第3話 義姉からの提案

 ある日、目を覚ますと女の子になっていた。


 創作上では割と見かけるが現実には起こりうることはないとされた現象。

 そんなものを俺……………いや、今はもう私だね。

 私、「夜永華月」は自身の身をもって体験することなった。


 女の子になった当時はパニックに陥ったりしたけど、義姉である舞梨さんのおかげで何とか落ち着いて現実を受け入れることができた。

 女の子として生きていくにあたって必要なものも買いそろえてくれたし、必要な知識も教えてもらった。

 その甲斐あって、女の子になってから一月が経とうとする頃には『私』として生活することに違和感を感じることも少なくなってきた。

 ……………なんなら女の子になったのを楽しみ始めたまである。


 だってさぁ、自分で言うのもなんだけどさ、美少女なんだよ?


 前側の両サイドだけが長めのショートボブなのかな?

 それくらいの長さのつやつやサラサラの髪に、ちょっと気だるげな大きめの瞳、シュッとした綺麗な鼻梁に淡いピンクのぷにぷになくちびる。

 どことなく甘え下手な妹感を感じるこの顔は、よほど特殊な性癖の持ち主じゃない限り美少女だと思うでしょ?

 こんな美少女の顔が今では自分のものとなり、鏡を見るたびに視界に入るのだ。

 キメ顔の一つや二つだってやりたくなる。

 仕方ないよね?


 ……………おっと、それよりも大事なことがあったのだった。


「今後、どうするのかそろそろ決めてね」と、舞梨さんに言われていたのよね。

 そっちのことを考えなくてはいけない。

 学校はとりあえず中退した。


 これは小腹が空いたからとコンビニに買い物に行こうとしたときに実感したんだけど、かなりの人に、それも特に男性に視られるようになった。

 中には性的な目で見てくる男性もいて、率直に言うと怖かった。

 今まで感じたことのないものの恐怖を一気に刷り込まれた。

 結局その時はコンビニに辿り着く前に家に逃げ帰り、布団を頭から被って中でぶるぶる震えながら舞梨さんが帰ってくるのを待ち続けた。

 そして舞梨さんが帰ってきてからはずっと抱き着いた状態で頭を撫でて貰った。


 ということがあり、学校に行っても同じ視線やさらには奇異の目を向けられるだろうなと思って、やめることにした。


 そんなわけで舞梨さんのヒモ状態なため、別の学校に編入するか就職あるいはバイトをするかなんだけど……………。

 正直なところ、家の外に出るのはまだ怖い。

 そのうち嫌でも慣れていかなきゃんだろうけど、いきなりはどうあがいても無理。

 精神衛生上とてもよろしくない。

 最悪、心が壊れる。

 どうにかして家から出ないでできることは無いのかな?


 ……………………ほんと、どうしようかな?


 ~~~


 結局、何にも思いつかないまま数日が過ぎた頃、夜ご飯を食べ終えてゆっくりとお腹を休ませていると舞梨さんが普段より少し真面目な顔をして声をかけてきた。


「華月、ちょっとお話があるんだけどいいかな?」

「ん?別に大丈夫だけど、どうしたの?」

「ほら、どうするかそろそろ決めてって言ったじゃない?それで華月、まだ悩んでるんじゃないかと思って」

「たしかにまだ、悩んでるけど…………」


 それがどうしたんだろう?

 まさかだけど、決めるのが遅いから怒っている!?

 どうしよう!?

 舞梨さんが怒っているとこなんて見たことが無いからどうすればいいかわからない!!


 脳内で一人、あわあわしていると舞梨さんは慌てたように言葉を付け足した。


「ああ、ごめんね、怒ってるわけじゃないの。華月にちょっとした提案があってそれを話したかっただけなの」

「……………怒ってない?」

「ええ、もちろん」


 舞梨さんが怒ってないとわかり安堵の息を吐く。

 ……………断じてちょっと泣きそうだったとかそんなことはない、いいね?

 それはともかく、提案って何だろう?

 というか女の子のなってから、ずっと舞梨さんの提案に乗っかってるだけのような気がする………。


「提案っていうのはね、今度発売されるゲームで実況配信してみないかってことなの」


 へ?

 げーむのじっきょうはいしん?


 私がぽかんとしてる間にも、舞梨さんの提案の話は続いていく。


「ほら、人の視線が怖くなったって言ってたでしょ?だからまずは、ゲームの中で人からの視線に慣れてからの方がいきなり外で慣れようとするよりは心理的ハードルは低いとは思わない?」

「それは何となくわかったんですけど、なんで実況配信が出てくるんです?」


 そう、ゲームの中で人からの視線に慣れるというのはまだわかる。

 しかしそれと実況配信がいまいち繋がらない。

 たしかに色んな人が視聴する可能性はあるけど、実際に視聴者と対面するわけではないから関係は薄い。

 そんなことを考え、舞梨さんに疑問を投げると聞かれることがわかりきっていたのかすぐに返事が返ってきた。


「実況配信はあくまでおまけではあるんだけどね?動画配信サイトではチャンネル登録者数と動画の総再生時間が一定値を越えると収益化ができるようになるんだけど、華月は見た目も声も可愛くなったから、もしかしたら収益化できるんじゃないかなって思ってね。まあ、こっちはあくまでおまけだから深く考えなくていいんだけど」


 ふむ、収益化ねぇ…………。

 それができれば自分の生活費くらいは払えるようになるのかな?

 現状の生活費は全て、支払って貰っている状態。

 女の子(美少女)に向けられる視線に慣れるためのトレーニングのついでにお金を稼ぐことができる可能性があるのならやってみてもいいかもしれない。

 チャレンジするだけならタダだしね!!


「舞梨さん、私、ゲーム実況配信やってみたいです」

「そう?なら、無理のない範囲で頑張ってみてね。しつこいようだけど、あくまでおまけなんだからね?」

「はい、約束します!」

「うん、いい返事ね。必要なものは用意しておくから楽しみに待っててね?」


 こうして私は、舞梨さんの提案により女の子(美少女)に向けられる視線に慣れるためのトレーニングと、あわよくば収益化して自分の生活費を自分で払えるようになるためにゲーム実況配信をすることにしたのだった。


 ところで、どんなジャンルのゲームなんだろう?

 ぬめぬめな気持ち悪い生物が出てくるようなものじゃないといいんだけど…………。

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