第20話
「……こんなことを言うのも心苦しいが、女性隊員に何とか、まずはウグメに会いに行ってもらうというのは」
「うーわ……」
「うーわって言うな! 君は魅了の呪いを知らんからそんなことが言えるのだ! あ、あれは……あれはもう、この世のものではない……ッ、あ、あれは……ひぃっ、ひぃぃぃいぃいいいッ!! やめろ見るなッ、違う、私は、私は何も……!!」
「タクさん! 落ち着いて! 大丈夫です、奴はいません!! 深呼吸、深呼吸です!! そう、いないんだ、いるわけが……っ!!」
「はぁっ、はぁっ……す、すまない……い、今でも、少しでも思い出そうとすると、このザマだ……………………とにかく、アンノ君。メロウを呼び出すのなら、相応の準備をしてからだ……。これ以上、魅了の呪いの被害者を増やしてはならない。絶対に、だッ……」
「はいはーい、分かってますよーそれくらい。やれやれ、そんなリアクションされると逆に罹ってみたくなっちゃいますねぇ魅了の呪い。研究者の血が騒ぐわー」
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【TIPS】
◆魔術と武術
魔素を操作する繊細な脳の力は、ハードトレーニングによる肉体の強化に反比例するかのように衰えていくことが知られている。
それは例えばモニターを凝視するなどして酷使された視力が、鍛えられるどころか衰えていくものに近いのではないかと考えられている。
体の鍛え方に問題があるのか、魔法の扱い方に問題があるのか、その両方か。
人間以外の一般的な生物は己の肉体に対しトレーニングなどを行わないため、同様に魔力を失うのかどうかは定かではないが、飛竜などが高い身体能力に加え高度な炎熱属性の魔法を用いていることから、必ずしも筋力と魔力が相反しているとは言えないというのが一般的な認識である。
実際、人間の中にもその二つを両立する者は少なからず存在している。
彼らだけが選ばれし特別な者なのか。
それとも、本当は誰にでも可能なことなのか。
答えはまだ出ていない。
◆ダイナナ事件
六年前、軍事演習のために大陸沖へ出航中だった帝国海軍第七特殊戦闘部隊(ダイナナ特戦隊)の軍用艦数隻が同時に原因不明の計器不良を起こし、消息を絶った事件のこと。
三隻のうち一隻は失踪から一週間後、帝国領海内の群島にて座礁しているのが発見され、さらに半年後、別の一隻がその沖合数キロのところで沈没しているのが見つかった。
帝国軍部は事実を一部隠蔽し、失踪した船は二隻であったと公言。乗組員は全員死亡したとし、表向きには事件は解決を迎えたことになっている。
しかしそこから一年後、自称軍内部の情報通を名乗る者から、失踪した軍用艦が本当は三隻だったという噂が流れ、今もミリタリー・オカルト・ミステリーの界隈にて、その行方が議論されている。
◆ノアちゃん(24)
ダイナナ特戦隊のノア隊長といえば、帝国軍史における歴代隊長就任者の最年少記録を大幅に更新した女傑として、ちょっとした有名人である。
士官学校を飛び級で卒業し、就任時は十六才だった。それからダイナナ失踪事件により公的に死亡したことになるまでの二年間に挙げた実績は数知れず、数多の勲章が遺品として大切に保管されている。
彼女の実力が並ではなかったのは確かな事実だが、一方でそれを疑問視する者も少なくない。
どれだけのエリートであれ、いきなり隊長に任命されるなどということが本当にあるのだろうか。裏で何らかの密約があったのではないか。帝国軍部による話題作り、マスコット的な部隊として選出されたお飾り隊長だったのではないか――などなど、彼女の評価にケチをつける意見は数多く存在していた。
それらの意見はダイナナ事件の後に勢いを増し、やはり帝国軍部は信用ならないと、世間の厳しい目が向けられることになったのであった。
とはいえそれも一時的なもの。数年もすれば風当たりも収まり、毎年行われる慰霊祭は彼女のために献花台に足を運ぶ者で賑わっているという。
まだ生きているなんて、夢にも思わずに……。
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