そして旅へ

 空は東の方から明るくなってきていて、飛んでるボクからは山の向こうにポツポツと灯りのともる街並みが見えた。これから行くならあの街の方だ。

 ボクはミネを連れて洞窟に戻って人間の姿に戻った。いつドラゴンの姿から戻るかわからない状態で空にはいられない。


「これからどうするの?」


 簡単に荷造りをするボクにミネは聞いた。


「すぐに村の人間がここに来るかもしれない。ボクは山を越えて街の方に行く。……元の世界に戻る方法を探す。」

「元の世界……。」


 いつかはそうしたいと思っていたけれど、こんな夜逃げのように出て行かないといけない状況は正直不安だった。

 ミネも不安そうな顔で、ボクの荷造りを見ている。


「ボクはまだこの世界のことを知らないから、悪いけどミネにも来てもらう。」


 そうは言っても、来てくれないならしょうがないとも思った。しかし、ミネは決意したように迷いのない声で答えた。


「いいよ。私は竜の花嫁になった時に、もうお父さんとお母さんにはお別れを言ってあるの。どこにでも付いていくよ。」


 そう言うとミネも自分の荷物を纏めはじめる。知らないうちに用意周到にまとめて置かれていた少量の水と食料を袋に詰めた。


「私、リョウに嘘付いてたの。ゴメン……。」



「いや……、ボクもミネに隠してたことがある。」

「何?」

「ボクは元の世界では女だったんだ……。だから、ミネとはそういう関係になれなかった。本当の名前は涼子って言うんだ。」


 ミネは手をとめ、驚いた顔をしてボクを見た。


「……でも、今は男の子じゃないの?」

「……。」

「私のこと好きになれない?」

「好きじゃないわけじゃない! でも……、そういう好きとは違う。」

「これからもその気持ちは変わらないの?」

「……わからない。」


 ミネは少し寂しそうに笑って言った。


「私ね、ドラゴンのリョウにさらってもらって嬉しかった。お姫様になったみたいだった。」


 何も答えられないボクの手を握って、ミネは精一杯の笑顔を作ってみせる。


「リョウの心が女の人だったとしても関係ないよ。リョウはリョウだよ。」

「……うん。」



 ボクとミネは話し合って、村とは反対方向から森の中を通って街に続く道に出ることにした。


「実は私も、リョウを逃がす場合を考えて、お金を隠しておいたんだ。持って行こう。」


 ミネはボクにこの世界の通貨を見せてくれた。銀の板に魔法陣が描かれていた。

 ミネは迷うことなく森の中を進んだ。準備していてくれてたってことだ。街まで歩いて2日くらいだと言う。村からの追っ手は無いようだ。



 こうしてボクの異世界スローライフは終わりを告げたのだった。

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