「痛い目を見ろ」


 この世に確かなものが一つあるとすれば、それは人間の『意思』というものだろう。

 短くない人生の中に、人類の栄枯盛衰を見てきた。奇抜な覆面でその素顔を隠した男――ウロノスには、それだけが何より信じられる、この世界における真実の一つだった。


 獣が生きるために草を食み、或いは他の獣の血肉を貪るのは、遺伝子に刻まれた本能であって、半ば無意識による行動だ。

 人間と違って彼らは、全く無意味な行動は、しない。

 ……しかし。

 ならば、あえて。

 あえて、問おう。

 人間と獣の、どこに違いがある?

 人間だけが本能によらない『意思』を獲得したと、なぜそう断言できるのだ。


 確かに人類は多様化する社会に適応し、高度な精神を発達させたのかも知れない。

 だが、それが元より人間という名の獣の遺伝子に刻まれた無意識による行動ではないと、誰が保証できる?

 全ては。

 遺伝子によって予め決められていて、なるべくしてなったことかも知れないではないか。

 起こるべくして起こったことの積み重ねが、今の世界の有りように過ぎなくて……。

 そこに、どんな意味を求めたところで、結局そんなものは、意味があったように思えるというだけの、単なる妄想、幻想に過ぎないのかも知れないではないか――。


 広大な宇宙の中の、あまりにも小さな星の中。

 目に視えないくらい小さすぎるこのシマの中でも、一際小さい人間たちの代表――ウロノスは、だからこそ、悟っている。


「だからこそ、意思が大事なんだよ。たとえそれが遺伝子だろうが無意識だろうが、運命だろうが宿命だろうが、神々の手の平の上で転がされてるだけだろうが何だろうが――」


 自分は、誰かの都合で作り出された駒に過ぎないのだとしても。

 この世界がどこの誰ともつかぬカミサマによってデザインされた作り物の幻想なんだとしても。

 せめてこのちっぽけな頭で感じる、自分がそうしたいと願う確固たる意思だけは、何もかもが不確かなこの世界で、何よりも確かなものとして、信じていたいじゃないか。


「だから俺様は確固たる意思で言うぜ。ダラダラしてぇし、動くの面倒くせぇ。そんでチヤホヤされて目立ちてぇってな」

「キミは本当に、見ていて清々しいクズ人間だな」


 ウロノスの隣で、謎の白い毛玉生物は、呆れたように言ってにやにやと笑うのだった。

 湯飲みに注がれた緑茶を、ストローで啜りながら。


「それにしても美味いなーこのお茶」

「よし、もう少し採りにいくか」

「採るって、どこから」

「ゲッツ団の畑だよ。今ならあいつら、村にいるだろうから、へっへっへ。タダで手に入るぜ」

「盗むのか……。本当にキミは、クズ人間だな」

「バーカ。ショバ代ってヤツだよ。この村で一番偉くて強いのが誰か教えてやんねぇとなハハハ」

「アハハ。いつか絶対に痛い目を見ろよな、キミは」

「命令形かよ」



 *




 渾身の魔導を、今となっては誰も使わない古の魔法で跳ね返された。

 そのミリエが受けたダメージは凄まじく、彼女の莫大な魔素量をベースとする魔装転身の性能でなければ、逆に今ので死んでいたはずだろうと思われた。

 いいや、違う。

 本当に全てが跳ね返って来たなら、彼女自身の魔法防御力があっても、恐らく即死だった。

 実際のところ生き残れたのは、伝説の鏡の魔法エンシェントミラーの方も同時に破壊され、白き雷鎖の魔導チェインライトニングの威力が二人の間で分散したからだった。

 だから、跳ね返した側のフェルエルもまた同じくらいのダメージを負い、ボロボロの姿で辛うじて立っている。


 第三界域サード級の鏡の魔法をしたということは。

 間違いなくミリエの魔導は、第四界域フォース級だったことを示す。

 お互いにそのことには気付いていて、ミリエは勝ち誇り、フェルエルは冷や汗を流していた。


 咳き込み、息を整え、ミリエは杖を構える。

 ダメージが蓄積し過ぎている。

 もう、最初みたいな近接戦闘はできない。

 けれどそれは相手も同じ。だから――


「無理して立ち上がらなければ、こうやって、トドメを刺されることもなかったのだわ――!! 終わりよ、フェルエルッ!!」


 ――余力を込めた杖を、投擲する。

 一番最初に使った、魔技による火球攻撃だ。

 威力は明らかに減衰しているが、今のフェルエルに、それに対応するだけの力が残っているようには見えない。

 杖は再びぐにゃりと姿を変え――巨大な火球となってフェルエルを襲――


「――ッッ、……ごほッ……!!」


 ……瞬間、ミリエが強く咳込む。

 魔法攻撃へと変わりつつあったはずの杖は失速し、フェルエルの足元に落ちるかどうかのところで、魔素の粒となって蒸発した。


 本当の、限界だった。

 身体の内側を破壊する第四界域級迅雷系魔法攻撃が、半分だけとはいえ直撃したのだ。

 いくら魔女だからといって、強がりだけでどうにかなる問題ではない。

 彼女の意思を超えて、肉体が既に、戦闘不能だった。

 だから、目の前でフェルエルがまだ戦いたがっていても。

 ミリエはもう、それに応えることができない。


「げほっ、けほ……! はぁっ……はぁ……」

「ミリエさん!」

「ミリエねーちゃん!!」


 ぼたぼたと真っ赤な血を吐いて崩れ落ちる魔女に、今までどこに隠れていたのか、三人の眷属たちが慌てた様子で駆け寄る。

 インフィニティとクロウワルツが一様に心配そうな顔で見守る中、唯一ミリエより背の高いナインルートが肩を貸して、立ち上がるのを手伝っていた。


「ミリエ、今すぐ、私の血を……」

「い、いいわ……、大丈夫……だから……」

「しかし……!」


 そんなナインルートを突き放し、最後には自らの足で立つミリエ。

 ――嘘だ。立てるはずがない。誰もがそう思ったのに……彼女は、立ち上がる。

 その間、フェルエルはただじっと、待っていた。



 *



 ――伝説の鏡の魔法。

 それは、どんな魔法攻撃でも跳ね返すという、魔法使いに対する究極の切り札――

 しかし千何百年も前の時点で、それに対抗するべく魔法使いたちの間で魔技マギによる近接戦闘技術の向上が流行し始めて以後、その故に、歴史上からは姿を消すこととなってしまった。


 とはいえその魔法は、基本的に戦士よりも優位であったがために戦闘技術の洗練が遅れがちだった魔法使いたちに初めて戦闘における相性関係メタゲームの概念を生み出した切っ掛けとして、現代魔法使いの教科書に必ず、その名が記されている。

 だから、辺境の村のちっぽけな資料室で、独学で魔法を身に付けたミリエですら、当然その名前も、効果も、デメリットも、全て知っていた。

 ……いや、知った気になっていた――と言った方が正確か。

 今まさにその知識の隙間を突かれ、手痛い反撃を食らうことになってしまったのだから……。


「知らなかった、のだわ……。使えば他の魔法が使えなくなる、としか、現代には伝わってないんだから……まさか、身にまとう魔素の気配すら消し去ってしまうなんて――……そういう、大事なことは、書いとけってのよ……まったくもう……」


 大抵の魔法なら、試せばわかる。

 ……しかしその魔法ばっかりは、試してみるわけにもいかない。

 だから今の時代、そのデメリットの真価を知る者は、誰もいないのだ……。

 知られざる者。忘れられた、過去の遺物。それを侮ったから……ここまで追い詰められたと思えば、それはそれで、感慨深い話にでも、なるのかも知れない。

 そんな下らないことを頭の片隅に思いながら、ミリエは言う。



「……どうしたの? 今、追撃したら、あたしを倒せるかも知れないのだわ?」


「普通は、そうするべきだったのかもな。でも」



 フェルエルはミリエに向かって、一歩、二歩、歩みを進める。



「きっちり勝ちたい。相打ちとか不意打ちじゃなく――私は完璧に、おまえに勝ちたい」



 咄嗟に、ナインルートとクロウワルツが行く手を阻む。

 しかし、フェルエルは止まらない。



「私は、セイバーなんだ」



 ――そのつるぎは、曇らず、折れず、錆び付かない。



「どんな運命の壁すらも斬り伏せて、未来を切り拓く無敵の劔」



 そしてその、最上位。

 このシマで残り、たった二人だけの……。



「プラチナ級の、セイバーなんだよ」



 だから。


  絶 対 に 、 負 け な い 。



 暴圧――

 凡そ半死人の、満身創痍の人間から放たれるものとは思えぬ、気迫。

 フェルエルを取り押さえようとした三人の眷属が、思わず足を止める程の……!



「邪魔をするな。もう、さっきみたいな手加減はできないぞ……」


「「ッッッ!!」」



 森で対峙した時とは、まるで違う威圧感。

 これが正真正銘、プラチナ級セイバーの本領。


 インフィニティは動けない。蛇に睨まれた蛙どころではない。目も合わせてないのに、呼吸以外の全てがままならない。

 ナインルートはその一歩前までは出ているが、そこが限界だった。フェルエルに立ち向かう勇気の、最後の一滴が出てこなかった。なまじ三人の中で一番賢いから。実力の差が理解できているから。ここから一歩でも前に出たらどうなるか、誰よりも正しく予測がついてしまうから――。



「――うぁぁぁぁああああああッ!! それが何だッ、プラチナ級が何だって言うんだ、これ以上、好き勝手、させてたまるかぁぁぁぁぁぁあああああああッッ!!」



 ――そして、クロウワルツだけが飛び込んだ。全身を縛る恐怖の鎖を雄叫びと共に千切り飛ばし、果敢にも死地へと立ち向かっていった。

 インフィニティよりは自分の強さに自惚れ、ナインルートよりは賢くなく、そしてこの中の誰よりもあるじに忠実だったがために――

 目にも映らぬカウンターによって顎を撃ち抜かれた彼は、そのままフェルエルを飛び越え、反対側へと吹き飛んでいったのだった。

 彼の無謀な行動によって、フェルエルは既に立方体の結界が消失していることに気付いたが、今はどうだっていいことだった。


 飛び散ったクロウワルツの血が、フェルエルの肌に触れるか触れないかのところで蒸発し、青い魔素の粒となって微かな明滅を繰り返している。

 その幻想的な姿を見てミリエは、フェルエルの切った最後のカードが何なのかを見極めた。


「上位魔技……創魔心血フェリオラ……。さっきの、とってもかっこいいプラチナ級セイバーの自己紹介は……効果を底上げするための決意表明だったってわけね……」


 エンシェントミラーを使用した者は、その術式に呪われ、あらゆる魔法を使えなくなる。

 しかし魔技ならば例外だ。

 魔法定式スクリプトを介さず純粋な魔力のみで扱う小手先の技術ならば、エンシェントミラーの制約の対象にはならない。

 ……それでも普通、魔技しか使えなくなった時点で、例えエンシェントミラーという大きな武器を手に入れても、魔法使いとしては終わりだったはず……。

 だって、エンシェントミラーがどれだけ強力であろうとも、現代魔法使いの水準からすれば結局のところ、使い勝手の悪い過去の遺物に過ぎないのだから。


(往年のパワカも、インフレにはついてこれない――ってやつね)


 だからといって対策を疎かにしていると、忘れた頃に飛び出してきて不意の一撃をもらってしまうものである。

 そんな経験が過去になかったわけではないのだが。

 魔女としては、いつもいつも、つい遊びが過ぎてしまう。

 悪い癖だ。

 分かっているくせに。

 それで何度も後悔しているくせに、未だに治らない、昔からの悪い癖だった。



「勿体ないわね……創魔心血フェリオラは天賦の才、神様からの贈り物ギフト。そんなものが使えるなら、伝説の鏡の魔法なんかに手を出さなくても、きっと最強の魔法使いになれたでしょうに……」


「……順番の違いだな。世の中、都合よく物事が進んでくれるとは限らない。必要なイベントが、理想的な順番でやってきてくれるとは限らないんだ」


「……そうね。すこぶる同意なのだわ」



 ――ミリエは、立っているだけで精一杯だ。

 魔装転身ルルムテールは肉体を強化するが、あくまでも動かすのは自分自身。よって、ダメージを受け過ぎれば、最低限の防御力を維持することはできても、動けはしない。


 しかし創魔心血フェリオラはその上位互換。自身の体をより大幅に強化するだけでなく、全身を魔素と見做すことであやつり人形のようにコントロールし、本人の意識さえも超越した動きが可能となる。

 一応、魔装転身でも似たようなことができないこともないのだが、その精度の差はどう転んでも埋まることはない。


 追い詰められた。

 あと一歩で負けだ。

 あーぁ。

 勝てそうだったのに。

 どこでミスったのかなぁ。



(……本当、って羨ましいわ)



 ――いいじゃない。負けても。


 弱い自分が、脳裏で囁く。


 ――こんなのどうせ、運負けじゃん。


 判断は間違ってなかった。

 でも、たまたま選んだカードが悪かった。

 それだけの話。次やれば絶対に負けない。

 こっちにはまだ、見せてない手札がたくさん、あったんだから。



「み、ミリエ……!」



 ――次って、いつよ。



「退いて」


「ミリエ……! やめて下さい、もう、勝ち目が……!」


「退けって言ってるのッ!!」



 眷属二人を払い除け、ミリエはフェルエルの前に躍り出た。

 動けないはずなのに、それでも体が勝手に動くような感覚だった。

 理屈は知らない。

 わからない。

 考える余裕もない。

 強いて言えば――ただの意地だ。


 ――きっとあたしには、今、この瞬間に勝る愉悦なんて、二度と無い……!


 ずっと化け物だった。

 人間の世界に間違って生まれてしまった場違いな存在だった。

 でも、同じ奴が目の前にいる。こんなに嬉しいことはない。

 ましてこんな、地獄の底みたいなちっちゃな孤島の中で、そんな奴と出会えるなんて――夢なら一生、覚めないで欲しいって思ってしまう。

 もちろん分かっている、これ以上戦いを長引かせることなんてできやしないことくらい。意地と根性で無理矢理に動かない体を動かしたところで、これからやれることなんてもう、たかが知れている。


 だけどね、だけど――あんたが言ったのよ、きっちり勝つって!

 そんな簡単なリクエストにも応えてやれなくて、あたしの人生、何だったのよ?

 このままじゃ、魔女の名が廃る。

 どうせ負けるなら気持ちよく清々しく、最後は派手にぶつかって――そして派手に、ぶっ飛ばしてもらおうじゃない……!!


 そして――もしそれが出来なきゃ、フェルエル!


 あ ん た が 、 こ こ で 死 ね ! ! !




「……フェルエル。……あんたに、敬意を」



 不思議だ。

 あれだけ苦痛が、嘘のように、体の奥底へと引っ込んでいく。

 だから。

 今なら――また笑えるわ。

 目を閉じて。

 口角を上げ、首をもたげ、見上げるように見下すように、煽るように嘲るように!

 再び目を見開き、犬歯を剥き出しにし、笑う、嗤う、哂う――そして吼える!



「――あぁぁああッ、ただで勝たせるかよッ!! 超えてみろよフェルエルッッ、やってみろよプラチナ級ッッッ! あたしは魔女だッ! ヒトが恐れた災厄のバケモノだッッ!! ニンゲン如きがッ、魔法でッ、このあたしを簡単にッ、超えられるとッ、思 う な あ ぁ ぁ ぁぁああああああああッッ!!」



 吐き散らかされた真っ赤な血が、猛り狂う魔素の熱で蒸発し、赤い霧となって魔女を包む。まるで灼熱地獄の様相。そして、その全てを制御せんとし唸りを上げて舞い上がる、途方もない赤き魔力――!

 魔素と魔力と空気が擦れ合い、奏でられる歪な金切り音はまるで、力の奔流によって大気が、世界が、悲鳴を上げているかのよう……!


 ――魔法を使うには、その元となる魔素を、自身の能力である魔力によって制御する必要がある。

 ミリエはそのどちらも規格外の数値を誇っていたが、特にずば抜けていたのは保有する魔素量だった。

 明らかに自身の魔力で制御しきれない、半ば無尽蔵とも呼べる凄まじい量の魔素は、故に普段は使われることがなく、彼女の内側で眠っている。

 ……それが、今。

 解き放たれる……!


「やめて……やめてよミリエ! しんじゃうよぉ……!」

「……無駄です、インフィニティ。……もう、止められない」


 インフィニティを抱き寄せ、ナインルートはその目で、魔女の姿を捉える。


 ――並外れた力を持ってしまうと、つい考えてしまうものだ。

 自分は、周りの者とは別の生き物なのではないかと。

 そう考えているうちに、次第に本当に心を許せる相手がいなくなり、孤独は深まっていく……。

 それが力を持つ者の悲しい性なのだ。


 ナインルートも。

 インフィニティも。

 クロウワルツも。

 全員がそれを経験して、ここにいる。

 ……ミリエもまた同じなのだ。


 だからこそ、二人には止められない。

 止められるはずがない。

 やっと、長い長い悪夢から覚められるかも知れないのに、どうしてそれを止めることができようか。


 今日。

 彼女は出会ったのだ。

 もしかしなくても自分に匹敵する力を持つ者と。

 ニンゲンの身でありながら、互角に戦える相手と――。


 自分たちは無理でも、ミリエだけは人の世界に戻れるのかも知れない。

 ……このシマでなら、バケモノから、ヒトに還ることが……。


「彼女は、ようやくそれを確かめられる相手に出会えた。その喜びは、私たちが一番、よく分かっているはず」

「………………」

「だから……止めることなんて、できない。できるわけがない……!」

 

 自分と同じだけの力を持つ人間が、こうして実際に目の前にいる。

 だからきっと、このシマの人間たちは、魔女を恐れることなく、受け入れてくれるだろう。


「……この戦いが終わったら、あなたは村に行くべきだ。……こんな寂しい森の奥が、あなたの居場所であるはずがない――」



 暖かな微睡みの時間は、もう終わりにして。



「ブチ爆ぜろッッ…………これがあたしのッ、超・全・力・だぁぁぁぁああああああッッッ!!」


「――全力も何も、そんなの魔法ですらない、ただの魔素暴走じゃないか……ふふはははははっ、あっはははははははははははははははッ!!!」



 春の日の差し込む外の世界へ……飛び立つ時が来たのだ。




 *




「俺が行きゃ早ぇんだけどよ。ミカゲの報告じゃあたいそうな力の持ち主らしいが、どうせ俺より強ぇってこたねぇんだし」


 ――と。

 『ゲッツ団』の畑に忍び込み、天日干しされている茶葉をこっそり盗んでいるしょうもない村長は、その頭の上に乗っかっている毛玉に周囲を見張らせながら言う。


「でもまぁアイツもあれでまだまだガキっぽいしな。同年代くらいの、同じくらいの力を持つ奴がいたら、まぁ女同士だし、気が合ったりして、仲良くできるんじゃねーの? とか思ったりしたわけだ」

「へぇ。キミにしては珍しく、そういうところ気を遣ったんだね」

「あとは普通に森に行くのが面倒臭かったからってのもあるが」

「そっちが本心だろ絶対」


 頭の上に居座る毛玉は、やれやれと嘆息する――と。


「ん? なんか来るな」

「どうしたヨハネ。ゴショガワラが戻って来たか?」

「いや違う。ちょっと僕はドロンするよ」

「ドロンってなんだよ?」


 ドロン! と意味不明な音を立てて、ウロノスの頭の上から毛玉の姿が消える。

 わけも分からず取り残されたウロノスは、とりあえず顔を上げて周囲を見渡すが、特に変わった様子はない。


「んだよ。人が来たのかと思って焦ったぜ。流石に村長ともあろうこの俺が、畑泥棒で捕まるわけにはいかねーからなハハハ」


 と、高笑いのために大きく状態を反らせた時、彼の視界に不思議なものが見えた。


「……虹?」


 七色の輝きが、自分のいる場所を目掛けて、真っ直ぐ、真っ直ぐ――!


「おい、なんだそりゃ、おい、おい、おいおいおいおいおいおいおいお――――」





 *




「おーい、大丈夫ー?」


 頭から地面に突き刺さってピクピクしている、十四歳くらいの黒服の少年の尻を乱暴にげしげしと蹴りながら声を掛けていたのはキリムだった。

 村でとある青年と孤児院を経営している偉大なる不死鳥、永遠の孤高の翼フルコキリムである。


「ワルツー。ワールツー。おーい。蘇るー? それとも灰になるー?」

「う……ぐッ、……わ、我が混濁たる意識の闇に滑り込みし神託は……ハッ、か、神っ!」

「どうも神です。違うよ私だよ馬鹿」

「あっ主……!」


 地面から頭を引っこ抜き、ようやくキリムに気が付いたクロウワルツはその場で平伏する……と見せかけてすぐさまキリムに抱きつくと、一枚の大きな翼と化して彼女の体と同化し、姿を消したのだった。


『主ーっ! 主だ、主だ、わーいわーい!』

「私、未だにあなたのキャラがよく分からない」

『フッ……疾風かぜに聞くがいい。大いなる世界に響く魂の嘆きかぜにな』

「気が向いたらね」


 クロウワルツを『回収』し、キリムは周囲の惨状を見渡す。

 どうやら小屋は無事なようだが、庭全体がとても悲惨なことになっている。

 火山でも噴火したのだろうか。

 なぜこんなところに、冷えて固まった溶岩があるのだ。

 いや、理由は考えるまでもない。炎熱系の魔法。どうせミリエだ。




 ――さて。

 ご覧の通り、クロウワルツとは不死鳥フルコキリムの眷属である。

 彼女の総べる七翼のうち一つが擬人化され、顕現した存在だ。

 独立した意思を持ち、完全な自立行動ができる点、さらにキリムが保有する不死鳥の翼の能力を限定的ながら使用できる点において、その性能は通常の使い魔とは一線を画す。


 その翼の眷属をミリエに預けていたのが、他でもないキリム本人だった。

 理由は彼女が、ミリエにとあるお願いをしていたから。

 そのお願いが魔女にとってすら容易には実現できない内容だったため、報酬の一部前払いとしてその間、眷属たちにミリエの手伝いをさせていたのである。


 眷属たちとは少ないながらある程度の感覚を共有していたので、戦闘の気配を感じ取ったキリムはちょっとだけ急いで飛んできたわけだが、飛び抜けた実力者同士の戦いは瞬く間に決着し、彼女が到着した時には既にこの有様であった。

 もう少し早くついていれば被害は少なかったのかといえば、その可能性もかなり低かっただろうけれど……。


 今からできることといえば、どこかに埋まってるかも知れないミリエ(と、彼女と戦っていたはずの誰か)を探すことと、それがもし死んでたら蘇らせてあげることくらいか。

 普段は蘇生までそんなことはしないのだが、今回に限っては自分にも否がある可能性が高いので仕方ない。


「ミリエー。おーい」


 周囲を見渡すと、黒い土の中から赤い鶏冠とさかが生えているのが見えた。

 この周囲に生息する赤い鶏冠の生えた生き物といえば、頭の左右で髪の毛が鶏冠みたいに逆立っている奇妙な髪型の魔女、ミリエしか該当しない。

 鶏冠を引っ張ってみると案の定、焼け焦げた土の中からミリエが収穫できた。

 だが生傷だらけで、これではとても売り物にはならない。持って帰って家でも食べないので、このまま捨てるしかない。どこかの歌って踊れる農家が譲ってくれとか言いに来ない限り、廃棄だ。


「生きるー? それとも廃棄ー?」

「せめて捨てずに、おいしく食べて……」

「ほぅ、たくましい生命力。安心安心。で、私の眷属がだいぶ痛い目に遭ってたみたいだから見に来たんだけど、これはどういう状況?」

「プラチナ級が来たのよ……。あいたた、どっかその辺に埋まってるんじゃない……? 悪いんだけど、探してあげて……」

「わかった」

「ふぎゃん! ちょっ……なんで投げ……うぐぅ……」

「ミリエは雑に扱ってもいいって、ゼンカが」

「あんにゃろ……っ」


 ミリエを投げ捨てたキリムは、引き続きプラチナ級セイバーの姿を探す。

 よく目を凝らして探せば探すほど、戦いの激しさを物語る数々の痕跡が目に留まる。

 同じ人間、同じ種族どうし、なぜもっと仲良くできないのか――と一瞬思ったが、出会えば殺し合う宿命にある不死鳥としては、到底ツッコめたことではなかった。


「……それにしたって、ミリエ、これはやり過ぎ」

「エヘヘ……つい楽しくて」

「魔術の破壊力に指向性を付与すれば周囲に被害を出さずに済むでしょ。どっかの人魚が同じことしてたよ」

「だってそんなことしたら見た目が地味になるじゃんー」

「すぐ大量破壊したがる……困った生き物だよ人間は」


 呆れて空を見上げる――と、偶然にも屋敷の屋根から、緑色の髪がはみ出しているのが目に留まった。

 あの緑色はフェルエルで間違いない。

 このシマで緑色の頭をしているやつなんか他に知らない。

 両腕を翼に変えて飛び上がったキリムは、屋根の上に大の字で倒れているフェルエルを発見する。傾斜があるので転がり落ちないのが不思議だったが、器用に片足を引っ掛けている様子だった。

 いや、しかしそれにしても、それはもう死んでいるんじゃないのか……?

 それで生きてるのは逆におかしいでしょ、ってくらいにズタボロだった。


「やぁ――えっと。孤児院の。元不死鳥の」

「うわ……」


 こちらに気付いたフェルエルが笑顔で片手を振ってくる。

 どう控えめに見ても死んでいるとしか思えないやつが急に動いた上に陽気に話しかけてきたので、思わずドン引きしてしまった……。なんなんだよプラチナ級って。人間辞めすぎでしょ。


「……元じゃなくて、今も不死鳥だよ、今のところね。プラチナ級の。派手にやったね――それとも、派手にやられたね?」

「あぁ。つい楽しくてな。でも勝ったぞ! ふふふやはり正義は勝つ」

「どいつもこいつも……」


 つい楽しくて殺し合う生物がこの世界のどこにいるんだ。

 ……。

 ……いっぱいいた。

 不死鳥じぶんも含めて、ここにはそういう奴しかいなかった。




「だいたい、なんでフェルエルが来るの?」

「普通に任務だが? 森の魔女の真相を暴けって。あわよくば倒せって」

「なんでよ……ミリエのことは、ミカゲを通してちゃんと村長にも伝えてあるはずよ?」

「え?」

「え? じゃなくて。いや何。何その可愛い顔。あなたそういう顔するタイプだっけフェルエル?」


 すっ呆けている――わけではないらしい?

 フェルエルの、実に真面目な「よく分かっていない時の顔」を見て、キリムはと、ゾッとする。


 ……そう。

 そのまさかである。

 実のところ、ミカゲはちゃんとウロノスに報告を入れていた。

 与えられた仕事はパーフェクトにこなすことに定評のあるミカゲである。その辺は怠ってはいない。

 ただしパーフェクトに、というところに若干の難点がある。ちゃんと要求しなければ、それ以上のことは何もしないのだ、あの男は。

 つまるところ彼の中ではウロノスに報告した時点で全てが終わっており、その後何が起きようとも彼の知ったところではないのである。


 そしてウロノスはそれを知った上で、勝手に特別任務と称してフェルエルを森へ派遣し――こういう結果になった。

 いやでも、フェルエルはあくまでも調査に来ただけなので、ミリエたちが積極的に応戦しない限りは――つまりフェルエルの好奇心を無暗に刺激しなければ、そもそもこんなことにならなかったとも言えなくはない。あくまでセイバーとして任務をこなしていたフェルエルには、さほど罪はないように見える。

 じゃあ、誰が悪いんだ? これ。


 キリムが再び地上に飛び降りると、ミリエの隣にインフィニティとナインルートが揃っていた。

 眷属と本体は、ある程度の感覚は共有している。

 つまり今、キリムの中で非常にモヤついた感情が渦巻いていることに二人は当然気付いている。……だから、正座だった。


「……聞きたいんだけど、いいかな。最初にフェルエルに手を出したのは、誰?」


 一同をじろりと見渡し、キリムが問い掛ける。

 おずおずと手を上げたのは、インフィニティだ。


「いや……その……ミカゲおじちゃんの、かたきを、と……」

「あぁ。私がちょっと挑発したんだ。その子は悪くないぞ」


 屋根の上から擁護の声。

 キリムはしばらく考えるような素振りを見せてから口を開いた。


「そう……じゃあ無罪」

「ほっ…………!」


 全力で平らな胸をなでおろすインフィニティだった。

 有罪だったら大変なことになる。それが分かっているから、気が気でなかった。


「で、だとすると次は」

「はい……私です」

「何か言い訳はある?」

「その……気絶したフィニを背負ったニンゲンが急に現れまして、てっきり人攫いか何かかと思いまして……」

「そうね。あなたはフェルエルとは初対面だものね。仕方ないね」

「そ、そうです、やむを得ない状況だったのです! 我が主!」


 言い訳を重ねるナインルートに、ずいい、と近寄るキリム。

 その目はまん丸く見開かれ……圧が、とても怖い。


「私、言ったよね。おまえに。眷属の仕切り役として、まずは村の人間の顔を全部覚えろって。……一番最初に、そう言ったよね?」

「…………」


 ……ナインルートは、だいたいいつも、デキるヤツ系のオーラは醸している。

 しかしその中身は結構な面倒臭がり屋で、やればできることに関しては、大抵やらない。何せ、やればできるのだ。できると分かっていることをやることに、彼は価値を感じていないのである。


 その結果、キリムあるじからの指令を見事に後回しにし、初対面のフェルエルを人攫いと勘違いして、このザマだった。

 一番悪いのは村長で間違いないとして、身内の中だと、ナインルートこいつは若干、赦されざる位置にいた。


「わ、我が主。言い訳をさせて下さい」

「よかろう」

「わ、我ら偉大なる不死鳥からして、他種族の顔など全て同じに見えるもの……お、覚えろというのがそもそも酷な話ではないでしょうか。ヒヨコのオスとメスを……いや、これはもはやアメーバの顔を区別するかの如き難易度……いかに私が優れた頭脳を持っていても、これではあまりにも、話の前提からしておかしいというかなんというか云々」

「つまりおまえは、私が悪いと? この私が間違えたのだと?」

「めっっっっっっっそうもございませんっっっっ! 全ては私の至らなさ故であったりなかったりしちゃったりしなかったりですハイ! もう全面的に! そうっ、世界が悪い! えぇ、もうこの時代と風潮が悪い! 環境が悪を作る! 不死鳥に罪はない! そういう感じのアレがコレしてソレする方向でどうか一つ穏便に――」



 ナインルートの渾身の土下座が、地面にちょっとしたクレーターを作る。

 見下ろすキリムの目は……とてもつめたい。



有罪ギルティ


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁお許しを我が主ぃぃぃぃいいいいいいっっっっ!!」



 ナインルートの頭を踏みつけ、命を吸い取る吸命結界――死の半径によるダイレクト・ドレイン。

 ミリエが「あ」と声を上げたと同時に、ナインルートはモヤシになっていた……。

 もっとも、半日もすれば元の人間の姿に戻るだろう。変わり果てた彼が、うっかり今夜の食卓の添え物になってしまわない限りは。



『ナイン兄さん……あなたのことは、忘れません……いつか忘却の風が吹く、終末の時まで……』


「ワルツは……特に理由もなく戦いそうだから別にいいわ。無罪」


『イエーーーーーー! ナインざまァーーーーーーーー!』


「だから。あなたのキャラが分からないのよ、私」



 キリムの脳内で、クロウワルツは上機嫌だった。

 彼は不幸が大好物である。

 不幸をおかずにご飯が三杯はいけると自負している。

 自分の不幸でも大丈夫だが、もしそれが他人の不幸であるなら、その三倍はいけるという――つまり九杯だ。随分な大食らいである。ご飯だけでは栄養の偏りが心配だ。死ぬほどどうでもいいけど。


「……で、あとはミリエなワケだけど」

「あたしはほら、使い魔を通してフェルエルが攻め込んで来たのを見てたから、身を守るために返り討ちにしてやろうと……」

「音は聞こえないんだっけ、使い魔」

「流石のあたしでも今はそこまで割けるリソースがないのよ。分かるでしょ?」

「むぅ。ま、そうだよね。今日は仕方ないね。じゃあ無罪」

「当然なのだわ!」


 ミリエが優れた魔術師であったとしても、流石に限度もある。

 それが分かっていたから、キリムは大切な眷属を預けたのだ。

 ミリエはただキリムのお願いを果たそうとしただけ。守ろうとしただけだ。罪なんかあるわけがない。


「………………」


 大きく溜息をついて、キリムは頭をかく。

 とりあえず、誤解は全て解けたようだし、これで良しとするしかない。

 本当に。

 とりあえず。

 やむをえず。


 ……本当は全然納得してないし、今すぐ殴りにいきたいヤツがいるのだけど……。

 それは隠すまでもなく、あの変態覆面村長のことなのだけれども。

 あれには関わりたくない。

 関わるとろくなことにならない。


 だから。

 キリムは願う。


 あいつ、マジで一回ものすごく痛い目を見ないかな――と。


 その願いは、果たして神様に届いただろうか。

 少なくとも今頃は沖合で遊んでいるであろう、呪われてる方の神とは違う、もっとちゃんとした、運命の神様みたいなやつのところに。

 心底、そうであってくれと願うキリムなのであった。




 *




 豊かな大地。

 降り注ぐ天の恵み。

 様々な命の気配を運ぶ穏やかな風はいつだって、時間に囚われる人間の頭上を悠然と過ぎ去り、彼方へと流れてゆく。

 そんな美しい自然に満ち溢れたこの孤島に流れ着いてから、彼――ゴショガワラには思うことがあった。


 大陸にいた頃は、つまらない盗賊業を営んでいたっけ。

 世のため人のためだなんてのたまいながら貴族から金品を盗み、一部を着服して、残りをばら撒いたりだとか、本当につまらないことをやっていた。

 しかしこのシマの圧倒的な自然の大きさ、力強さ、そして暖かさに包まれた今となっては、大陸にいた時の自分の余裕の無さがなんと不思議で、ちっぽけに見えることか。

 生きるとは。

 幸せとは。

 もっと近くに、手を伸ばせば触れられるくらいのところに、あるんじゃないのか。

 シマに流れ着いてから常々、そう思わずにはいられないのである。


「――スリス。今日はいい天気だ。一番いい野菜を収穫して、それを昼飯にしよう」

「はいですっ、頑張るですよ!」


 ――この子と一緒に、この島で生きていこう。

 小さくてもいい。

 慎ましやかな幸せを抱えて、生きていこう。

 それでいいじゃないか。

 それこそがいいんじゃないか。

 世紀の大泥棒ゴショガワラはもう死んだ。

 ここにいるのはただのゴショガワラだ。

 余計なものが全て取り払われて、俺という人間の本質だけが残った。

 その俺の本質がそう言っているのだから、間違いない。

 それこそが俺の、一番大切な、偽らざる気持ちなのだ。


 そして家につくと畑が吹き飛んでいた……。

 何らかの力が巨大なクレーターを生み出し、畑どころか、家ごと全てを吹き飛ばしていた。

 そのクレーターの中心に、覆面をつけた変態が、ブッ倒れていた。


 いったいここで何があったのだろうか――何一つ理解が及ばない光景だったが、一つだけ確かなことは、畑、及び自分の家が、綺麗さっぱり、今日までの汗と苦労の結晶ごと消滅しているということだ。


「んな…………なんッ、じゃこりゃぁぁぁぁあああああああああ!!!」

「うわぁぁぁあああああっ! なんですかこれぇぇぇえええ!!!」


 最近やっと実をつけ始めた果物の樹とか。

 今朝まであったはずの、瑞々しい野菜が育っていた畑とか。

 ちょうど収穫時で、色んな人に配ったり売ったりしていた茶葉とか。

 何もかもがまるごと消滅していたのだから、これが叫ばずにはいられようか?


「はっ、は、畑、畑が、俺の畑が……は、走って逃げ、逃げた……っ……!? すごい、きせきだ、これは奇跡だーーーははははは!」

「お、おおお、落ち着いてボス! 畑は逃げません!!」

「はっはははは。そうだな。畑は逃げない。逃げるわけがないんだ! そう、目の前の苦境から逃げ出すのは、人間の特権だ! 素晴らしい、逃げるって、素晴らしいなスリス!!」

「逃げないで下さいボスっ、現実から目を背けないで!」

「なるほど現実! だが待って欲しい。俺達が見ている世界は本当に現実と呼べるのだろうか!? この世界は本当はプロジェクターに投影された映像に過ぎなくて、俺達はそれを観測する者たちの存在にまだ気付いていないだけなのではないだろうか!? そうだきっとこれは夢だ。胡蝶の夢なんだ! 俺が畑を消し飛ばされた夢を見てるんじゃない、畑が消し飛んだ姿を俺に見られているという夢が俺の脳内で再生されていていわば世界とは入れ子構造だということをまだ俺たちは何も知らないまま目に映るものだけを見て満足してきゃっきゃうふふしてるだけなんじゃないのかどうなんだ俺よ!?!?!?!?!」

「もう全然何言ってるのかワケ分かんないです!! 誰かっ、誰かぁぁぁぁああ!!」


 ――さて。

 キリムの願いが、果たしてどこの神の手によって叶えられたのか、はたまた単なる偶然だったのかは定かではないが。

 ミリエとフェルエルの最後の激突によって生じたエネルギーは二人の上空へと飛び、しかしそのまま飛んでいくかと思ったら急に進路を変え、あろうことかまさに畑泥棒の現行犯であったウロノスに直撃したのであった。

 さすがに無敵で不死身で最強のクズ、変態覆面男のウロノスといえども、無防備にそんな極大威力のエネルギーを喰らえば、ただでは済むはずがなかった。

 結果、ゴショガワラの畑ごと吹っ飛ばし、その爆心地にて無様にブッ倒れることになったのである……。


 そして全治三日(なぜたった三日で治ったのかは意味不明)の病み上がりに、全ての責任を負うことになったウロノスは、しばらくの間ゴショガワラ(というか主にスリス)に顎で使われる羽目になったのだとか。


 クロウワルツではないが、それを聞いてみんな、ご飯が三杯いけたのだとか……。







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