② 未知のPSI
*
「おお、京香お前も終わったか!」
「うん。アンタもお疲れ」
シュタッと紫マントを翻しながら霊幻は京香の前へと着地する。
京香は穿頭教の人間達をロープで拘束し二号館の壁近くで寝かせていた。
拷問はしていない。狂信者達にまともな言葉を期待するだけ無駄だ。
「霊幻、アンタが戦ってたキョンシーは?」
「壊した。頭を潰して屋上に放ってある」
「……そう。後で回収しとかないとね」
京香はチラッと穿頭教徒から離れた場所に寝かせた四体のキョンシーを見た。
比較的損傷は無いが、蘇生符を壊してしまったのだから脳の劣化は食い止められない。もうこのキョンシー達は腐るだけだ。
「……」
一瞬京香は手を合わせようか悩んで、上げかけた手を止める。
京香の露出していた手と顔は軽い火傷を負い、赤くなっていた。ジリジリとした熱さがジクジクとした痛みに変わりつつある。帰ったら医務室に寄らなければ成らない。
結局穿頭教への対処は十分も掛からなかった。
シカバネ町から出てきたキョンシー、霊幻とワトソンを狙った襲撃。
特にお目当てはワトソンだったのだろう。サイコメトリー等の精神感応系のPSIは発現しただけで論文に乗るレベルの特異性を持っている。
「もうちょい敵が多いと思ったけど」
「吾輩だけでなくお前が居ると言う情報を知らなかったのだろうな。吾輩達一体と一人を相手取るにはそれなりの準備が要る」
「買い被りすぎよ。アタシは簡単に死ぬ人間だもの」
京香は深くため息を吐いた。
「誰が裏切り者なんでしょうね、どう思う霊幻?」
「吾輩では分からん。その様な思考回路は不可能だ」
京香達が今日この場所へ来る事はキョンシー犯罪対策局しか知らない。しかも調査が決まったのは昨日だ。
誰かが裏切り、情報を流したのだ。
「ああ、やだやだ。仲間を疑うのは」
「何が嫌なのだ? 見つけたら撲滅すれば良いだけだろう?」
「アンタくらい単純に考えられれば楽なんだけどねぇ」
苦笑した後、京香は「んー」と伸びをした。
*
ヤマダからの連絡に京香が気付いたのはそれからすぐ後だった。
「霊幻、ヤマダとセバスさんがあの野良キョンシー達と戦ったって」
二号館の壁に背を預けながら京香はスマートフォンの画面を眺める。
「ほう。それでどうなったのだ? ヤマダくん達ならば負けたとは思えないが」
「大丈夫、二人とも無事。ただ逃げられたらしいわ」
京香はスマートフォンをスクロールし、第六課用のグループトーク画面を見る。
詳しい情報は京香が帰ったら話すとあるが、ヤマダから重要な情報が送られて来ていた。
「……糸の力場、か」
「聞いた事の無いタイプの力場だな。脳内のデータベースを漁っても該当例が出て来ない」
「流石ヤマダね。事前情報無しだと、アタシじゃ下手したらやられてたわ」
頭を狙ってくるとは危険度が高過ぎる。十中八九一撃必殺のPSIであり、ヤマダもそう判断していた。
パイロキネシスやエアロキネシスなどの目に見えるPSI相手ならば京香でも勝負が出来るだろうが、見えないのならそもそも勝負に成る前に
「お前もさっさとラプラスの瞳を使える様に成れ。ヤマダくんに出来たのだからお前に出来ない道理は有るまい」
「有りまくるわ。あんなの使ってたら頭がパンクするっての。あれはヤマダだから使いこなせてんの。アタシにはマイケルのコンタクトでギリギリよ」
「吾輩の所有者なのだからそれくらい出来る筈だ。信じているぞ」
「人には向き不向きがあるんですー。精密な作業はヤマダに任せるわ」
一度霊幻との会話を止めて京香は思考する。
二体の野良キョンシー。一体はパイロキネシスト。一体は糸の力場を操るサイキッカー。
この力場を電子機器やらに当ててジャミングしたのはほぼ確定だろう。
では、このPSIをヤマダの頭に向けた意味は何だ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます