海に君透く

亜夢谷トム

第1話 海

 海。


 それは、浜辺で日光浴を楽しむ人や、タコ、イカの刺身を肴に昼から酒を浴びるように飲む人が集まる場所。


 それは、白波に乗る人や浮き輪やボールで遊ぶ人が集う場所。


 夏真っ盛りの観光シーズンには、老若男女問わず様々な人が照りつける日の下で大はしゃぎする、活気がある場所。


 

 そんなものはここにはない。


 

 ここは小さな島。

 人口は100人足らず。島の山が切り開かれて出来た土地には、小中が一緒になった学校がひとつと、おばあさんが1人で切り盛りする商店がひとつ。あとは家しかない。観光名所なんてものもない。


 子供たちは学校へ向かう。老夫婦は限られた小さな土地で自家栽培を営む。一家の大黒柱は船に揺られて30分ほどの本土へ渡り仕事へ出る。高校生からは本土で独り暮らし。


 この島の人びとはそんな生活をする。


 だからこの島はとてつもなく静かで、とてつもなく穏やかで、とてつもなくのどかで……


 それでいて、とてつもなく退屈だ。



 そんなこの島だが、どこにも引けを取らない場所がある。


 島を取り囲む海の、夜の顔である。


 夜の海は暗い。だがここだけは例外である。幻想的でとても現実とは思えない、優しく包み込むような明るい砂浜。満点の星空とそれを反射する海のラムネ瓶のような輝き。静寂の訪れ。


 まばゆい宇宙を海に投影したイラスト。


 言葉を失う景色だ。



 その海に、君はいた。

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