松葉 ー高嶋涼太

高嶋涼太、16歳。

超名門男子校・篤学園大学附属高校の高入生わずか30名の切符を手にした男。

神妙な面持ちで品川の改札を出て、学校へ続く道をただ一人、歩んでいる。詰襟の銀ボタンが白く曇った。都会の朝は寒い。高嶋の地元・桜坂も決して田舎ではないにしろ、登校時にはすれ違う人も顔馴染みが多く、挨拶は欠かせないものだった。人が多いように見えて、都会は孤独である。秋の朝月がビルの向こうに消えようとしていた。無論思いつめた顔が空に向かう事もなく、高嶋は名月に気が付かない。

「下向いて歩いてると美人を逃すぞ~」

「しょーたろーーーぉぉ、俺いつになったら彼女出来るんだろぅ」

神妙な面持ち、が一気に泣き顔に変わって高嶋は松太郎に抱きつく。

育ちも全く異なる二人でも、高校生の色恋話となれば目的は同じ。

松太郎は昨日の事を思い出し、人知れず唇を緩めていた。

「松太郎はいいよな顔が良いから。クリスマスまでに彼女なんて余裕だろ?」

儚い妄想の図星を突かれて緩んだ唇をきっと結ぶと、それなんだけどさあ、と少し気まずそうに高嶋に投げかけた。

「俺、昨日…出会っちゃって、さ。」

豆鉄砲を喰らったような顔でうえええ!と叫ぶ高嶋。ちょ、写真ないの写真!!!!照れくさそうにスマホを取り出す松太郎と、恋人のめどが立たない高嶋の焦りは品川の一等地に驚くほど似つかない。

「これ、ちょっと前に集合写真撮ったやつだけど」

松太郎の手から奪い取るようにスマホを覗き込む高嶋。

は、と短い吐息が漏れるように思えた。

思ったより可愛くないとか言うのか、それともなんで全員着物なんだと突っ込むのか?なにかおかしいところはあっただろうかと、焦燥に駆られる松太郎。しかし高嶋の口から発せられたのは、予想を大幅に上回っていた。

「紅音じゃねえか」

豆鉄砲を喰らったのは今度は松太郎。確かに、昨日の記憶を辿るとうちの学校に同級生がいると言っていた。

「中学の部活の同期なんだけど、ガチ?」

「お前、こんな美人と同期だったのか?許せねえ…」

驚きと怒りをも乗り越えた静かな落胆が松太郎を襲う。

「美人かどうかはさておき、なんか分かる気がするわ。松太郎とあいつなんか似てるもん」

似てる、という一言ですら心が高鳴る自分を押さえつけて、松太郎はいやに声を張った。

「俺がお前だったらもうちょい幸せだったのになあ」

それを聞いた高嶋は肩をすくめて振り返る。

「俺も小学校から篤学園にいれれば、苦労しねえのにな」

秋空のようにからっと笑った二人の先に、校門が見えてきた。

月はもう見えない。


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