魔法使い来訪

 二人の少女が山道を行く。二人の目的地まであと少しだ。

 髪の長い少女がフードを脱ぎ、その深く吸い込まれるような青色の髪を見せる。少女は額に浮かぶ汗を拭った。少女の手には杖が握られているがそれ以外に荷物は持っておらず、代わりにもう一人の少女が大きな袋を背負っていた。



 そして、いよいよ二人は目的地に到着した。……そこは山の合間に築かれた村だった。

 二人は躊躇なく村に踏み入ると、たまたま目に付いた村人に声をかけた。


「ここで一番偉いのは誰? 案内してほしいんだけど。」


 声をかけられた村人はその少女の風貌と杖を見てすぐに何かを察して、大人しく少女に従い村で一番大きな村長の家に案内した。

 村長の家からは小柄な老人が呼ばれて顔を出した。

 少女は、杖を地面に突いて、もう片方の手を腰にあて、少し高圧的に言った。


「私は瑠璃色の魔法使い、ルカ。宝石の夏という意味よ。」


 応対する村長の顔は少し青ざめて見えた。


「これは、魔法使い様……。こんな山の村にどのようなご用件ですか?」

「この山に数年前住み着いたというドラゴンに用があるわ。」



 村長は冷や汗を拭いながら、山の現状を魔法使いの少女ルカに説明をした。


「じゃあ、ドラゴンはもうここにはいないの?」

「ええ、一ヶ月くらい前に飛んで行きました。」

「だからここに来るまで、あんなに魔物がいたのね。ドラゴンの縄張りにしては変だと思ったわ。でも、どうして?」

「中央から来たエンジェルという神官が、憑依術という魔法を使って、ドラゴンを人間にして退治しようとしたんですが、殺すのに失敗したんです。」

「はあ!? 中央王国の教会以外で許可無く憑依術を使うなんて違法だわ!」


 ルカの横で、持っていた荷物を下ろし村人に差し出された水を飲んでいたもう一人の少女が口を挟む。


「エンジェルって、まさに中央王国の人間ぽい名前ですけどねぇ。知らないはずないですけどぉ。」

「だから、殺そうとしたんだわ……。」

「危なかったですねぇ! ドラゴンが死んでたら私達も魔女様に殺されますぅ!」


 もう一人の少女はキャハハと笑って言った。



「そいつは今どこに?」

「いや、もう杖も無くしてしまって、……今までの横暴な態度によく思っていなかった者もいたものですから、追放しました。南の国の方に行ったと思います。」

「そうすると、ドラゴンが飛んで行った方向と逆かしら。じゃあそいつのことはもういいわ。」


 ルカは少し考えてから、ため息をついて言った。


「一ヶ月も前にいなくなって、しかも憑依術を使われたドラゴンなんて、探すのは無理よね……。」

「でも、それじゃ魔女様はお怒りになりますぅ。結局、殺されますぅ!」


 間髪入れずもう一人の少女が言う。ルカは少女の方を見ずにボソッと呟いた。


「理不尽な職場だわ……。力さえあれば、すぐに辞めてやるのに。」


「んー? なんか言いましたぁ?」


 少女は耳に手を当てるジェスチャーをしたが、終始、少女の仕草はふざけたようだったので、それが本当に聞こえなかったのかはわからなかった。



「……ドラゴンがどこに行ったかは知らないの? 憑依術を使われたなら意思疎通はできたでしょ?」

「はい。村人は皆あまり近づかなかったのです。……あ、でも、あの神官に向かって元の世界とか何とか言っていたような。」

「憑依者たちのいた異世界のことかしら。でも、異世界に戻る方法なんて知らないだろうから、それならきっと方法を求めて中央王国を目指すはず……。」

「一ヶ月あれば余裕で中央王国に着いてますねぇ。」

「急いで中央王国まで行きましょう!」


 ルカは次の目的地が決まったので、さっさと村の出口に向かおうとした。


「あ、ルカちゃん! この村はどうするんですぅ? 焼かなくていいんですかぁ?」

「や、焼く!?」


 村長は腰を抜かしたようにその場で座り込んでしまった。


「そ、そんなことするわけないでしょ! 早く来なさい、プリン!」


 プリンと呼ばれた少女はまたキャハハと笑って、荷物を背負うとルカの後を走って追い、途中で振り向いて笑顔で村長に手を振った。

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