深淵を見かけただけなのに

松田勝平

第1話

 ある大陸に、一つの大国が存在した。


 …これは、その国にて暮らす、一人の青年の物語…。




「………………。」


 夜明けが近いとはいえ、未だ暗い部屋で、青年は眠っていた。


 しかし、ふと目を覚ますと、枕元の本を手に取り、ベッドから起き上がる。


 見ればベッドのすぐ横にある燭台の蝋燭は、新品だった頃の半分以上も溶け出していた。


「…また火を消さずに寝ちゃったか。」


 すると、そこから視線を外して、彼は扉へと歩き出す。


 …日が上がりきるのも待たないで、ふらふらと歩くことにしたらしい。




「………。」


「……………………ふぅ。」


 何故か、拗ねたようにため息をついた。









 突然だが、彼は寮住まいだ。


 国の教育機関に通うには家が遠すぎるから、しぶしぶ荷物を抱えてやって来たのだ。


「………。」


 無言で薄暗闇の街を歩く。


 まだ、パン屋だって起きてはいない時間帯だろう。


 しかし、今日は珍しい事に、彼は人と出くわすことができた。


「………………!」


 まぁ、いつもは遠目から見ているだけだが…。


 今日は、裏路地へと彼の見知った顔が入っていくのを見かけたのである。


「ッ…!」


 急な出来事に目が覚めた彼は、裏路地へと急ぐ。



 そして、そこには、彼の知る『伝説』があった。


「───っこれは……。」


 宙に浮く大円。


 空間を蝕む碧い線。


 人智を超えた、【奇跡】。


「【空間魔法】…?」


 それらの状況から導き出されたのは、遥か昔に存在したとされる、【魔法】の存在であった。








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