第2話 海と君

 月明かりと星明かり照らす砂浜に立つ少女。Tシャツにショートパンツにビーチサンダルという涼しげな格好で、黒髪を潮風に任せて揺らしていた。


「ここの景色、いいよね」

 

 僕は君に声をかける。


 君はいぶかしげに後ろを振り向き僕の姿を見ると、驚いたような顔をして


「キミ、どうしたの?」


 と尋ねてきた。


 僕は嬉しくて、笑いながら


「いや、誰かと話したかっただけだよ」

 

 と答えた。


「そう」


 君は納得がいかないような顔をして短く言った。


 僕が砂浜に腰を下ろすと、君は呟く。


「本当に美しい景色。こんな素敵な場所は本土のどこにもないよ」


「僕もそう思う」


 しばらくの沈黙。



「キミは、ここの島の人?」


 沈黙を破ったのは君だった。

 その顔に僕を不審に思う暗さはない。単純な疑問、といった様子。僕とのおしゃべりに付き合ってくれるようだ。



「実家がここなんだ。お盆だから帰ってきた。君は?」


「あたしは、この前この島に来たんだ。ほらあそこに神社があるでしょ?あそこの神主のおばあさんにお世話になってるんだ」


 そう言って君は山の上にある神社を指差して言った。あそこの神主のおばあさんは不思議な人で、透視ができるとか幽霊が見えるとかいう伝説がある。



「あの長い階段、本当に疲れるのよね。まだ慣れないもん」

 

 ふと君の口から笑みがこぼれた。片方のえくぼ。白い歯がのぞく。一筋の光が差したような、眩しい笑顔だ。


 夜の砂浜の景色が相まって、美しい絵のように見えた。


 そのあとも雑談を続けた。どれくらい時間がたったかわからない。それでも他愛ない会話は途切れることはなかった。


「そろそろ戻ろうかな。付き合ってくれてありがとね」


「僕の方こそ」


 君は立ち上がってくるりと後ろを向き歩き出す。


 そして振り返って小さく手を振った。


「じゃあね」

 

 あの笑顔を浮かべながら君は帰っていった。可愛らしい笑顔に不意をつかれる。


 君の背中を見送る。少しだけ君のことを知りたくなった。


 それは単なる好奇心だけではない。

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