ヒーロー

k

『彼』の話をしよう。

 



 彼は、人に必要とされたかった。

 そして、愛されるということを知りたかった。

 人の記憶に、思い出に残りたかった。



 宇宙飛行士、科学者になって人々に夢を見せたかった。


 政治家、医者になって人々を救いたかった。


 俳優、芸人になって人々を楽しませたかった。


 絵描き、小説家になって人々の様々な感情を知りたかった。



 こんなに大きなことではなくても。

 少しでも人に必要とされたかった。

 近しい人を求めていた。


 家族、という脆く美しいものにも憧れた。




 ある日、彼は人を、人々を救う。

 自分の身を呈してまで、自分の命を差し出してまで。



 そして人々の記憶に残り、愛された。


 彼は、英雄ヒーローと呼ばれ語られる。

 時に残酷に、時に美しい話として。




 彼の夢は叶わなかった。

 求めていたものを、何ひとつとして手に入れることは出来なかった。






 ああ、そうだ。

 彼は欲を持ちすぎたのかもしれない。

 そしてそれが、彼を壊した。





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ヒーロー k @AonoHibiki

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