③ 邂逅
「……さあ、どうする?」
右手を上げて恭介は指を鳴らす準備をする。少しでも高原が何かしようものなら躊躇いなく合図をする気だ。
後ろでは、ホムラとココミがその隻眼を恭介へと向けていた。音声命令の最上級である勅令。それを受けた二体のキョンシーは一時的に他律型だ。
高原の表情には困惑と恐怖が色濃く見え、柔和な笑みを崩し、わなわなと震えていた。
「止めろ。ココミがどれほど素晴らしいキョンシーなのか分かっていないのか」
「興味無い。あなたにとってどれほど価値あるキョンシーでも、僕にとってこいつらは只の手のかかる面倒なキョンシーだ」
「……面倒ならば、なおさら私達にくれないかね? 謝礼は弾もう」
「さっきも言った。それは
恭介は息が乱れない様に小さく整える。内心心臓はバクバクだった。
頭上から霊幻の笑い声が響いた。
「ハハハハハハハハハハ! 恭介! お前は素晴らしい人間だ! 第六課にふさわしいと今吾輩は確信したぞ!」
――不名誉だな。
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
狂笑が響く中、恭介と高原が見つめ合う。
「――ん!」
その時、後方から恭介の耳に声が聞こえた。
――来た!
振り向かず、恭介は高原に言う。
「僕の上司が来ましたよ。人類最強の清金京香が。さあ、どうしますか? 押すか引くか。あなたにとっての最善は何だ?」
「吾輩の相棒は後三十秒もせずにここに来るぞ!」
霊幻の言葉が恭介の挑発を補強する。
高原が黙ったままココミを一瞥した。その顔は慈愛に満ちていて、この老人がココミというキョンシーへ並々ならぬ執着を見せているのが分かった。
「……分かった。この場は引こう。だが、私は必ずココミを手に入れる。君を殺してでもだ。その時に、後悔しない様に祈っているよ」
「後悔は僕の友達みたいな物だ。このキョンシー達を奪えるのなら奪ってみろ」
最後まで恭介は挑発を止めなかった。この場において慎重さは最悪の未来を引き寄せるという確信があったからだ。
ふんと鼻を鳴らして高原達が恭介へ背を向けてこの場から立ち去ろうとした。
正にその時、清金が到着した。
「霊幻、あれが敵ね!」
十体のキョンシーが居るにも関わらず、ジャリジャリと砂鉄を従えた恭介の上司は立ち止まらずにそのまま高原達へ突撃する。
磁力を使い、砂鉄を擦らせ、高速で清金は高原達へ近づき、即座に作り出した砂鉄の槍を彼らへと突き出した。
しかし、清金の放った一撃は高原の脇に控えていたキョンシーに阻まれる。
霊幻の突撃を止めた、あのマグネトロキネシストだ。
高原達を守る様にして、大量の砂鉄が清金の槍を受け止めた。
ジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリ!
大量の砂鉄同士が複雑に擦れる強烈な音が周囲へ響いた。
砂鉄が掠り、清金の右耳についていたトーキンver5が外れカランと地面に落ちた。
清金はおそらく追撃をしようとしたのだろう。彼女の背後では二撃目の槍が高速で作成完了している
だが、その槍が放たれなかった。
「ッ!?」
息を飲む音を恭介は聞いた。その声はあまりに場違いで清金らしくない物だった。
背後で押し固められた清金の砂鉄がその形を無残に崩し、辺りへ霧散した。
ドン! という音がして、清金が恭介達の方へ飛んだ。マグネトロキネシストが鉄球でその体を弾き飛ばしたのだ。
「カハッ!」
「清金先輩!?」
鉄球をもろに腹に受けたのだろう。清金が口からどす黒い血を吐いた。
立っていられない程のダメージのはずなのに、清金は砂鉄で体を無理やり持ち上げて、高原達へ、いや、たった今自分を弾き飛ばしたキョンシーへと手を伸ばした。
「――」
清金が血ごと息を吸い込み、何かを叫ぼうとした。
しかし、それも為されなかった。
「京香。
霊幻の口から出された一言が、清金の体を固めた。
見る見ると高原達の姿が小さくなっていき、角を曲がって見えなくなった。
恭介は「ふー」っと大きく息を吐いた。危機は去ったのだ。
だが、清金は右手を伸ばしたままだった。
一瞬、恭介には誰だか分からなかった程、その顔は見たことが無い表情をしていた。
「……先輩?」
清金には恭介の言葉も耳に入っていない。
再び、霊幻の口から声が出た。
「京香、終わったのだ。吾輩達に指示を出せ。お前は吾輩達のリーダーなのだから」
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
聞き慣れた霊幻の笑い声に、清金がハッと眼を見開き、腕を下ろした。
「……霊幻、状況は? あの後何があったの?」
「吾輩よりも恭介に聞け。中々の活躍だったぞ」
清金の眼が恭介に向けられる。
「実は――」
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