第72話

私達は、一体“何”と闘っているんだろう―――


それは、今までの自分達の“常識”にはない、“非常識”。

これまでが安穏あんのんと―――安寧あんねいとしていただけに突如巻き起こる『動乱』の陰。

しかし、その兆候は以前にもあったのです。

それが自分達も知らない、『異次元の知的生命体』―――“超”獣の襲来。

けれど脅威は“超”獣それだけではなかった―――


“今”にして思う―――“なぜ”……


“なぜ”―――自分達よりも“上位”の存在が、その者達の掃討を請け負っていたか。

“なぜ”―――“上位”の存在達は、自らを偽ってまでそうしていたのか。

“なぜ”―――魔界せかいの王は、自分の様な者を招き入れようとしたのか……


いや、そもそも『魔界』とは―――? 『魔族』とは―――?


色々な要因は盤根錯節ばんこんさくせつとしてあり、真実とは何か判らなくなるまでになる……

そう――“真実”を……“不都合の塊”を……


          * * * * * * * *


閑話休題それはさておき―――

山積みとなっていた王女としての公務もほぼ消化し終え、その日シェラザードは自分の婚約者である侯爵グレヴィールと“行幸みゆき”と称した領内の見回りをしていました。


「この辺りも、大分復興して立ち直ってきたわね。」

「その通りですね。」


この時の“行幸みゆき”には程度の近侍も着けず、“たった2人”での行幸みゆきでした。


それに……実は―――


「あの人達、帰したんだって?」

「ええ、まあ―――あとの事は私達でも手に足る事ですので……」

「(フン……)全く……あんたと来たら、腹黒いの変わんないままだよね。」

「これはこれは――― あなた様から、その様な賛辞を頂けるものとは。」

「(賛辞なんざしてやしない~ての)大体、あの人達も一緒―――って言ってた時点で、オカシイとは思ってたんだよ、そしたら案の定―――【黒キ魔女ササラ】や身代わりシルフィまでは判るにしても、アウラまで巻き込みやがって……絶対アウラあいつ、“見返り”要求して来るぜぇ~?その時どうするつもりだよ。」

「どうもいたしませんよ。 それに、この一件に関しては既に折り合いをつかせていますので。」

「ハ・ハッ―――!全く、あんたの“腹芸”と言うか、何と言うか……しばらく見ない間に“芸達者”になったもんだわ。」


今回の行幸みゆきには、お互いの近侍はつけていない―――文字通りの『二人きり』……しかもお互いは婚約までしている者同士―――とくれば、下衆なモノの見方しかしない……出来ない者にとっては、甘い一時ひとときの様にも思えてくるのですが、そこで語られたのはなにも甘やかな色恋のささやき―――などではない……寧ろ“腹の探り合い”……それが出来るのは、物心ついた頃から好き好んでつるみ、悪戯わるさばかりをしてきたからこそ出来ていた事……


「(フッ……)もう―――この辺にしておきましょう……シェラザード様。 あなた様は実によい働きをしてくれました、この私が成り上がる為にはどうしても邪魔な存在……父や兄を“粛清”と称し、この世から抹殺をしてくれた―――そこの処は感謝申し述べる次第にございます。

ですが…あなたのお役目は、もう終わったのです。 出番の終わった舞台俳優が未だ舞台に立っている事こそ、滑稽の極みと言うもの―――それにエヴァグリム私達は次の段階へと飛躍すべきです。

あなたの活躍粛清のお蔭もあり、鈍重な亀の様な我々は一夜で千里を駆ける虎の様に素早くなりました、これかからは“速度”の時代―――あなたはこのたび自分の矜持きょうじならい、“妥協”をしてきませんでした…けれどもそれではあの“老害”共となんら変わりはしない、ですから速やかなるご退場を―――」


未明―――エヴァグリムの王女“遭難”の一報が伝えられる……

それは折しも、自身の腹心であり婚約者でもある侯爵と“二人きり”で行幸みゆきをしていた時分じぶんに―――

それに“この一報”は王女遭難を目の前まのあたりにしてしまった侯爵自身によってもたらされたものでした。


王女の行方は、依然いぜんとして不明の判らないまま―――

“死んでいる”のか、“どこかに潜んでいる”のか、それとも“誘拐された”のか、それすらも……

それに一緒にいた侯爵も程度以上の手傷を負っており、“王女遭難”は全くの虚報ではないことが知れるのですが……?


          * * * * * * * *


一方こちら―――マナカクリムでは……


「な~~んだか、大変なことになっちゃってんなあ?」

「まあ~~“王女遭難”―――ですものねえ?」(アハハ……)

「―――。」(ムスゥ)

「おやおや、どうかされましたか?クシナダさん―――」(ムヒヒ)


「(いや―――『どうされましたか』も、なにも……)」


彼女王女シェラザード彼らヒヒイロカネ達とは一定以上の絆の深まりを見せた者同士、だからこの凶報王女遭難も彼らにしてみれば衝撃的なはず……なのに?


どこか絵空事―――他人事の様だった……


それもそのはず―――


「ヒィ~~ヤッハァ~~~! あいつの悪企みわるだくみなんざチョロいもんよォ~~!」


「おやおや、シェラさんじゃございませんか、どしたのですぅ~?」(ムヒョヒョ)

「なァ~に言ってんだか、ササラもあの現場にいたくせにィ~」(ケラケラ)


自分達のクラン部屋で祝杯をあおる、一人の女性エルフの冒険者―――

しかもそれは、遭難し、行方不明になっているはずの王女様ご本人だった?

しかも??その王女様ご本人の証言によると、このクランも一枚噛んでいるようで……


そう―――実は……



#72;三度目の出奔



「ふぅ~ん……つまり、邪魔者は早々にご退場を―――てか?」

「あなたは影響力が強すぎる―――あなたはその個性が強すぎる……強すぎるモノは邪魔でしかないのです。」

「だから―――行幸みゆきと称して私と二人きり……婚約者同士と言う事で近侍さえつかせなかった……それでぇ?『こんな場所』で、私に何をしようとぉ?私と恋路を語らい合いたいイチャコラしたい―――てか?違うだろ……私とあんたとは―――」

「ご明察、なによりです……シェラザード様。 あなたは“今”―――ここで……“この時”“この場所”でいなくなって貰わなくてはなりません、もちろん―――世間的表向き……に、ね!」

「さ・す・が―――ダヨ、グレヴィール……よく私の事を理解できてる……、あんたとつるむのは止められやしない―――愉しめるんだからさあ~!」


すると―――“指鳴り”一つさせると、その場にはマナカクリムへと戻ったはずの“彼ら”の姿が……?

「で……どう言う事なんだ―――そこの侯爵さん……だったっけか―――に、『あなた達の役割は済みましたので、速やかにマナカクリムへとお戻りください』……て、急に言われたのにはまだ判るにしても―――だなぁ……今朝になって出立しようとした間際に確か……『もず』だったっけか?そいつから―――

『戻るの中止やめて~この場所に行ったら、すんげー面白いもん見れるよ?☆』   なんて言われた日にゃ、何がどうなってんだか、サッパリ―――なんだが?」

「どうやら……私達は、このお二人の“壮大な遊戯”に巻き込まれたみたいなのでしゅ。」(ムヒッ)

「“壮大な遊戯”―――って……傍迷惑な。」

「まあそこには“遊戯”などと言う不謹慎な言葉がちりばめられているようですが……今一度、このお二人の“関係性”を見直してみて下さいな。」

「お二人とも―――“幼馴染”にして、“婚約者”でもありますよね?」

「そこは、間違いありません―――しかしこれまでつき合わされてきて少し妙だとは思いませんでしたか?」

「“妙”―――とは?」

「(……)シェラさん―――あなた……グレヴィールさんの事、嫌いではないにしても苦手とされていますよね?」


「ああ~~―――ダ・ヨ、こいつとは昔からよくつるんでいた……だからお互いはらン中で何考えているかくらいには判ってきちゃうもんさ。」

「それ……って―――最初の出奔も……?」

「ああ~~知ってたんだろうさ、けど……王国の実情も知ってた―――“見逃す”ならどっちが自分の得となるか……」

「そこはまあ―――よいとしても、ならば……?苦手とされている方と婚約者の有り続けたのでしょうね?」(ムヒッ)


「フフッ―――フ・フ・フ……いや、さすがは【黒キ魔女】ササラ様―――あなた様がその“環の内わのなか”にいる事を知り、当初は冷や汗モノでしたよ。   よもや私の―――はかりごとが外に洩れはしないものか……と、ね。」


「グレヴィール、今回私の勝ち―――だ、ね。」

「そうですねぇー“着々”と、この日の為にと三度みたびの出奔の計画を進めてきた事、実に“お見事”―――と、しか言う外はありません……そして、私の計画の内―――と、言う事もお伝えしておきましょう……。」


“彼女”と“彼”は、その幼少期から一緒になって悪戯わるさばかりをしていた……この“表現”を少々補足するならば少しばかり分かり易く説明すると、その“悪戯わるさ”を通じて互いの知謀を闘わせていたのです。


或いは協力し―――或いは反目し合うなどして……


そして、いずれかの“はかりごと”が優っているか―――を、明かした時点で……


「さあ―――では、闘争を始めると致しましょう……私達エルフも、“魔族”であると言う証しの為に―――」

「グレヴィール……だとしても、私はあんたを踏み越えて征く―――おやじの事……頼んだわよ。」


優美と思われていたエルフも、所詮は魔族だったか……いくら、どんなはかりごとを巡らせても“闘争”の愉悦は知っている―――侯爵が王女遭難の際、手傷を負っていたのはそうした裏事情が存在していたからなのです。





つづく

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