⑩ 三大PSIの連携
瞬間、トレンチコートが弾け、ポケットに入れられていた八個の鉄球と、繊維に練りこまれていた砂鉄が周囲へと散乱する。
すぐに京香は磁力を操り、鉄球の星と砂鉄の雲を体に纏わり付かせた。
バチバチバチバチ! 突撃してくるエレクトロキネシスト目掛けて磁場を作り出す。
帯電したキョンシーの体は京香の作り出した磁場によってローレンツ力が働き、地面へと叩き付けられた。
「放て!」
京香は更に命令する。前方を包んでいた磁場を消し去り、八種の磁場のレールを作り出し、彼女の周囲に漂う鉄球をエレクトロキネシストへ放った。
鉄球達は強烈な加速によってサイクロイド曲線に近い軌道を描きながら飛んでいく。
だが、敵のエレクトロキネシストの動きは早かった。地面を殴りつけて体を跳ね上げ、ギリギリで鉄球を躱した。
ガンガンガンガンガンガンガンガン!
石畳に罅が入り、割れて、雪と共に周囲へ跳ねた。
「ちっ!」
京香は舌打ちし、鉄球を引き戻し、右手のトレーシーの周囲で回転させる。
ボオオオオオオオ! ボオオオオオオオ! ボオオオオオオオ! ボオオオオオオオ!
空から炎の葡萄が落ちて来る。速度はそれほどではない。ただ、量が膨大で、避けるのは不可能だった。
「広がれ!」
体の周りに絡み付いた砂鉄を広く薄く上方へと広げる。
炎球と砂鉄の膜が衝突し、ボンボンボンボンボンボンボンボンと爆発した。
――眩し!
砂鉄の隙間から爆炎の明かりが差し込み、京香は眼を細める。
ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
それを狙ったかのように京香の足元から強烈な旋風が生まれ、その体が瞬間浮き上がった。
――設置型のエアロキネシスか!
バチバチバチバチバチバチバチバチ!
宙に浮いた京香の体は自由を失い、地上で体勢を立て直したエレクトロキネシストが彼女へ突撃して来た。
上方の砂鉄の膜を作っている今、先程の様に前方へ磁場は作れない。
「撃て!」
パシュ! トレーシーの電極と、続いて鉄球を三つ京香は撃った。
十メートル先、エレクトロキネシストは俊敏に鉄球と電極を躱し、京香と距離を詰めた。
「広がれシャルロット!」
ビュン! 薔薇の盾が花開き、エレクトロキネシストと激突する。
ビリビリビリビリビリビリビリビリ!
電気エネルギーが解放され、透明な薔薇の先で、強烈に発光した。
――ああもう、痛いわね!
激突の衝撃が左腕に伝わり、背後へと京香は飛ばされ、旋風の渦から脱出する。
痛みに頬を笑わせながら、京香は敵のキョンシーのPSIの当たりを付けた。
放出型のエレクトロキネシストとパイロキネシスト。そして設置型のエアロキネシストだ。
設置型のエアロキネシスト。宙に浮くのは簡単でも、高速移動ができるPSIではない。
上空のパイロキネシストとエアロキネシストは足元に設置した旋風に乗っているのだ。
「なら、壊すのはあんた達からだ!」
地面に着地した刹那、京香は上空のパイロキネシストとエアロキネシストへ腕に残っていた鉄球五つ全てを放つ。
ボオオオオオオオ! ボオオオオオオオ! ボオオオオオオオ! ボオオオオオオオ!
炎球の爆発は僅かに鉄球の軌道を逸らすだけで、エアロキネシスト達へ届く。
バキボキバキボキバキボキバキボキ!
鉄球は胴を中心として上空のキョンシー達の体を破壊する。だが、決定打ではない。肋骨が砕かれたとしてもキョンシーは動き続けられる。
ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
透明な階段を上る様に、エアロキネシストとパイロキネシストが宙を駆け、再び京香の頭上へと戻った。その腕は在らぬ方向に捩じれ、背骨が折れたのかパイロキネシストの体はくの字に曲がっている。
ボオオオオオオオ! ボオオオオオオオ! ボオオオオオオオ! ボオオオオオオオ!
ボオオオオオオオ! ボオオオオオオオ! ボオオオオオオオ! ボオオオオオオオ!
体の状態に反してPSIには陰りが無い。それどころか出力は増強され、炎の葡萄はその粒の数を増やしていた。
――決めに来たわね。
パイロキネシストの眼から血が流れていた。脳の寿命を度外視したPSIの発動だ。
このPSIの過剰な発動は使い手からの命令に依るとは思えない。三体のキョンシーの連携。このキョンシー達は自律型だ。
京香はモルグ島を走る。頭上に砂鉄の膜を張って炎球を防ぎながら、足を動かし続けた。
立ち止まっては設置型のエアロキネシストに絡め捕られてしまう。
京香の体は生者の物。一度でもキョンシーの攻撃をまともに喰らえばノックアウトだ。
「あんた達! 目的は何!? アタシ、ココミ、それともアネモイ!?」
トーキンver5を通して、フランス語と成った京香の声が響く。
だが、当たり前だが、その声にキョンシー達が答える事は無い。
敵のキョンシー達の蘇生符が輝き、PSIの出力が更に上がった。
「ああそう! じゃあ、あんた達を壊して主に問い詰めてやるわ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます