青春物とか恋愛物を気軽に楽しめない。

@toshiaki10

第1話 懺悔

「今している恋が常に初恋みたいな顔してるやつっているよな。」


僕は自分の内にあるものを吐き出そうとするけれど、考えながら話そうだなんてそんな難しいことが僕にはできるはずもなかったので思いつく言葉をただ並べることにした。


「いきなりなんなのさ」


「いやね、好きだとか恋をするとか、その時の感情ってのは今までに経験したことのないようなものだと思うんだよ。

だから好きな人が今までに3人いたなら一人目より二人目、二人目より三人目のほうが度合いで言ったら大きいものなんじゃないかってね。」


「それで?」


「だから今している恋が初恋だって考えはあながち間違っていないんじゃないかとね。僕は思うわけだよ。

今好きな人は今までで一番好きなわけだから、その人を好きになった時点で前まで好きだと思っていたのは今思ったら恋ってわけじゃないだ。ってね。」


まあでも現実はそううまくいかないし、これは一種の理想主義なのかもしれない。

論理的に言っているようで現実が見えていない。これは詭弁だ。


「ああ、なるほど。今から自分に恋人がいない理由を説明しようとしているわけかい」


「いや違う。」


自分の反射神経がこんなにも優れているとは驚きだ。


「そんな必死に否定しなくても大丈夫だ。わかってるからな、述べるのは理由じゃなくて言い訳だってことは」


ぐぬぬ


「せっかく真面目な感じで始めたのに結局こうなるのか。」


そろそろ真面目に話すのもきつかったのでありがたくはあるけどさ

まじめな顔して言い訳だなんてダサいにもほどがあるしね


「まあいいさ、言い訳をきいてあげるよ。」


「んじゃ、改めて。

さっき言った考えでいくと、より好きな人が見つからなかったら永遠に過去に縛られる生活を送ることになるだろ?」


「別に恋なんてしなくても死ぬわけじゃないだろ」


全くこいつは一体なにをいっているんだか。


「いや死ぬね。周りがどうかは俺にはわからないから何とも言えないけど、少なくとも恋ができないってのはつらいことではある。

有名な歌手だって『can anybody find me somebody to love』とか言ってるくらいだぞ。

それに恋をするってのは楽しいことだとも思うしね。」


いい歌だよね。somebody to love

過酷な人生を送ってきたわけでもない僕が引用するのは、なんだか忍びない気持ちではあるけれど。


「私が疑問に思うのはそこだよ。」


「そこ?」

こいつが恋なんてものを知っているとは思わないが。


「君が一番最初に恋というものを知った時、それを楽しいと感じたんだろ?

君は楽しいことは何かを犠牲にしたり罰を受けてもやりたいと思うような人間だ。

次に恋をした時にはもうすでに『楽しむ』という目的が『恋をする』ことに含まれてしまっているんじゃないかい?」


「それは確かに否定できないな。二番目の恋が冷めた時に僕の心にあった人はやっぱり変わっていなかった。

でも僕は過去に彼女に対して酷いことをしてしまったから。もうどうにもできないんだ。会わせる顔がない。

何度か謝ろうと試みたものの、会う日の前日にドタキャンをくらってしまったよ。」


「いいことを教えよう。

世界に目標なんてないし、人生に目的なんてないんだ。

君はさっき恋をしなければ死ぬといっていたが、大丈夫君は死なない。

ただ過去の楽しかった記憶を思い出してそれに浸っているだけなんだ。

今に満足できていないのを過去のせいにしているだけ。」


「…」


「いや、それともあれかな。

過去に酷いことをした罪悪感が誰かに対して好意を抱いた時に自らの足を引っ張っているのかな。」


分かっているさ。もともと言い訳を言うつもりだったんだからそう考えている事くらい自覚している。

でも実際、こう言われるとぐうの音も出ない。図星だ。言い返す言葉もない。

だから僕が次にいう言葉はこうだ


「ぐう」


「まったく何をしたいんだよ君は。

でもまあ、せっかくだ、いつまでも自己嫌悪をしている君にもう一ついいことを教えてあげよう。

『君は悪くない』

人は時間とともに変わるものだ。厳密にいえば一秒前の君と今の君は違う人物だともいえるだろう。

だから『君は悪くない』

過去の君は悪いことをしたからと言って今の君が苦しんでやる必要はない。

だからへらへら笑って生きていけばいいさ。」


そうだな。そう出来たらどんなにいいかと常に思っている。

実際に何も考えていない連中とつるんでへらへら過ごしていたこともある。

でも僕ももう大人といっていい年齢になってきた。

だから


「それは出来ない」


「何も考えずに生きるのは楽だぞ。目の前に幸せが落ちていたら拾って、手に余るものだったら拾わない。苦しんでる人がいたら助ける。でもそれも手に余るものだったら無視する。見て見ぬふりをする。自分も苦しんでいるんだって言い聞かせてまた次に進む。

そのうち自分の靴に泥がついていて歩きづらくなるけれど、それは自分の歩き方や道の選択が悪いのではなくて、道が悪いんだって、機会があったら靴を変える。

いい人生じゃないか。」


結局僕は器が小さいんだろう。だから楽な道があればすぐに選びたくなってしまう。

けどそれは楽なだけで、一度振り返ってみると残るのは後悔だけだ。


「靴を見るとその人についてわかるそうだぜ。僕の靴には後悔が絡みついているんだろうさ。

でも僕はすごい気に入っているんだ。

だって後悔の前には絶対に幸せがあったはずなんだ。じゃなきゃ後悔なんてしないからね。

だから僕は後悔を見ると思い出す。つらい記憶だけでなく自分が得ていた幸せもね。

忘れてしまうのはもったいない。つらい記憶だったかもしれないけれど忘れてしまったら、謝る機会を逃してしまうかもしれないしね。」


楽観的な考えだとは思う。結果的に今も僕はへらへら生きているんだろう。

でも考えることだけはやめてはいない。これからもね


「でも少なくとも恋愛について言えば、お前は謝ろうと努力したのにもかかわらず、無理だったわけだろ?」


「まあそうだけどさ。

別に思い出は楽しいものだけじゃなくてもいいんだ。つらい思い出だってあっていい。

僕がずっと自己嫌悪しているだけで相手はとっくに忘れているかもしれない。

たとえそうだとしたら僕は誇らしく思うぜ。

それに後悔を抱えていることは幸せになれない理由にはならない。」


最初は恋愛のことについて話していた気がするけれど、なんだか自分が何を言っているのかわからなくなってきた。

結局僕はなにが言いたいんだろう。


「君は結局何が言いたかったんだ?」


最初に君がいったんじゃないか

「言い訳だよ」


「私は言った。『君は悪くない』とね。

でも君は『僕は悪い』思っているんだろう。

言い訳っていうのは悪くないと思っている奴がすることだ。

だから君が言いたかったのは、いやしたかったのは


懺悔だよ」


たしかに、そうかもしれない













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