第96話

いにしえの英雄達や上位者達によって、総てのルキフグス達は打倒されました、そしてこれにより魔界を防衛する事は出来た……と、思われたのですが―――


「気を抜くのは早計です!真の闘争はこれから―――」

「クシナダ……そうか、あんたはニュクスと同化していることにより私達よりはあいつらに詳しい。」

「フン―――通りでね……手応えが軽いとは思ったんだ。」

「……と、言う事であれば、私達は少々サービスが過ぎてしまったようですね。」

「だから……なんだと?また再び立ち上がろうと言うのなれば、またはらい撃てばよいまでの話し。」

「【神威】は相変わらずのようですね…けれど我々はこのまま前線に立つべきではない―――と、そう考えます。」

「それはどうしてかしら、ウリエル。」

「公主―――あなたもお人が悪い、こちらの手札は総てを見せるべきではない……と、こう申しているのです。」


魔界側の他の誰よりもラプラス達に精通しているクシナダにより警句がなされました。 それはつまり、ルキフグスが単なる同じを持つ9人もの有象無象うぞうむぞうの寄せ集め―――ではないと言う事、この事が示す事と言えば先程くびきを断たれた“ヘッズ”が…

「フン―――ニュクスめ、余計な知恵をつけてくれたものだ、だがまあいい……お前達の『最大奥義』とやらはこの眼で、身体でしかと見極めさせて頂いた。  そう言う事だ―――あの9人全員がオレであり、ルキフグスなのだ!!」


「―――そして、その総てを統括するのが“ヘッズ”であるお前と言う訳だね?」

「ほう―――御大将自らおでましとはな、では大将同士で決着を着けると―――」

「それには及ばない。 私はこう見えて憶病なのでね、お前如きの口車に乗って敗けてしまわないかと気を揉んでいるのだよ。」


「は? は、は―――は……これはとんだ拍子……」


「―――と、私がそう言えば、少しは油断したかな?」


そう、この“ヘッズ”こそがルキフグスの本体―――である事を既に魔王は看破みぬいいていたのです。

そしてここで、“攻”と“防”の総大将の初対面―――と言う事で、ルキフグスは直接対決に持ち込もうとしたのですが、意外にも気弱な発言に気を好くしてしまったか、『これならば―――』と、思ってしまったか……しかしそれは、知恵ある者の歪言わいげんである事が知れるとルキフグスの御業みわざが魔王を襲い……?


「控えろ、下郎―――お前自身は『大将同士』と思っているようだが、こちらとしては事情が違う、所詮お前達はお前達の次元せかいで“神”を僭称する騙る者の前に膝を屈し、言いなりになっているに過ぎない。 そんな者共が自らの意志で魔界せかいの頂点に立とうとした御方と、同等だと思い上がるな!!」


魔王は、自らの身に危険が及ぼうともその両のかいなを組み、悠然とたたずんだままだった。 その姿は余裕からくるものなのか……はたまたは諦めからくるものなのか―――


いやそれもまた愚問―――


魔王カルブンクリスは、避ける事も防ぐ事もこれっぽっちも考えてはいなかった。

それはまた、自身が魔王登極を表明する以前から交流のあった〖神人〗は天使族のおさ【大天使長】ミカエルがいたから……

一つの派閥の頂点にありながら、その“いつわり”をもって互助関係を構築させてきた『天使』と『魔王』―――信じ合って背中を預けてきた間柄だからこそ、魔王は無防備にすらなれていたのです。

そしてルキフグスが放った御業みわざはミカエルの炎の防壁により掻き消され、ここに勝負は極まったか―――に、思われたのですが……


「フフフ……ここまでになると最早憐れ―――としか言い様がないね、まあもっとも君達に対し憐憫れんびんを持ち合わせるなど論外だ、そこで……“取り引きディール”と行かないか?」


「(カルブンクリス―――?)」

「(魔王さんよ……この期に及んで何を―――?)」

「(まさか……この方―――?!)」


総勢100万の軍勢で構成された今回の魔界侵略軍―――

その圧倒的戦力、物量に於いて魔界が自分達の手に陥落おちるのは時間の問題であろうとさえ言われていました。

なのに……結果としては侵略ラプラス軍は自分ルキフグスただ一人を残すのみ―――

こんな馬鹿げた戦争で生命を散らすなどもってのほか―――とはしていても、周りを囲まれており逃げるにも……退く事も儘にならず、窮地へと追い込まれるのでしたが―――ここで思ってもいなかったような発言が、実に意外な人物より投げ入れられた―――『取り引きディール』……それは交渉話し合いもって相手に応じる、しかしながら魔王のそうしたおもんばかりを“疑う”ものと、おもんばかりの先を見据えたものの両方が……


そう―――魔王は……


取り引きディール……だ、と? ああ―――よかろう……屈辱的なれど、この上は致し方のない事だ。」

「そうか、ならば、話してもらおう。 一体“誰”の差し金だ……話せ、“総て”を―――話せば、お前如きの小虫のする事、単なる“戯れ言”として赦してつかわそう……。」


現在の状況に於いて、自分は絶体絶命―――なのに、意外と魔王は人が好かった……?ここまでの窮地に追い込まれたのはルキフグス自身が彼自身の次元せかいに於いて“神”を僭称する騙る者に膝を屈させられて以来だった。

それをあの当時には、その存在をを繋いでもらう代わりとして以後は“神”を僭称する騙る者の命令に従わなければならなかった…それをまた、この度も味わわされようとは―――けれども『生命あっての物種』……生きていればこそ、機会はまたある―――

そしてお人好しの敵の総大将からの温情おなさけ―――『取り引きディール』を持ちかけられ、悔しい半面ながらも生きていればこそまた機会は―――そう思っていたのに……


魔王からの質問に、途端に彼の者は口を噤んつぐんでしまった……


しかしこれこそが魔王からの『取り引きディール』の内容だったのです。


それに、カルブンクリス自身は『周知』―――の様、にも拘らず、今回の侵略担当者口から言わせようとした。

取り引きディール』とは銘打ってはいるものの、それは既に『取り引き《その概念》』から著しく外れたもの……


言わば、脅迫おどし―――嘲弄あざけり……


魔王は―――赦す気など、毛頭ない……


しかし“ある者”に関しての事を、言わせようとしている……


それも、敗残者ルキフグスの“存続いのち”を、天秤にかけて―――


もう……この『取り引きディール』は申し出た直後から、既に破綻をしている―――


そして、決裂をしてしまうのも……時間の問――――――――題………………


「ぅ……おのれえ~~―――!」


「シェラザード、『解放を許可する』!!」

「はいっ―――!」


〖久遠の空〗=〖恵の大地〗=〖大いなる聖域〗=〖いかなる邪悪を弾き〗=〖あらゆる邪念を貫きたる至高の鏃よ〗=〖来れ破邪の一撃〗

〖アルダー・ストライク;セレスティアル・スタンピード・アナイアレイション〗



#96;神意アルカナム



言えようはずがない―――もし言ってしまったなら、自分は『彼の者』との服従の契約により、何の力も莫き存在に変えられてしまう……しかもそれはハッタリではない事を、何度も何人もこの眼にしてきた……。

ルキフグスは、元は『彼の地』に於いては、その『彼の者』に対しての抗し得れるべくの“急先鋒”ではありましたが、『彼の者』の圧倒的な力の前に平伏ひれふさざるを得なかった。 しかしながらただ敗北を受け入れたわけではなく、いつか―――隙あらば……の、反攻の機会は伺っていたのです。 しかしそれすらも叶わないと判ってしまった今となっては、『彼の者』の命令通りに動くしかほかはない―――それに、『彼の者』にしてもそうしたルキフグスの心中を詠んでもいた為、安易に信用することはなくそうした“契約”を半強制的に結ばせたのです。


けれど……そうした事情など魔界側には伝わらない―――伝わる事はない……

だから自暴自棄と成り、カルブンクリスと玉砕を試みようとするも―――


それに、魔王にしても、この機会を待っていたのです。

自分達……魔界側が保有する“最大の戦力”―――それは【緋鮮の覇王】を筆頭とするいにしえの英雄達でもなけれは、“三柱みつはしら”の実力者の2人でもない。


その“”―――【閉塞せし世界に躍動する“光”】……


シェラザードは、『グリマー』である者は、前任者より権能チカラの継承をした時、己に秘められたこの権能チカラに既に覚醒めめざめていました。

100人張りの剛弓を引き絞り―――放たれた矢は、眩いまばゆいばかりに輝きを放ち、やがて幾つもの“陣”を形成しました。

そして1本に見えた矢は、標的に近まるにつれ分裂し、標的の至る所……文字通りの9つもの“急所”を貫いた。

ルキフグスもまた、ニュクスよりも格段上の実力を保有する者ゆえ、敵の猛攻撃に耐え得るだけの耐久性に手段を擁していましたが、その為の防壁陣が見る影もなく打ち砕かれ、しかも再生機能も無効化された……そしてついの一撃が本体である“ヘッズ”を貫破する……。


それこそが≪神意アルカナム≫―――【閉塞せし世界に躍動する“光”グリマー】に備わる、唯一にして無比の権能チカラなのです。





つづく

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