第59話
場面は一転し―――“現代”へ…………
魔界の王たる者の居城―――『魔王城』の麓にある城下を訪れたシェラザード達は、またその場所で更なる再会をしたものでした。
「さぁ―――っすが、魔王様のお膝元……って、言うか。」
「マナカクリムやエヴァグリムとはどことなく違いますよね。」
「私の
その時代に生きていたからこそ、“豹変”ぶりが知れてくる……
魔王の変異ぶりにまず戸惑ったのは彼の配下でした。
その変異ぶりを指摘し、諫言してくる者達を排除し、代わって暴虐ぶりが目に付き始めた……
しかしそれを批判すれば『現政権に叛意ある者』として捉えられ、善意ある者、忠臣の類は姿を
{*
しかしそれは、つい先頃までエヴァグリムの国内で
そして、この
「(あれ……?あの後ろ姿、ひよっとして?)」
魔王城の城下を
「あの……ちょっと―――?」
「う~ん? やあ―――君達、こんな処で会うだなんて実に奇遇だねぇ。」
「ミカさん?」
「あの後また“プイ”といなくなったと思ったら……」
「フ・フン―――ボクは“渡り鳥”なのサ。 一つの留まり木ではなくまた別の留まり木を求め、“街”から“町”へと―――人やその出会いが
その“後ろ姿”―――こそ、自分達のクランの古参のメンバーだった『吟遊詩人』のミカでした。
実はこの人物は、以前シェラザード達と顔見せをした後また気の向くままにマナカクリムを離れ、魔界の各所へと渡っていた……ようなのでしたが―――また再会できたことを機会と捉え、現在自分達がここにいる事を述べてみると……
「ふう~~ん、魔王君に用があるのか。」
「(“君”?)ええ―――まあ、そうなんですけど……」
「ミカ殿、私の
「ははは―――あの人とは古くからの知り合いだからねえ~けど、そうだなあ―――久しぶりに生存報告くらいしておかないと、無用な心配をさせちゃうからねぇ☆」
「(……?)ササラ様―――どうかされたのですか?」
「いえ……なんでも―――」
「(やはり……似ている―――この吟遊詩人が醸す雰囲気が、限りなく“あの方”に……)」
再会の喜びを分かち合う仲間達……その
けれど、なにもその“疑い”は、悪いものではなかった―――いや、寧ろ…………
それはそれとして、魔王へ接見する者がまた一人増え……たとて、その足は
そこでやはり最初の関門として待ち受けていたのは……
「“見張り”―――『衛兵』ですな……それも、たった一人で?」
「お前エたち―――なニもの……ダ?」
明らかに、屈強な戦士―――
『黒銅鋼』の鎧を纏い、その頭に二本の角を頂き、“筋肉ダルマ”ではない程度の筋肉をつけ身の丈もヴァーミリオンと同等……
そう、つまりオーガのセンチネル―――しかも“彼女”が手にする武器は長身のオーガの倍以上もあろうかとされる
「久しぶりだな、『テスタロッサ』。」
「ヴァーミリオン……なニよウ―――デ……こコ に?」
「旧知の
「ソの予定……聞いテ―――なイ。」
「ヘレナ―――」
「この“私”が、通行手形代わりだ―――そう言ったら?」
「通ヨう……しナい―――こノ門、固メるは―――ワレの役メ……ワレのやク目、怠慢とナれば……主上ニ危害及ブ。」
「ヤレヤレ―――取り付く島がないったら。」
「テスタロッサ殿、そこをお通し願いたい。」
「【黒キ魔女】―――たとイ、あナた様の願いデ アロう―――とモ……」
「テスタロッサ―――お通しを。」
「『侍従長』……了解―――シタ、通行を許カ……する。」
#59;侍従長
何者にも
しかしながら、テスタロッサなる番兵が先を譲った経緯とは、たった一人の、たったの一言……ノエルやササラと同族であり―――黒豹の耳と尾を持つ、獣人の女性……“
「助かりました、伯母上様。」
「“伯母上”?ああ~~道理で……」
「私も、嬉しいわ……姉上様のお子であるあなたの成長した姿をこうして
「あ~の……ちょっとご質問。」
「はい、なんでしょう。」
「ササラの“伯母上”で―――ノエル様を“姉上”……って、事は―――」
ササラやノエルと同じく、黒豹人族の『侍従長』―――そして彼女達の“伯母”にして“姉”とした者こそは、ノエルの一家で生き残った5人兄妹の“一人”なのでした。
しかしながら、そうした人物が今代の魔王に仕えている―――と、言う事は……
「生き残った私達5人の兄妹は、
あの“5人”―――
ノエルの兄妹達は、あの時点で一番年上のノエルの功績が認められ、魔王の陣営へと就職することが出来ていたのです。
それにこれはシルフィも以前言っていたように、魔王の
それを350年前当時、底辺の種属や身分とは言え魔王の
豹変し、狂ってしまったとは言え、『魔王』―――
何者にも屈さず、侵されざる者……
その“発言”や“一挙手一投足”が、影響を与える存在……
そうした印象を一つとして損ねることなく“
そうした者に、これから
侍従長サリバンの案内で、『王』が坐するべき“間”に、通され―――たはいいのですが。
「あれっ? 誰もいないジャン―――」
「あらあらマアマア―――一体どこへといらっしゃっているのでしょうね?」
「なあ~~ヘレナ―――
「ん~~?ここんところ平和してるもんだから、暇持て余してるだろ?そう思って―――」
「つまり、“していない”―――と、言う事だな、了解した。」
「伯母上様方……あなた方にとっては日常的かも知れませんが、他の者達にとっては……」
「“非”日常的―――と、言うのでしょう?それに、ヘレナの言葉ではありませんが暇を持て余していても“政務”と言うものは回り続けているのです。」
「~ん?それ―――って、もしかして……」
「“政務”に携わってこられた方は、理解も早くて何よりです。 いかにも―――『摂政』と言う“代行行政機関”を置き、それは滞りなく……そして、『摂政』を担当するのも私達の兄妹でありますがゆえに。」
驚くべき新事実として、今代の魔王は直接的には政治を見ていない―――と、言う事が発覚したのです。
が、それは普遍的に対処できるレベルであれば“代行機関”で事足りるだろうとされたからであり、普遍的よりもより高度な判断が必要な場合は、魔王が直接自ら判断する―――そう言う体制を取っていたのです。
ならば―――?
高度な判断が必要とされるとき以外、魔王は一体何をしていた……―――?
……ので、しょうか―――
つづく
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