第73話
その場所は―――かつて、一人の英雄を輩出させた場所『スオウ』。
その場所に、かつての装束を
「じゃ―――行ってくるよ。」
「姉御ォ―――お一人デ?」
「ああ……あいつは今回、置いて行く―――お前達も手を焼くだろうが……」
「リリア―――!どこへ行くと言うのです?!この私を置き去りにして……!」
「今回は、さすがに生きて戻れる保証はない。 そんな場所にお前を連れて行くわけにゃいかない……聞き分けてくれ、ホホヅキ―――」
「何を言うのですか!この私があなたの足手まといだと?」
かつての装束―――
このスオウに籍を置き、現在では滋養満点の料理を供していた“食堂の女将”が、一体何の理由でかつての装束を纏い直したのか……それに【清廉の騎士】は同じくスオウに籍を置いていた【神威】をこの地に置き去りにしようとしていた……
――― 一体何の為に?
「ああ―――足手まといだ。 今回ばかりはお前の生命まで護れる保証はない。」
「見損なわないで下さい……己の身は、己で護ってみせます!」
「聞き分けのない奴だ……いいだろう、この際だ―――判らせてやる……」
突如始まる―――始まってしまう……英雄同士の
かつての仲間内でリーダーを張っていた者に次ぐ
“気”で、“魔力”で練り上げられた“剣”と“盾”により【神威】の身は地に沈みました。
「姉御ぉ―――!」
「“当て身”だ……これでしばらくは目を覚まさんだろう。 目覚めた後とばっちりは喰らうかもしれんが……『無事帰ってくる』と伝えといてくれ。」
けれどそれは、生きてこの地を踏む確率は低い―――であろうことを、見送った
* * * * * * * *
そして一方―――こちらでも……
「ギルドマスター?!」
「私はこれより“元”に戻ります……ヴァーミリオンに拾われる前の“あの頃”に、他人の“生命”を、“財産”を軽んじ、奪い続けてきた―――【盗賊の首魁】としての“あの頃”に!」
「(!?)お気を……確かに―――」
「しかし……ノエル様が―――また一体、なぜ?」
ヒヒイロカネやシェラザード達が所属している『ギルド』……その“マスター”であるノエルもまた、何かの機会をして復帰をしました。
そう……
“差出人”の名前がない、“届け先”の住所氏名だけが書かれてあった、『白紙の手紙』……
けれど二人には、それが誰から差し出されていたかは判っていた―――そして同士であるはずの【
かつての仲間―――その
そして、その異変を知り、“こちら”でも―――……
* * * * * * * *
「シェラザード様、少しお時間をよろしいでしょうか。」
「(……)どうしたの―――ササラ……それに、もう……」
「時間があまり残されていないので、手短にします。」
この時ササラは、既に己に課していた“縛り”を解き放ち、本来の姿へと戻っていました。 そう……成人の、黒豹人としての姿に……
「あなた様にはこれから、我が師に会って頂きます。」
「はい?あんたの師匠―――?そう言えば、確かあんたには……」
「けれど待って?急にそんなことを言われても―――」
「そうだぜ?それにササラ……お前の師匠って、一体何者―――」
「諸々の説明は現地に着いてからでも出来ます。 それでは―――よろしいですね。」
〖転移:ハーヴェリウス〗
その、転移すると言う場所を聞くなり、全員が共有した認識……
そう―――その場所こそは……
「(〖昂魔〗の?“
これまでにも語られてきたように、この
〖神人〗〖聖霊〗〖昂魔〗―――
前者の二つはこれまでにもどことなく語られてきたものでしたが、これまでに話題にすら昇らなかった―――昇ってこなかった〖昂魔〗……
一体、なぜ―――?
「私の師は、その
#73;【
今一つ……これまでにも明確にされてこなかった“
しかも―――
「我が師は、これまでに5000年の
「5000―――!?」
「そう、5000……これまでの、魔界の推移を見てこられた方……その身は決して朽ちる事はなく、師よりも永く生きてこられた方も存在しえない……。
あの『
彼の方には、権力欲も自己顕示欲もない……それはまあ、ある意味では幸いだったのかもしれません。 ですから、そんな事に
『下らぬ―――』
……と。」
この魔界の、誰よりも永く生き―――生きてきたからこそ、あらゆる“欲求”は充たされたからか、それ以上を望まなかった……そう―――“
それは―――……
「慾が無い―――と思われている我が師にも、たった一つだけ臨んだ“慾”があるのです。」
「その“慾”―――って、なに……?」
「シェラザード様、あなたも聞いたことがありませんか、耳にしたことがありませんか、【グリマー】なる存在の事を。」
「グ―――【グリマー】??」
「そうです、そのグリマーなる存在こそが、我が師が“予言”し今代もその存在性をお認めになられたモノ。」
「(え……)じゃあ―――魔王様が、私を“
「今の私が、たった一つだけ確実に言える事……もう、時間は残されていないのです。 正直を申し上げると、まだ猶予は残されているモノとばかり思っていたのですが―――」
「な……何―――?何のことを言っているの?」
「あなた方も見たはずです……この
「(!)―――アレで?!」
「ようやく、事態の深刻さが判って頂いてなによりです。 ですが―――今回襲い来たのは……」
「ちょっと待ちなさいよ!?『今回』……?『今回襲い来た』??一体どこへ??」
「人族の都城……『マジェスティック』―――そこを襲い来たのはその固有名を『ファフニール』と呼ばれている巨大な竜……魔王様はこの事を重く
突如として
しかしこの事態をいち早く察した魔王により応急的な措置が取られ、以前自らが頼った戦力をその戦場に投入していたのです。
つづく
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