第3話 百合に男は必要ない③

 

 女郎花おみなえし桔梗ききょうは、僕の幼馴染である。


 身長は175㎝、体重56キロ。10月31日生まれの17歳。高校二年生。

 幼馴染とはいえ、どうして女子学生である女郎花の詳しいプロフィールを知っているかというと、女郎花もまた御形さんに並ぶほどの有名人だからだ。

 女郎花は170センチ強という恵まれた身長を持っているが故に、ことスポーツにおいて負けたことがない。所属している部活動はないものの、この高校になる運動系の部活動の全てにその籍を置き、その全てにレギュラーとしての席がある。普通そんな生徒がいれば他の部員から文句が出てきそうなものだが、そういった話は一切ない。理由は明らか、女郎花はやんごとなきイケメンだったのだ。女子から見れば、それはもうやんごとなきイケメンなようで。一緒に居れば『夢心地』のように幸せな気分になれるようだ。


 僕と女郎花は物心のついた頃からの、かれこれ15年近く知り合いだけれど、僕は彼女が男以上に男前だと一瞬も思ったことはなかった。なにせ小学生のころの女郎花には常に僕がセットでいたからだ。小学生の時に身長が伸び切ってしまった女郎花はその気がなくても周囲に圧力をかけまくり友達がいなかったもんだから、僕がつなぎとなっていた。

 けれど、中学に入って僕や同級生たちは晴れて思春期へ突入。そこで、あることに気がついた。

 女子は、女郎花の整った顔立ちと男らしい見てくれに。

 僕は、女子と行動を共にするという関係性の恥ずかしさに。

 それぞれ気がついてしまった。それから僕は女郎花を突っぱねるようになり、かれこれ5年近く、顔を合わせることはなかった。



「やっほ、桔梗ちゃん」


 そして、どうしたものか。

 5年ぶりに顔を合わせた僕と女郎花。片や百合に魂を売ったヲタクに、片や学園のマドンナと付き合う学園のカリスマ。格が違いすぎる。人間として。それに、付き合い下手な女郎花を放ったらかしにした罪悪感もあって、単純にバツが悪い。

 女郎花はそんな僕の横をスタスタと通り過ぎて、そのまま御形さんに張り付いた。それはもう、後ろからべったりと。なるべくくっつく面積を多くしろと命令されたように。


「薺、どうして四月一日がいるんだ? あたしが男の中でもこいつが一番嫌いって知ってるよな?」


「もー、桔梗ちゃんってば、カリカリしちゃって可愛い」


 肩に乗っかった女郎花の頭を撫でる御形さん。


「そういうのは良いから、早く答えて」


 そう言う女郎花だったけれど、その顔は人懐っこい大型犬のようにとろんと和んでいる。本来ならこの状況、イケメン美女と正統派美少女の濃厚百合シーンはすぐさま物陰に隠れ正座をし血涙を拭きながら手を合わせて拝むのが礼儀だが、その片割れが女郎花というので少し戸惑った。


「ぇ……っと。邪魔なようなら、僕教室に戻ってるけれど」


「黙れ、あたしは薺に聞いてるんだ。口を挟むんじゃあない、四月一日」


 怒られた。


「こら、桔梗ちゃん。亞生君は私が呼んだの。これからの私たちに必要なの」


「そうか。薺が言うなら仕方がない。四月一日、そこにいるのも喋るのも許可してやる。だが、それ以上は近づいてくるな」


 女郎花も怒られた。そして手のひらを返してそのままぶっ刺してきた。

 そのまま女郎花はぎゅっと御形さんを抱きしめたまま僕を警戒し続けている。幼い頃の、お気に入りを取られないようにしている姿そのままだった。これが女郎花でなければさぞ美しい光景であっただろうか。


「それじゃあ、二人とも。本題に入るよ」


 女郎花に抱えられたまま、御形さんが言った。

 苦しくないんだろうか。


「今日は何日でしょうか? はいッ、亞生くん答えてッ!」


 御形さんは曇った空を仰ぎながら僕を指さした。


「何って、12月の17日」


「じゃあ、来週は何があるの、桔梗ちゃん?」


「クリスマスだな」


「そうッ、ならクリスマスのカップルは何をするの?」


「そりゃあ、Sのつく如何わしいことをだな……へぶしッ!」


 口をふさがれた。女郎花が投擲してきたドアストッパーが僕の顔面をクリティカルヒットしたのだ。そんな女郎花本人はというと、僕を睨みながら「チッ、チッ、チッ」と指を振っている。


「薺。クリスマスのカップルは何をするんだ?」


「デートをするんですッ!」


 溜めておいてひねりもない宣言をした御形さん。そして謎のどや顔を見せる女郎花。

 その姿はもう形容しがたいほどお似合いの百合カップルなんだろうと言わざる負えないのだけれど、正直こんなカップルを漫画で見たら興奮して死にそうになるのだけれど、理想の中と違う御形さんと幼馴染の女郎花となると、なんだか素直に喜んでよいものかと思ってしまう僕であった。


 御形さんが言うには、二人は付き合ってこの方デートをしたことがないらしい。それは2人とも方向性が違っても学内での有名度は段違い、誰もが彼女たちのことを知っているのだから友達としてはいざ知らず、恋人として街に繰り出せないのは窮屈だったそうだ。

 それにクリスマスは恋愛において外せないビッグイベント。どうすれば良いか考えているところに発生したのが、『無謀にも御形さんに告白をしてきた僕』というわけだった。


「ってことは、僕を含めた3人でクリスマスを過ごすってこと?」


「なんだ、薺とクリスマスできるのが不満なのか。贅沢をぬかすな、快諾しろ、謹んでお受けしろ、その身に余る幸福を神に感謝しながら享受しろ。四月一日」


「違う違う違うッ! 御形さんも女郎花も分かってないッ! いいか、『百合』ってのは女の子のためだけに許された天国なんだ。そんな天国に男という穢れた物質が存在することは許されない。そんなことくらい分かってるだろ、自覚しろッ!」


 血気迫る女郎花に負けじと僕は吠えた。


「僕は絶対に行かないからなッ! 百合に男は必要ないんだッ! 当事者になってやるもんかッ‼ 絶対にッ‼」


 12月24日。

 僕は、待ち合わせ場所に立っていた。

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