第60話

その大広間に、本来なら居座るべき『王』がいない―――

するとならば、魔王は現在どこへ? と、言う事となるのですが……

「ふぅむ……どうやら“あそこ”のようだな。」

「ヴァーミリオン様は、お心当たりがあるんですか?」

「では、そちらまでのご案内をお任せしてよろしいでしょうか。」

「うむ、任された―――」

この城の主であり、魔界の王たる人物がしかるべき処に“いない”―――とはしていても、どうやらどこへいるかは見当がついているみたいだった……そうしたことでこれからの案内をヴァーミリオンに一任し、侍従長サリバンは何処かへと去りました。 そして導かれるまま、ついていった場所とは―――魔王城中庭……


しかし、この場所は―――


「ただっぴろぉ~い―――けど、魔王城の規模や外観からしてみたら有り得ない広さだよね?」

「はい……まるでどこかの―――そう、“平原”のような……」

「いえ、正確にはでははありません。」

「えっ? ササ―――ラ……?」

「この場所は、この世界この次元には存在しえない場所……言わば“異次元”を亜空間経由で接続し、こちらの世界と繋げているのです。」

「あ゛~~~ゴメン、何言ってんだかサッパリ……」

「つまり、この場所と言うのはだね、“この世界”なのではなく“別の世界”のモノだ……と、言う事だよ。」

「そんなことが―――可能なのですか……?」

「“可能”もなにも、実際にこの眼で見ているし、この両足はしっかりと大地を捉えている、否定をしたくとも出来るものじゃないよ。」

そう……これまで自分達が“常識”としていたことが軽く崩壊しかけている……そうした“現実”を目の当たりとしてしまうシェラザード達、けれどササラを含めるふるくから魔王を知る者達はその事自体を“常識”と捉えているのです。

それと言うのも……

「ここは―――ね……広大な“実験場”でもあるのさ……。」

「実験場?」

「けれど……こんなにまで、広大な場所を取らなければならないいわれは……」

けれどその問いに、吟遊詩人は答える事はなかった……


「(それにしても広い―――その上、全く人気ひとけを感じない……?)」


シェラザードの頭をよぎる一抹の不安―――“誰”も、“何の生物”もいないような場所で一体“何”の実験を??

そうした疑問もそぞろに、この広大な場所に見えてきた―――


          『小屋』?       『庵』?


「着いたぞ―――見てくれの通りこの建物は『作業小屋』のようなものだ、なのでなかに入るのは制限させてもらう。 “私”と、“王女”……そなたの二人だけだ。」

確かに―――その庵は大人が2人入っただけでも窮屈そのものでした。

だから2人―――ヴァーミリオンとシェラザードのみ……そしてヴァーミリオンに続いてこの庵に入ると……



#60;居眠りの君



何かの作業に没頭し、疲れたのか―――机上に自分の腕を枕代わりにし、眠りこける女性が……

焔の様にえ盛る『熾緋』の長髪―――

頭には、さぞや名のある魔族だと認識できるだけの『立派な角』―――

身体つきもふくよかで、“女性”を意識―――強調させるかのように、丸みを帯びている……


そんな“女性”―――


しかし部屋のなかは雑然としており、所狭しと散らばっている“資料”―――

けれど折角客人が訪れているのだから……と、シェラザードがリアクションを起こそうとすると……

「(え―――……)」

「(―――そっと、しておいてやってくれないか……恐らく貫徹が続いてようやく眠りに落ちたのだろう。)」

その“手”はシェラザードをさえぎり、無闇に『居眠りの君』を起こさないよう―――の、措置が取り計らわれた……


「(この人が……“盟友とも”としてたこと、本当だったんだ、盟約によって結ばれた―――とはしていても心から信じ合えている、心から信じ合えているからこそ、気遣いも自然と出来ている……)」


その有り様ありようは、シェラザードにしてみれば、ちょっぴり羨ましさを感じたものでした。

彼女にも、たった一人だけ心を通じ合えている“悪友よきとも”がいますが、この二人の関係性を見せつけられると少しけてきた……


「(私がもし、苦境に立たされた時“あいつ”は見捨てないよね……?わ、私はもちろん、“あいつ”が苦境に立たされたら、見捨てないよ?けど……なんだか不安になってきちゃったな―――なら、ちょっと揶揄からかうの止めとこうカナ?

それに、“あのヤロー”の目もある事だし……うん、ちょっとここは、大人しくしとこう―――)」


自分と悪友よきともとの“これから”を考え、少し自重しようと心に決めるシェラザード、そうしようとした“動機”も悪友よきともとの関係を考慮した上で……との事もあったのでしたが、実は“もう一つ”の要因も考慮しなくてはならなかったから。

とは言え、まだその事情は、語られるべきではないのですが……

取り敢えずの処、何もしないでいるのも―――なので、庵のなかを片付ける為に散らばっている“資料”の一つに手を―――延ばし…………


――――――た、処…………


「(―――ん?なんだ、これ…………『自律式自動反撃システムの概要』?)」


自然と目に入ってきたその内容に、一瞬手が止まる―――


『自律式自動反撃システム』


まるで―――そう……―――


すると、その資料を手早く片付ける“手”が―――


「あの……―――」

「“コレ”は見なかったことにしてくれ。」

「『見なかったことにしてくれ』……って、“コレ”は―――!??」

「頼む……」


「(『兵器』そのもの?!兵器そのものを、“開発”―――している??魔界の王……である、魔王様が一体何の為に!!?)」


『魔王』が擁する“軍”―――こそ『魔王軍』。

その軍隊は言うまでもなく、魔界の強者達がつどうエリート集団。

魔界のなかでも知れ渡っている“姫将軍”アウラが率いる『飛竜高機動兵団』……ヴァーミリオンの出身であるスオウ擁する『鬼人軍』、精強さを誇る魔界最強の軍隊……

そんな軍が、この上強力な『兵器』を持ちでもしたら……


“力”の均衡は一気に崩れる。


今現在は〖神人〗〖聖霊〗〖昂魔〗の“派閥”が、互いに擦り寄り、擦り合わせ―――

互いを見透かし、見透かされ―――互いを牽制し、牽制され―――無用な争いやいさかいを生じさせてこなかった……なのに―――??

シェラザードに、ある種の不安が―――心配が蔓延はびこってくる……

それと同時に、『魔王』は“怖い”という印象イメージが先行をしてしまう……


「(この人は……恐ろしい人だ―――種属同士ではなく、それらを纏める“派閥”の牙を抜き、弱体化をさせたその上で『独裁』を計ろうとしている……?)」


外見上みかけのうえでは貴婦人の様にも見えた存在……しかし、ある種の不安が付き纏うようになってからと言うものは、シェラザードの目には凶暴な竜が眠っている様に見えて仕方がなかったのです。


だとて―――?


その人の盟友ともは、寝冷えをして風邪に罹患かからないように―――と、その人の肩に布を掛け…………


「―――んっ……ぅう……ん―――」

「起こしてしまったか……」

「うぅ~~……ん? …………ニルか―――」

「そうだ―――」


ついに、その“眠り”から覚醒めざめた『魔王』―――その外見上みかけと、少しだけ覗いて見えてしまった“内面性”―――

一体どちらを信じればいいのか……そして、出会いを果たしたシェラザードの“運命”とは、いかに―――?






つづく

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