女性を襲おうとする仕草をしては逃げられている。ブタの動作が鈍くなっているおかげで幸いにも誰かが捕まるということは無さそうだった。
しかし、街は大混乱だ。
逃げ惑う人々と、あちらこちらに通り沿いの店の売り物や落とし物が散乱して、いつもの大通りの光景が見る影もない。
ボクは空の上からブタの顔を確認した。ブタの表情は虚を見ているようで、とても正気とは思えなかった。
ボクは街の広場に着陸することにした。大通りでは少し狭いと思ったからだ。
広場に着陸すると今度はボクがワーキャーと街の人から悲鳴を浴びた。
大通りの巨大ブタと広場のドラゴン、……怪獣大決戦だ。そりゃそうなるな。
大通りにいたブタが広場のボクを見つけたのか、四つ足で構えたかと思うともの凄い勢いでボクに突進をしてきた。
「ブヒーーー!!」
もう言葉も忘れたか、プリン!
ガシッとボクはブタの突進を受け止めて、そのまま捻じ伏せようとした。
しかしブタは首を振り暴れるのでなかなか動きを止められない。ブタが跳ねたかと思うとボクはみぞおちに蹴りを食らってしまった。
「うげっ。」
ボクは腹を押さえて倒れ込んで広場の噴水にぶつかった。その瞬間を好機とみたブタはボクの腕に噛みついてくる。
「痛い!!」
ブタの歯がボクのドラゴンの腕に食い込んでいる。ヤバイ! 肉を噛みちぎられる!
ボクはブタの顔面に炎を吐きかけた。
「ぐぇえええ!」
ブタはボクの腕から離れて、顔を押さえて転がった。
このブタは普通の魔物よりも強いかもしれない。ボクはハァハァと呼吸を整えて戦略を考えようとした。
炎の魔法は近接なら効果がある。今のブタとの距離なら水の魔法の水球だが、ブタのあの体に当ててもダメージにならないかもしれない。
それなら近づくしかない。また噛みつかれたら危ないので、ボクは土魔法で広場の石の舗装を操作して腕を鎧のように守ることした。腕の周りに石を集めて固める。ついでにそれで殴れるような形にする。
ボクがそうしているうちにブタも起き上がり体勢を戻していたが、ボクの炎を警戒して距離を取っていた。
ブタはさっきよりもだいぶ落ち着いているように見える。
このまま人間の姿に戻ってくれたりしないだろうか……?
ふいにブタが片手を上げた。
すると地面を割って巨大な根のようなものがスルスルと伸びてきてボクの足に巻き付いた。
これでは飛べない! 動きを封じられた!
「ドーラーゴーンー。お前、やってくれたなぁ。」
「正気に戻ったのか!? なんであんなことしたんだ!?」
「あんなことってぇ? 好きな女の子にちょっとイタズラしたくなる時って、男ならあっただろぉ?」
「男だって? あんた、女の子じゃなかったの!?」
「そうだよ、前世では男だったんだよぉ。……でも、それがどうしたぁ? 今はこんなに可愛い女の子に生まれ変わったんだからさぁ! 楽しまなきゃ損だろぉ!?」
ブタの姿で可愛い女の子って言うの変じゃん!
ボクは自分の足に巻き付いてる木の根に炎を吐きかけ燃やそうとした。だが木の根はなかなか燃えず、それよりも速く木の根は次々現れてボクの足を更にきつく縛り上げた。
ボクは立っていられず倒れてしまい地面にズシンと体を打ちつけた。
「調子に乗りやがってぇ。俺の魔法ならドラゴン捕縛なんて簡単なんだよぉ。」
ボクは倒れながらも首を上げ、苦し紛れに水球をブタめがけて撃った。
「無駄、無駄ぁ!」
やはり水の魔法ではブタの体を濡らすだけでブタはビクともしない……。でも今はもうこれしかできない……。
ボクが放った水球の一つがブタの顔に当たった時、ピキッと水球が凍ってブタの顔を氷が覆った。
「フゴゴゴ!」
ブタは焦って顔面の氷を剥がそうとするが氷に触った手も同様に凍っていった。
「リョウ! 大丈夫!?」
ミネとルカが広場までボクらを追いかけて来ていた。
氷は、ミネの横で杖をかざしていたルカの魔法だったのだ。
ブタはしばらくジタバタと苦しそうに暴れていたが、急にパタリと力が抜けたように動かなくなり、そのまま縮んで元の女の子の姿になった。
ボクもドラゴンの姿から人間の姿に戻った。ミネに服を着せてもらう。
「ふざけんな、この野郎!」
ルカは、気を失っているプリンの体を蹴りつけてプリンを罵っていた。
ドラゴンとブタが大暴れした広場は悲惨な状態になっていた。地面はめくれ上がり、噴水も壊れてしまっている。
「おい! お前たちか!? この広場で暴れていた魔物はどうした!?」
鎧を着て、以前に村で見たメェを大きくしたような生き物に乗った男たちが数人、ボクたちの方に近づいてくる。
「どうしよう? 教会の兵士たちだ……。逃げてもきっとあの人たちの乗ってるビッグメェにはすぐ追いつかれちゃう……。」
ミネが不安そうに話す。あれが、この街の治安を守る教会の兵士……。
ボクたちは為す術なく兵士たちに囲まれてしまった。
「話したらわかってもらえないかな?」
「リョウは身元の証を持ってないから……、どうしよう……、どうしよう……。」
そういえばそうだった。ボクの存在自体が違法だったんだ。ミネの顔色が本当に青くなっている。うーん……。
その時、ブロロロという大きな音と共にトラックが走ってきてボクらを囲む兵士を押しのけ、ボクらの前に止まった。
「リョウ! お前! 何やってんだよ! ほら、すぐに荷台に乗れ!」
布で顔を隠しているけど声でわかった。運転していたのはシュンさんだった。
ボクとミネはすぐにトラックの荷台に飛び乗った。何故かルカも一緒に乗ってくる。
「おい、こ、これはなんだ!?」
急に目の前に現れた自動車に、兵士たちは慌てているようだった。
「よし、乗ったな! 掴まっとけ!」
シュンさんはトラックを急発進させた。あっという間に兵士たちから離れていき、兵士が乗ったビッグメェもトラックには追いつけなかった。
「まったく、広場で暴れてるドラゴンを見た時は正直ビビったぜ。でもすぐリョウだってわかったからな。こうして助けにきてやったわけよ。」
「ありがとうございます。シュンさん。」
「このまま街を出るぞ!」
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