「ライトニング・サンダー」



「やどりさんやどりさん。なんか、思ってたのと違うんだよね」

「一応聞いてやるですけど、何が違うですにゃ?」

「異世界転生者って、もっとこうチヤホヤされるものじゃあないのかな。異世界の知識で無双したりとか、料理を振る舞ったらもう匂いだけでみんなノックダウンしちゃうとか」

「……やどりからご主人に言えることは一つだけですにゃ。創作物と現実をごっちゃにしてはいけません」

「うぐぐ……こんなはずでは……こんなはずではぁ……っ」


 うめきながら、肩を落とすセラ。

 彼女の正体は、異世界からの転生者である。もしくは転移者と言ってもいいかも知れない。

 ……しかしこのシマにおいては、知識無双作戦と料理無双作戦に尽く失敗し、誰にも転生のことを信じてもらえないまま万策を尽かせた可哀想な女の子に過ぎなかった。

 いつか挽回できる日が来るといいね――と、隣を歩く相棒のやどりはしみじみ思う。

 やどりは猫族の亜人だが、姿は人間と変わらない。

 瞳や仕草が猫っぽいだけで、猫耳や尻尾が生えていたりはしていない。

 それでも特に苦労などしないまま、村人たちからは「ああ猫族なんだな」という信用をあっさりと勝ち取っていた。

 セラとはえらい違いだった。

 目に見える形や言葉だけが、全てではないということだ。

 見えないからこそ、大事なこともある。


「雰囲気っていうのは態度で醸すものであって、言葉で主張するものではないのですにゃ」

「猫っぽさはともかく、異世界人らしい雰囲気を醸せる態度って何なのさ」

「それを知るためにまずこちらの世界の文化を勉強しなきゃダメだって、やどりは最初に言ったですにゃ」

「そうでした………………」


 今後は、やどりの言うことはちゃんと聞こうと思うセラなのであった。



 *



 セラとやどりがシマにやってきたのは、ほんの数日前。

 少し正確に言えば、それはアディス一行が上陸する前日のこと。

 彼らが大トカゲと戦ったり、森を探索したり、ユハビィと親交を深めている間、二人は村で生活するためのルールを勉強していたのだ。

 そしていよいよ今日からお仕事探し。

 ここまで村の人達に色々と助けられた。その恩返しは早い方がいいだろうというセラの発案により、二人は朝から村を練り歩いていたのだった。


 ちなみにこれは、セラが言い出さなければやどりが言い出していた。

 やどりから見て、セラはどうにも世間ズレしている節がある。下手をしたらこのまま何もせずにタダ飯を食らっていくのではないかとハラハラさせられる程度には、絶妙にズレている。

 それが杞憂に終わってくれて、やどりはほっと胸を撫で下ろす。あくまでも主体はご主人――セラの自発的な行動であるべきだと、やどりは思っていたから。


 そんな二人の前を見慣れない団体さんが通り掛かった。

 何事だろうかと目を向ければ、先頭を歩いていたのは心当たりのある緑のポニテ。


「あ、フェルエルさんだ。おはようございまーす!」


 子犬のようにぱたぱたと駆け寄っていくセラを、やどりも追い掛ける。


「おはようセラ、やどり。どうだ? 村の暮らしには慣れて来たか?」

「お陰様で何とかやっていけそうです!」

「これからお仕事探しですにゃ。フェルエル、何かいい仕事ないですにゃ? 頭も尻も軽いご主人でも続けられる仕事だと嬉しいですにゃ」

「やどりちゃん。わたしが軽いのは頭だけだよ」

「ご主人、それはツッコミと見せかけて自虐ですにゃ」

「尻軽だと思われるより全然良いよ! 勉強苦手なのは事実だし!」

「ははは。いつも賑やかでいいコンビだな。しかし、ふむ……仕事の斡旋か」


 二人のやり取りを見て笑うフェルエル。その顔は自分が守っている平和の形を改めて確かめているようで、戦闘狂という評価には似つかわしくないものだった。

 ずっとそういう顔をしていれば可愛いのに――なんて、誰かが思ったりしたかはさておき。仕事の紹介について訊ねられた彼女は、そこで不意に真剣な目つきを現して、やどりの顔を覗き込む。


「やどりの方なら、セイバーズに迎えてみたいという気持ちはあるんだけどな?」

「お誘いは嬉しいけど、やどりはご主人とは離れたくないですにゃ。申し訳ないですにゃ」

「あっはは、またフラれてしまった。今日はモテないなぁ。ま、この村はだいたいいつも人手が足りないからな。気ままに探してみるといい。すぐに何か見つかるだろう」


 存外、あっさりと引き下がるフェルエル。勧誘そのものは本気だったろう、しかしそれ以上にそれぞれの自由意志を尊重しているのが伺える態度だった。


 それはそれとして、蚊帳の外でユハビィは首を傾げる。


?」

「今朝、俺も誘われたんだよ」

「あぁ、なるほど。それはそうですよね」


 確かにアディス程の実力があれば、既に勧誘されているのも納得だ。

 誘いを断ったというのも含めて、不審な点は一切ない。

 この人はどこにも属さない人だ。どこかに身を寄せずとも、ちゃんと自分の居場所を持っている人だから。


「セイバーズ、かぁ」


 シマモノと戦う組織、セイバーズ。

 その景色を、ユハビィは脳裏に思い描く。

 先日の大トカゲの時のように、背中にしがみついて叫んでいるのではなく――正面から武器を構えて立ち向かう、自分の姿を。


 もしそれが実現できたら、一人で立派にやっていますと、アーティに胸を張って報告できるだろうか。シマモノとちゃんと戦える力があったら、今までみたいな拾った者と拾われた者ではなく、対等な友達になれたりするのだろうか。


 そう思うと少しだけ、興味が湧いた。

 興味は湧いたが……それだけで入れるものでもないだろう。村を守るのは、命懸けの仕事なのだから。

 ユハビィは今のところ戦いが得意というわけではない。せいぜい森の中をちょこまか走り回り、シマモノから逃げたり隠れたりするくらいしか芸がない。囮役ならやれるだろう、けれど戦って倒すとなると話は別。


「ワタシの眠れる才能が急に目覚めたりして、こう、ズババーっと戦えるようになったらなぁ……」

「そんな都合のいい展開があったらびっくりだよ」

「フライアは魔法で戦えるんですよね? そうだ、ワタシに魔法を教えて下さい! ワタシも魔法でこう、なんかスゴイイカンジに戦いたいです!!」

「それは構わないけど、まずは千ページくらいの魔導書を数冊読み込むところから始めることになっちゃうよ?」

「アディスさん! ワタシに剣を! 剣を教えて下さい!!」

「逃げた……」


 そんなことをしていると、フェルエルが振り向いて言った。


「ユハビィはセイバーに興味があるのか?」

「なくはないんですけど、今はたぶん、お役に立つのが難しいんですよね」

「誰かの役に立つことを焦る必要はないさ」


 ――フェルエルからすれば、ユハビィがセイバーズに入ったとしてどの程度の足しになるかなど、とっくに分かっているだろう。

 たぶんほぼ役に立つことはなく、足手まといが増えるだけかも知れないことくらい、想定しているはずだ。

 しかし彼女はユハビィの気持ちを尊重し、積極的に止めることはしない。焦らずともよいと、背中を優しく叩くように言う。


「ユハビィが、自分でそうしたいと思ったなら、それが一番大事なんだ。このシマではな。私はいつでも一緒に戦える日を待っているぞ」

「――はい。じゃあ、お恥ずかしながら、考えておきますね」


 自分がしたいと思ったこと。

 自分で決めたこと。

 シマではそれが大事。

 それは、この村に根付いた価値観、或いは思想。

 始まりは誰かの口癖で、当人にとっては他愛のないジンクスのような、大して深い意味など無いはずの言葉だった。

 しかしシマに閉じ込められ、様々な自由を奪われた人々にとっては、真逆。まるでこの世のあらゆる理不尽に抗わんとする、人間の意地を表したかのようなその言葉は、村人たちにとって深く共感する金言と成り得たのだった。


 ――アーティも、いつも同じことを言っていたっけ。ユハビィはふと思い出す。

 いつも言っていたから、自然と自分もそう思うようになっていた。

 同じ価値観。

 共有された思想。

 それが偶然であるはずなど、なくて。


(……どう考えても、……この村には、アーティさんの足跡がある)


 彼は、自分の過去を全く語らない。

 いくら聞いても教えてはくれなかった。

 ユハビィはそれを、知られたくないことだから、と思っていた。

 誰にだって触られたくない過去の一つや二つ、あるものだ。記憶がない自分でも、今はそれくらいのことは理解している。だから彼が自分で語ろうとしないことについては、二度も三度も聞かないように気をつけていた。


 ……でも、この村にはきっと彼の痕跡があって。

 村を調べれば、いずれは彼の過去にも辿り着いてしまう。

 ……敢えて調べずとも、意図せずそれに触れてしまうことだって、あるかも知れないわけで――


(自分では、語れないけど。……知られてもいいって、思ってるのかな)


 それとも、案外。

 知って欲しいとさえ、思っているのだろうか。

 自分の口からは語れないような過去を……それでも誰かに知っていて欲しいと思う心が、彼にもあったりするのだろうか。世捨て人のように山奥で暮らしながら――未だに俗世に寄り添いたいと思ってしまう弱い心が、あの人間離れした強さを持つ少年の中にも、あったりするのだろうか……。


(……野次馬根性。悪い癖ですね。アーティさんが自分から話さないなら、ワタシがそれを知る必要はないのです。ワタシが勝手に過去を詮索したりしないっていう信頼があるから、アーティさんも何も言わずに村に置いていった。……それでいいじゃないですか。そういうことでいいんです、ワタシたちにとっては)


 ……世の中には、知ってしまったら後戻りできなくなることがたくさんある。

 知ることは誰にでもできる。しかし、知る前に戻ることは、誰にもできない。

 いつか。

 意図せず彼の秘密を知る日が来るかも知れない。

 けれど、せめてその日までは何も調べず、余計なことも言わないようにしよう。

 ユハビィはそう思い、アーティに関することは、胸の内にしっかりとしまっておくのだった。


 あなたが自分の口から、それを語る日が来るまで。

 ワタシは待ちます。何千年でも。



 *



 しばらく村の中を歩き回った後、アディス、フライア両名は村長への挨拶ついでにセイバーズ本部の見学に行くということで、フェルエルに連れられて別行動となった。

 村に残ったユハビィは、セラ、やどりと共に仕事探しを始める。


「村長への挨拶、行かなくてよかったんですにゃ?」

「アーティさんが、この村で唯一関わる必要のない人だって言ってましたので」

「あぁ……それはなんか分かる気がする……」


 セラは、やどりと共に村長への挨拶は済ませている。

 別にそこで何かおかしなことがあったというわけではないのだが、何せあの奇抜な覆面である。

 加えて、誰の前であろうと崩れることのない不遜な態度なども相俟って、凡そまともな人間には見えなかった。

 関わらなくて済むなら、確かに関わりたくはないタイプの人間ではあったと、彼女は思い返して苦笑う。


「どんな人だったんですか?」

「この村を作った人で、しかもセイバーズの創設者で、シマ最古参のメンバーの一人なんだって。覆面のせいで何歳なのか分からなかったけど、やどりがオジサンって言ったら、『まだそんな年じゃねぇ』って」


 しかし到底二十代という雰囲気ではない。

 何なら三十代であるかどうかもかなり怪しい。

 一般的に見れば確実にオジサンに分類されているはずである。


「ただ、最古参の割に妙に若いのは確かですにゃ。シマに流れ着いて二十年くらいっていうのも、最果ての海域の歴史の長さから見るとかなり不自然ですにゃ」

「やどりは細かいこと気にするよね。二十年前なんてわたしもまだ生まれてない大昔だよ? そんなの江戸時代じゃん」

「ご主人は後で日本史の勉強をし直せですにゃ」

「異世界で日本史の何が役立つって言うのさ。どうせやるならこっちの世界史でしょ」

「それもそうですにゃ。じゃあ帰ったら世界史のお勉強するですにゃ。絶対に逃がさないですにゃ」

「しまった墓穴を掘った……!!」


 やどりの言うことは聞こうと決めていた手前、もはや逃げ道のないセラなのだった。やどりは、やると言ったらやる奴である。例えこの後何らかの事故に巻き込まれて全身の骨が折れたりしていても、必ずお勉強会は開催されるだろう。間違いなく。


 それはさておき、このシマを含む海域は千年以上も前から存在が知られている禁忌の地である。行けば二度と帰ってこれないというのは世界の常識で、数多の人間が、帰らぬ者となった。

 好奇心に蓋はできないということだ。

 伝記にもなるような偉人すら、人生の終わりに最果ての海域に行き、消息不明であると綴られている者も少なくない。

 しかし、いざ当事者――即ち、このシマの存在を知る身となって改めて考えてみると、心の片隅に、燻る火種の如き小さな疑問が残る。


 どうしてこの村のような素朴な文化形態すら、たった二十年前まで存在しなかったのか?


 大昔から数多の人々が続々と流れ着いていたのであれば、こんなものはもっと何百年、何千年も昔から形成されていたはずではないのか。何なら、シマの中で独自の発展を遂げ、ちょっとした都市になっていても不思議ではなかったはず。


 なのに現実には、御覧の通り少し賑やかな村があるだけ。

 この事実は、果たして何を意味しているのか。


(何となく、予想はつく……。というより、他に理由は見当たらない。でも、まだ。分からないことだらけ、ですにゃ……)


 やどりは既に、その疑問に対する一定の解には辿り着いていた。

 確証は無いが、この村の成り立ちと歴史の浅さが、そう判断するに足るだけの材料であることは疑いようもなかったから。

 ただ、もし、その考えが正しかった場合――


(……言えない。こんなの、ご主人を不安がらせるだけですにゃ)


 今はまだ、何も言う必要は無い。

 こちらがしっかりとをしていればいいだけのことだ。

 必要なのは、考えること。

 このシマで生き続けるために、警戒を怠らないこと。

 死、とは。

 考えることを止めた時に、訪れるものなのだから。



 *



 ――拘らなければ難しくなく、気合いがあれば何とかやっていけそうで、さらに人に喜ばれる仕事としては、最初に思いついたのが畑仕事だった。

 村には農家がいくつかあるが、食糧供給はそれで十分かと言われると、決してそうではないらしい。

 農家でない人も自宅の庭にプランターを並べ、そこから少しずつ晩御飯のおかずを収穫しながら暮らしているのが一般的なのだという。


「――その理由は、ですね。【居住区】にはふつう、シマモノは沸かないのですけど、畑に向いた土地を確保しようと思ったら、そこそこ【森林区】に近いところまで出向く必要がありまして。年に数回くらい、農作業中にはぐれシマモノに襲われるなんていう事例が、あったりするからなのですよ」


 ――と、丁寧に語ってくれているこの童女は、村はずれに大きな畑を構える『ゲッツ団』の副団長にしてマスコット、スリス=リヴィングストンちゃんである。

 大陸においては帝国の創成期から続く由緒ある一族の末裔だったが、跡継ぎ問題が拗れに拗れまくった末に命を狙われる立場となったところを自称『正義の大泥棒』ことゴショガワラに救い出され、それ以来共に行動をしているんだとか。

 マジモンのご令嬢なので、セラの半分も生きていない割にかなりしっかりしており、落ち着いた風格がある。しかも元は貴族だったのにシマではこうして畑仕事に進んで取り組んでいる辺り、人間としての完成度の高さが窺えた。


「……ご主人、見習うですにゃ」

「現在進行形でそうしておりますですわよオホホ☆」

(無理そうですにゃ……)


 と、そこへ大量の農具を背負った青年――ゲッツ団の団長にしてスリスの現在の保護者、ゴショガワラが戻る。


「お待たせーっと……っこいしょお!! ふぅ……。それじゃあスリス、皆さんにこれをお配りして」

「はいはいさ!」


 テキパキと農具を配るスリスの後ろで、ゴショガワラはパンパンと手を叩いて注目を集めた。


「はいっ、では皆さんにはこれから、めくるめく素晴らしき農業の世界について――」

「ボッスの話は長いので割愛でいいですね。では皆さん、こちらについてきてくださーい!」

「スリスちゃん!! お願い待って!! 語らせて!! 俺の二年半にも及ぶ頑張り物語!!」

「あとでゆっくり聞いてあげますよー。ささ、皆さんこちらから畑に降りていきますのでー! 足元気を付けてくださいねー! ちゃんと地面を見て歩かないと、思わぬところに足を取られてすってんころりん、なんてことになっちゃいますので!」


 そんな感じでちょくちょく差し込まれそうになるゴショガワラの農業語りは手際よく割愛され、一行は初めての農業体験をスムーズに満喫したのであった。

 ゲッツ団の畑の隅の方に、仲良く三人で野菜の種を植えた辺りでお仕事体験は終了。

 ある程度育ったら、プランターに移し替えてプレゼントしてもらえるとのことで、今後の楽しみが一つ増えた。


「なんか普通に良い体験会だったね」

「あれ全部スリスちゃんが企画してるらしいですにゃ」

「そんな聖女が存在してて許されるのこのシマ!? 楽園か!? いいなぁうちにも聖女欲しい!! 聖女買って!! いい子にするから!!」

「大丈夫ですにゃご主人。ご主人にはやどりがついてるですにゃ」

「やったー! わたし第二のゴショガワラさんになる! ポスト・ゴショガワラ芸人になる! 将来的に第三、第四のゴショガワラさんを輩出して後世までその名を残してく!!」

「無関係の人にそんなことされてもいい迷惑だと思うですにゃ」



 *




「ふわぁっ……すっごい大きい店ですね……!!」


 お仕事体験を終えたユハビィたちは、ゴショガワラのオススメでシマ最大の飲食店『かもめのなきどころ』――通称『かもめや』を訪れていた。

 セラとやどりもその名前は知っていたが、来るのは初めてだった。

 というのも、外観がどう見ても高級料理店のそれ。異世界人からすると、迂闊に入れば黒スーツの怖いお兄さんに囲まれたりするんじゃないかとつい身構えてしまう、そんな雰囲気がある。怖いもの見たさで入ってみたい気持ちはあったが、なかなか一歩踏み込む勇気が出なかったのだ。


 しかしゴショガワラの話によれば、この店はとにかく外装・内装・食器に全力を傾けた言わばコンセプトカフェのようなもので、中身は至って普通の大衆食堂とのこと。

 ただし、どんなに平凡な料理でも高級感溢れる店の装いと高そうなお皿で包み込めば、まるで王族の晩餐のように感じられることもあるだろう。

 そんな不思議な魔法にかかりたいリピーターが後を絶たず、気付けば『かもめや』は村で一番人気のある飲食店となったわけだ。


「まるで高級旅館みたいで、テンション上がっちゃうよねぇ」

「ご主人、田舎者丸出しみたいなはしゃぎ方はしないで欲しいですにゃ」

「田舎者じゃないよ! 都会っ子だよ! 東京タワー登ったことあるもん!!」

「都民はその程度のことを自慢しないんですにゃ……。そんなだから都会に住んでるのに性根が田舎者だって笑われるんですにゃ」

「そんなことないもん都会人だもん」

「渋谷で有名なお店10個言ってみろですにゃ」

「え、えっと、ま、マ〇クと……スタ〇と……」

「それはどこにでもあるですにゃ……」


 元来た異世界トークに花を咲かせるセラとやどり。

 ちなみにユハビィはシマの外も異世界もどちらも知らないので、そもそもそれが異世界トークであることにさえ気付かない。知らない分野、領域の話は、区別さえ難しいものである。何事も。


「いらっしゃい――おや、新顔だね。ようこそ『かもめのなき処』へ」


 土足厳禁の店内に、備え付けのスリッパに履き替えて歩くこと数秒。

 出迎えてくれたのは、胸元に「のあちゃん(24)」と書かれた可愛らしいクマさんモチーフの名札をくっつけている、快活なお姉さんだった。

 名札はよく見ると小さく「帝国海軍第七特戦隊隊長/かもめや店長」とも書かれている。さらによくよく見れば、この店のスタッフの制服らしい衣装は、どことなく帝国海軍の軍服の面影があった。


「うにゃ? その服――もしかして帝国海軍さんですにゃ?」

「ご名答。少し改造して、店の制服にしてしまった。上にバレたら怒られるなぁ私。ははは。そんな日が来ることを願いたいものだね」


 ――当たり前だが、彼女もシマから出られなくなった人間の一人。外へ帰りたい気持ちはあるのだろう。今はこうして人の良さそうな笑みを浮かべているが、その胸中は計り知れない。


 ……帝国軍人さえも、出られないのだ。このシマは。その事実が、やどりには少し重い。幸いセラは特に気にしていない様子だが。少しは気にしろ――とは、思っても口にしない。


「いやー、そりゃもう驚いたよねマジで。だってあのダイナナ事件の当事者が生きて目の前にいんだぜ? 俺なんかもうサイン貰っちゃったよ、勢い余って」


 突然、ガラの悪い顔をした金髪ピアスの男が、ユハビィと肩を組んでいた。


「うわぁっ!? 誰!? いきなり!!」


 驚いて声を上げたのはセラ。当の本人であるユハビィはさほど気にしていない様子である。


「ダイナナ事件って、なんです?」

「お、聞きたいか? よーし、んじゃ俺と一緒にランチでもどうだい。奢るからさ」

「ユハビィっ! 駄目だよ知らない人とそんな距離感で!!」

「こっち来るですにゃ! この変質者はやどりがやっつけるですにゃ!! ふしゃーッ!」

「いえ、待って下さい二人とも。アーティさんいつも言ってました。他人の金で食べるご飯が一番美味しい――と! ワタシもそれを試してみたいのです!」

「人として大丈夫かそいつ??? まぁ否定はしねぇけど。実際ウマいしな。ノアちゃん、いつもの席空いてる?」

「あぁ。空けてあるよ。いつものメニューも準備できている」

「やったね。さっすがノアちゃん愛してるぜ。よーしお嬢ちゃん方、かもめや常連のこの俺が席まで案内してやるぜー!」


 そう言って上機嫌にユハビィから離れ、数歩進んだ辺りで思い出したように振り返る金髪ピアス。


「――っと、そうだった。そろそろ俺が誰なのか知りたくて我慢も限界な頃だろう。フフフ、良いとも教えてやろうとも。いいかよく聴け、その目に焼き付けろ! 絶賛活躍中のゴールド級セイバー! 今最もプラチナ級に近い男ッ、村で噂のイケてるアイツ! ライトニング・サンダーとは! 何を隠そう――このッ、俺のことだーッ!!」



 *



「――シマじゃあ、食材の流通管理は一個の組合で管理しててな。どの店にも平等に同じような食材が入荷されるようになってんだ」

「だからどの店でも食べられるモノは同じってことですにゃ?」

「ま、そんなとこだな。とはいえこの店が普通に並べてる料理も、大衆向けに加工されてまともな味になってるって意味では、ちゃんと評価ポイント高いんだぜ?」

「いや、料理店って普通そういうものじゃないの……?」

「ところがどっこい俺らが食ってる食材はだいたいシマモノだからな。中身はジビエとさほど変わらないんだが、まぁなんつーか、やっぱ独特っちゃあ独特でなー。調理のし方を間違うと、そりゃもう一瞬で暗黒物質ゲテモノよ。食えなくはないけどな」

「えぇー………………」

「ただ、そんなトンデモ料理を愛する食通気取りの変わり者も意外と多くてなー。そこは流石、こんなシマに好き好んで流れ着くような連中だけはある。他の店だと、シマの外じゃ絶対に見ないようなチャレンジ精神あふれる作品……もとい料理も楽しめちまうってわけよ」

「料理する奴も食う奴も、揃ってチャレンジャーですにゃ……」

「でも面白そうですねー。ワタシはちょっと食べてみたいです」

「オススメあるぞー。一番ヤベェのはやっぱシマモノの刺身かな。肉の生食い文化は数多あるが、まさかシマモノまで生食いしようとしてる店が現れるとは思わなかった。行政指導で匂いが絶対に外に漏れないように店の外壁が厳重に補強されてたな。それでもあまりに匂いが酷いもんで、今じゃ地下に押し込められてる始末だぜ」



 稼ぎの良いらしいゴールド級セイバーの奢りは豪快だった。

 店のオススメが、これでもかという勢いでどんどん運ばれてくるのだ。

 食べ切れるかどうかも含めて色々心配だったが、実際オススメされるだけのことはあり、どれも孤島サバイバルのお供としてはかなり上質。また食べに来ようと自然に思ってしまう程の出来に、身も心も満足してしまう。

 そんなわけで三人は結局、ライトニング・サンダーもといゴールド級セイバーのケンゴの思惑通り、ランチを堪能することとなったのだった。


 料理を食べ比べながら、やどりは道理で料理無双作戦が失敗するはずであると密かに納得していた。このシマで入手可能な食材でセラが披露できる程度の料理など、ここに並べたら普通に埋もれてしまうに違いない。

 でももしここで働いてシマ食材の加工技術を学び直したら、実は料理だけは少し得意なセラならば、もっと美味しい料理が生み出せたりするのではないだろうか、とも思う。

 シマ食材をベースに、異世界の叡智を組み込んだ、全く新しい料理が。


 セラは戦うよりも、そういう仕事の方が向いている。ならば自分は食材を調達する形で、彼女の仕事を手伝うことができるだろう。いっそ二人で店を開くのもいいかも知れない。

 ……なんてことを、考えていたその時だった。


「――」

「どったの、やどり?」


 急に手を止め、店の入り口の方に顔を向けるやどり。まるで、部屋の中で羽虫を見つけた猫のように。そして時を同じく、ケンゴも食器を置き、ゆっくりと席を立つ。


「……悪いなお嬢ちゃん方。ちょっち仕事が入っちまった。お代は先に払っとくんで、残りは三人で食っちまってくれ。じゃーな」


 外で何かが起きた、ということだけが分かった。それもゴールド級セイバーがランチを中断してまで出向いていくような、只事ではない何かが。


「やどり、お願い……ケンゴと一緒に行って……!」

「……。……分かったですにゃ。ご主人は店のスタッフの指示があるまで待機、いいですにゃ?」

「うん、……うん、大丈夫、わたしは大丈夫だから」


 セラに乞われ、やどりもまた席を立つ。

 一足先に外へ向かったケンゴに追いついたのは、彼が会計所で店員にお金と伝票を手際良く渡しつつ、釣りは要らない的なことを言っていた辺りだった。


「やどりも連れて行けですにゃ。下っ端セイバーよりは役立つですにゃ」

「そいつぁ期待しちまうな。んじゃあ一緒に食後の腹ごなしと行きますか」


 そして二人は足早に靴を履き替え村に出る。

 そこで目にしたのは――ここに決して現れるはずのない、シマモノの群れだった。



 *


 

 群れ、と言ってもその数は目視した範囲内で七匹程度。

 いや、多い。これでも多いのだ。普通、村にシマモノの群れが入ってくることは絶対に無い。何故ならセイバーズが日夜交代で【居住区】と【森林区】の境目上に点在する防衛基地から、監視と防衛を行っているからだ。一匹のシマモノが運良く監視の目をすり抜けて村へ迷い込むことは全く無いわけではないが、群れが入って来たことに気付かないような監視態勢では断じてない。


 ……森から来たのではない?

 ケンゴの脳裏に、悍ましい予感が走る。

 そうでないことを祈りながら、臨戦。目視で、敵戦力を推し測る。


「猫っ子。何匹イケる?」

「右から三匹まで。後は射程外ですにゃ。左の四匹は任せても?」

「オーライ。行くぞ!!」


 同時に飛び出す。シマモノも即座に応戦する。その形状は、甲殻類。特にカニに近い。サイズは人間大。体から飛び出した目がぎょろりと蠢き、ガチャガチャと一斉に動き始める。


 シマモノは一番近くの人間を襲う。基本的にそういう行動原理がある。村人たちが悲鳴を上げながら逃げていくのを、途中までは追い掛けていただろう。しかし店の中からケンゴとやどりが飛び出してきたことで、照準が変わったのだ。

 七匹のシマモノを四、三で分担し、それぞれ引き付けて距離を取る。


 シマモノから見て理想は七対一の各個撃破だったが、三対一も悪くはない。黒い外皮に包まれた鋭利な鋏を振り上げ、やどりに襲い掛かっていくカニの群れ。やどりはそのうちの一匹を正面から――叩く。


「――うぅぅ……に゛ゃ゛あ゛ッ!!」


 ――響き渡ったのは。

 まるで、金属同士が激突したかのような、凄まじい衝撃。

 さながら爆発の如く。

 隣に雷でも落ちたのかと思う程の。

 その、大気を震わせ、内臓を痺れさせるような轟音の直後。不用意にもやどりの間合いに入ってしまった一匹目のカニが晒したのは、表皮をぶち破られ、中身を飛び散らせた悲惨な胴体を半分以上も地面に減り込ませた、無様な姿だった。

 振り上げた両手の鋏が、誰もいない虚空を虚しく切っている。……それもすぐに止まるだろう。どうせそのカニはもう、そこから一歩も動けやしないのだから……。


 やどりは、猫族の亜人である。

 その細腕の内側に収まっている筋肉の質は、人間の比ではない。

 それが腕だけでなく全身でそうなっているのだから、渾身の力を込め、かつカウンター気味に放たれた正拳突きの破壊力は、軽く十トンを超える。


 ……無論、本気でその威力を出せば自分の拳もただでは済むことはない。なのでこの世界で彼女が選んだのは、惜しみなく本気で相手を殴り飛ばしても尚、自分の拳を守ることのできる武器――即ち、ガントレットであった。


 そもそもの話をすれば、やどりの拙い魔力操作による魔剣精製リヴァーシェでは、根本的に剣や斧のような大型の武器は具現化できないという事情もある。

 その点、ガントレットならば握った拳を包み込む程度の大きさで十分なため、彼女の力でも実用水準を満たすのだ。

 しかしその選択が、彼女すら予想していなかった大きな影響を齎す。

 やどりは普段から魔剣精製を、拳を包むイメージで発動していた。それが原因で、いつしか拳と魔拳の境界線が揺らぎ、拳全体が一つの魔法を体現する状態になっていたのだ。

 意識の変化が、やがて魔技マギを、魔法へと昇格させる。

 本能によって無意識に構築された魔法定式スクリプトが拳に刻み込まれ、魔素の出力量を桁外れに底上げする。

 ――その効果は、魔装転身ルルムテールにも似た自己強化。

 全身ではなく拳の一点を集中的に強化する性質は、総合力では魔装転身に劣るだろう、しかし、単発の破壊力、一点突破力においてのみ、彼女の魔法は圧倒的に勝る。

 何故なら彼女のガントレットには、本来決して交わることのない二つの力――魔法定式による高出力の魔力と、亜人としての高水準の膂力が、掛け算で乗っているのだから。


 有り得べからざる概念の両立。ヒトを超越した領域の力。そんなもの、一個の生物が出していい威力ではない。それ程までの暴力が、その拳には宿っている。


 ――だから、割れる。

 甲殻類型の、極めて頑強な装甲を誇るシマモノの外皮すら、容赦なく――叩き割る……!


 鋼鉄以上の強度を誇る黒い外皮が、まるで紙みたいに千切れ飛び、その裂け目からカニみそをぶちまけて絶命するシマモノ。そんな光景を見てしまったら、もう他の二匹も迂闊には飛び込めない。やどりに殴られれば自分もああなるということが分かっているのだから、近寄っていけるはずがない……!


「どちらにしても変わらないですにゃ。どうせ来なくても、こっちからいくですにゃッ!」



 横目に彼女の戦闘を見ていたケンゴも、心の中で賞賛の声を上げた。

 あれは確かに下級セイバーでは相手にならないだろう。低く見積もってシルバー級の上位、或いは既にゴールド級にも届くかも知れない。

 この戦闘が片付いたら、推薦状を出していきなりゴールド級に迎えてみるのもいいかもな――などと、既にやどりがフェルエルの誘いを蹴っていることを知らないケンゴは、そんなことを思ったりもした。

 よそ見をしている彼の傍には、既に四体のカニが飛び込んできている。


「じゃ――俺もイイとこ見せねぇとなぁ……!!」


 その瞬間、彼のピアスが怪しく輝いた。

 

 それは武器。

 それは兵器。

 それは――戦士であっても魔法が使用できる、チートアイテム。


 ケンゴが耳に装着しているのは、シマの探索中に偶然拾ったアーティファクト。神器ではないが、しかし人間の魔法技術の水準から見ればかなり高度な魔法が入った、いわゆる『当たり』の魔道具だった。大昔にこのシマで作られたのか、或いはシマの外から持ち込まれたのかは不明だが、ケンゴはその遺産を有難く自らの力とした。


 彼は戦士だ。戦闘スタイルはやどりと同じく近接格闘。磨いた技術と鍛えた身体が最高の武器。それ以上の不純物は削ぎ落とし、シマの外の、田舎の方ではちょっと名の知れた若手武道家だった。

 しかしこのシマに流れ着いた後、彼は思い知る。

 この世界には本物の化け物がいる。シマモノのことではない。同じ人間なのに、明らかに次元の異なる強さを持つ怪物が存在しているという話。

 井の中の蛙が、大海を知ったのだ。

 皮肉にも世界で一番、井の中という言葉が相応しいような場所で。


 膂力と魔力は相容れない。

 一つの身体の中でそれらは相反関係にあり、明確に片方を鍛えようとすれば、もう片方が目に見えて衰えてしまう性質がある。

 彼は既に、戦士としてはそこそこ一流。かなりの鍛錬を積んでしまった。だからもう魔法を使うことは一切できない。


 なのにこのシマには、その相容れない二つの力を両立させる化け物がたくさんいたのだ。

 そして、だからこそ彼らは強いのだと、理解した。

 どちらか片方だけでは、駄目だった。初めから間違っていた。この世界で強くなるためには……力も、魔法も、どちらも捨ててはいけなかった。今更遅い。どうすればいい。どうすればもっと強くなれる。ケンゴには、強さ以外に誇れることはなかった。強くて、人の役に立つことだけが取り柄だった。それを差し引いてしまったら何が残っているのかはもう自分では分からない。だから、折れそうになる心を辛うじて支え、彼は模索し続けた。そして……辿り着いたのが、魔道具の世界。


 魔道具は魔法定式を格納した特別な道具で、電力を供給すれば明かりの灯る機械のように、魔素を込めれば魔法が発現する仕組みになっている。そのため、魔法定式を扱えない戦士でも、少量の魔素によりその恩恵が受けられる。

 ただし魔法定式を格納できる鉱石は概ね希少価値が高く、世界中で見ても産出量が決して多くない。安物の石などでは、数回魔法を起動した時点で壊れてしまう使い捨ての魔道具にしかならなかったりする。

 それでも……このシマの何処かに、それが掘り出せる場所があるのではないか。もし魔法を格納する鉱石の、鉱脈が見つかれば…………自分が強くなるだけの話ではない、このシマの全員が、シマモノに対抗する力を得られるかも知れない。


 結局、未だにそんなものは見つかっていないけれど。

 その過程で彼は偶然、いや、奇跡的に、拾ったのだ。このピアスを。


「ライトニング……サンッ……ダァァァァァァァアアアッ!!」


 突き上げた拳に、雷が落ちる。

 本物ではないが、限りなく本物に近い魔素で出来た雷電――それが拳とぶつかった刹那、四方に爆ぜ、四体のシマモノの胸部を正確に打ち抜く光の矢となった。


 魔法にはいくつか属性があるが、電気、雷などを生み出す迅雷属性は、特に高位の魔法とされている。

 理由は単純に難しいからだ。それっぽいものは再現できても、並の魔法使いでは発電機を一つ購入した方がマシ。攻撃に転用するなら、スタンガンでも買った方が安上がり。光や電気の分野において、魔法は科学に遥か及ばず。それがこの世界の共通認識。

 ただし、何事にも例外はある。

 中にはいるのだ。そういう常識の当てはまらない本物の化け物が。

 きっとこのピアスの製作者もそうだった。


「ギ……ガギ……」「ギギガ……ッ……」


「効くだろ。表面のカタさなんざ関係ねぇからな。内臓丸焼け。てめぇら、もうとっくに香ばしいぜ?」


 ケンゴに飛び掛かったはずの四体のカニは、同時に崩れ落ちる。その間接の節々から立ち上る匂いは、食欲をそそった。流石は海産物である。考えたくもない事態だった。


(――間違いねぇ。こいつら、海から来やがった。……どういうことだよ……? 話が違うじゃねぇか……)


 ――海からシマモノは来ない。

 呪神メロウが、存在している限り。

 それはセイバーズの間で共有されている情報で……だから彼らは基本的には【森林区】から来るシマモノだけを見張っていれば良いはずだった。

 何か、予期せぬ事態が起きている。そのことだけが直感として分かる。だが今は、この場の七匹以外に上陸している個体がいないか、その確認が急務だった。細かい報告は後回しにするしかない。

 あの様子ならやどりの方もすぐに片付くだろう、とりあえず頼りになる相棒がいる間に目先の問題を片付けねば――と。そう思って振り返るかどうかの瞬間、再び凄まじい衝撃音が轟いた。

 やどりは強いが、あんまり暴れさせると騒音問題が発生しそうだな、などと思ったのも束の間。すぐ後ろの、かもめやの入り口が、爆発した。


「……あ?」


 ――やどりが、いない。

 彼女に任せた三匹のうち、まだ倒されていなかったはずの残り二匹の姿もない。


 ……代わりに、何かが、立っている。

 それは、真っ黒い姿の……ヒトの形をした、ケンゴでさえ見たことのない、シマモノらしき怪人だった。






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