第3話 君
次の日の夜も、君はそこにいた。
自然と笑みがこぼれる。
「やあ」
君は僕を見ると、
「また来たんだ」
と言った。
「話し相手がいなくてさ」
自嘲気味に言う。
「あたしが話し相手になってあげるよ」
屈託のない笑顔だ。
「ありがとう」
気恥ずかしくなって頭をかく。
自分が抱く感情を不思議に思いながら、平静を装って砂浜に座り込む。
「あたし実はね、最近超能力を使えるようになったんだ」
「超能力?」
君は不思議なことを口にした。
「見てて」
君はそう言って人差し指を立て、自分の前に手を持っていった。
するとどこからか蝶が飛んできてちょこんと君の人差し指に止まった。
「ねっ?」
得意気な顔をしてこちらを見る。
「すごいな」
偶然か、必然かはわからない。
君の人差し指の上で白い蝶がぱたぱたと羽を揺らした。
なんにせよ君はなにか特別な存在なのだろうかと少し思った。
次の日も、また次の日も僕は君と話した。色鮮やかな表情は僕を晴れやかな気持ちにさせた。なんて素敵な少女なのだろうか、と何度も思った。
そして盆が終わる前日の夜のことだ。その日も君とおしゃべりをしていた。
「ねえ、明日ピクニックにいかない?」
君は唐突にそう言った。
「だれかとふたりでピクニックにいくの、夢だったんだ」
確かに、僕は明日帰らないといけない。
「最後の思い出作り……か」
そういいながら僕の胸は痛んだ。最後。頭のなかで何度も繰り返される。
君は僕の顔を覗くと
「じゃあ決まり。明日のお昼頃、あの神社の祠で集合ね」
君がお世話になっていると言った神社を指差す。適当な返事をした。
「じゃあまた明日、寝坊しないでね」
手を振る君に少しだけ手を振り返す。
いつものように笑顔に見とれることはなかった。
遠く小さくなった君が
「そんなに悲しい顔しないでよー!」
と叫ぶのが聞こえた。
お見通しだったのを少し恥ずかしく思いながら君のいた砂浜をぼーっと眺める。
「明日で最後か……」
だれに言うでもなく呟く。
言葉にして口にすると妙にリアルに自分の身に迫っている気がした。ずっと君と、毎日ここで話していたい。だが叶わない。その願いは。だけど……
最後でもいい。君と楽しい時間を過ごせれば、それでいい。
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