第80話

くだん”の出来事の後―――同じ場所に竜吉公主はいました。



ここ―――か……

しかし……あの者、一体何を目論んでいるのか……



突如として夜の闇を利用し現出した者が、一瞬その強大な権限を解放し“何か”を取り込んだ……までは竜吉公主も知覚しえていました。

しかし、過去には自身に拮抗しうるだけの実力を所有する者が、一体“何を”その存在の内に取り込んだのか―――判らなかった……


だから―――……


[【“水”の熾天使ガブリエル】少し協力を頼めない?]


            ……――――――……


「何事ですか、竜吉公主。」

「ここで何があったか、判らない?」

「あなたほどの実力者が、判らない事など……」

「『判らない』からこそ、協力をお願いしているの……」

「ふむ……まあいいでしょう。」


“水”を操る神仙に、“水”の熾天使―――同じ“水”を扱う事にかけては互いに引けを取らない者同士……でしたが、互いに違う陣営だからこそ―――か、どことなく“ぎこちない”……そこの処を判っていたからか、先に竜吉公主の方から折れたかたちを取りました。


その事を汲んだものか―――ガブリエルは……


「時間にして“刹那”―――その狭間にて闇の力が増大していますね。 まあもっとも……この夜分ではより闇の力は強まる。」

「(やはり―――……)」

「それに……狙われたのは―――ヒト族の女性?」


ガブリエルに備わる“権能”を用い、この夜の辻ばしょで何が行われていたか―――の、実況見分を行った際、常人では知覚する事すら不可能な時間ときのはざまにて、被害に遭った者の特定にまで至る……


「しかし―――判らないものです。 この私達すら惑わす者が、多寡たかヒト族の女性一人を―――」

「そこは、判らない話じゃないわ―――」


ガブリエルが、『あなたほどの実力者が』と言ったのは本心からでした。

けれど彼女竜吉公主には知覚できなかった……それは何故なのかと言うと、竜吉公主自身も知る彼女以上の実力者が、……?

<反作用>―――そうしたすべを仕掛けられていた為、場所までは特定出来てはいてもその場所で何が行われていたか―――までは判らなかった……

そこで竜吉公主は、同じ“水”を扱う上位者『ガブリエル』に協力を依頼し、何が行われたかを知ることが出来たのです。


そして同時に、“あの時”の事を、思い返していた―――


           * * * * * * * * * *


「フ―――フフフフ……どうやら“敗け”の様ね。」


「(なに?)」

「潔いですね……こうも“あっさり”と敗北を認めるとは。 しかし、逆説的にすれば“そこ”が不気味でもある。」

「ウッフフフ―――『不気味だ』なんて、最高の褒め言葉だわ! だから、そのご褒美に……そこの“あなた”―――あなたに、このわたくしを束縛し封じる栄誉を授けてしんぜよう……。」

「(!)―――私? 何故私なの……」

「“あの男魔王”の異変を嗅ぎ付け、このわたくしを“あの男魔王”から引き剥がした―――その理由だけではダメかしら?」

「公主―――お気を付けを……この者の策かもしれません。」

「(……)いえ、ここは敢えてこの者のげんに従いましょう。」

「公主??気を―――」

「気は、確かよ。 けれど、自ら縛に着きたいと言うのならばこの機会を逃す手はないわ。 確か……お前は『ニュクス』―――と、言ったわね、そもそもの、お前の目的とは何……?」

「束縛をさせてあげるだけではモノ足らないの?あなた……見かけによらず慾深いのね。 けれど残念―――その事を語るのは“今”ではないわ。 けれど……そうねえ―――これくらいはいいかしら―――

今から350年の後―――また新たなる者が生み出される……その新たな息吹は、今あった者よりも一層強く輝ける……その時わたくしは、わたくしにかけられし封を自ら破り這い出て来よう……その時には、邪魔をしないように―――介入しないように、しておきなさいね……もし、わたくしの邪魔をすると言うのならば、その時は容赦なく―――蹂躙ふみつぶして差し上げるから……それに“これ”は、あなた達にとっても好い話しでもあるのよ?」


350年前―――奇しくも魔王ルベリウス討伐の際、魔王を相手していたヴァーミリオン達とはまた別の場所で竜吉公主とウリエルの2人は【黒衣の未亡人ブラック・ウィドウ】でもあり、【夜の世界を統べし女王】でもある『ニュクス』なる者と火花を散らし合っていました。


が……程なくして、ニュクス自身が闘争を放棄した―――?

それに伴い、彼の者自身が望んでいた事……束縛され封印される事―――しかし、恥辱を受け入れる一方でこうも言っていたのです。


『その時わたくしは、わたくしにかけられし封を、自ら破り這い出て来よう』


と―――……


その有言が、実行に移された―――?しかも、狙われたのは、ヒト族……?

しかし後日、竜吉公主は奇妙な光景を目にするのです。




なぜ……?

なぜ……捕らわれたはずの“彼女”が、ここにいる―――?

捕らわれ……取り込まれたはず―――なのに??

なぜ、、そこにいる―――??



#80;這寄るハイヨルヨル



竜吉公主は―――“普段”は、眷属達に気遣われないよう、気負わせないようにと“お調子者”のていを取り繕っていました。

そう……“自称”を天使騎士と名乗るなどして―――そんなアンジェリカ“自称”ちゃんが目にした光景。

“普段通り”の、喧騒が絶えない―――あのクラン……

そう……そこには、クシナダがいた―――

あの被害現場での検証の結果、強大過ぎる闇の力に一瞬にして取り込まれたはずの―――あの彼女の姿が……


「ね―――ねえ……あの……ちょっと?大丈夫??」

「何がですか―――今は取り込みちゅ……あっ、コラ!待ちなさい―――しぇる゛あ゛~~!!」

「あっ、りゅうきちぃ~~丁度いいところに―――」

「(……は?)り……りゅうきち??て、誰の事よ―――」

「りゅうきちはりゅうきちでしょ?公主さん―――それより聞いてよぉ~~!」

「(りゅうきち……りゅうきち竜吉!?あっ、それで―――?)……じゃなくて―――なんでわざわざ私を巻き込もうとするのよ……」

「いや、まさしく今キャラ崩壊しちゃってますことですしねぇ~?」(ムヒ☆)

「(う……にゅにゅ~)―――モ~~怒るゾッ! プンプン!」

「いや……今更取り繕われてもなあ~?」

「アハ……ハハハ―――」


そう……―――

竜吉公主自ら認めざるを得なくなるほどの実力を有する者―――ニュクスの闇の力に取り込まれ、てっきり闇に染まり切ったモノと思われたのに……



どう言うつもり……?

お前が350年後の現在、私が施した封印を破り出てくると公言し、事実私の封印は破られた……

そしてお前は、ヒト族である彼女クシナダを犯したはず……なのに―――?



竜吉公主が判り得ていた事とは、目的が達せられようとしていたその目前で目的を放棄してしまった者―――

そしてその者自身が、捕らわれる事を望んだ……けれどその者は、捕らわれたとはしていてもまたいずれ自らの意志で這い出てくる事は宣言していたのです。


しかし“それから”―――

自ら封印を破って這い出てきた“後”の事は、話してはいなかった……

そしてこのマナカクリムで、あったとされている“事象”……

闇に捕らわれ、犯されたはずの鬼道巫女は、何事もなかったかのように日常を過ごしていたのです。





つづく

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