第58話

今代の魔王に接見する為―――にと、自らにかけた封を解いた【黒キ魔女】ササラにより、一路シェラザード達はある場所へと転移してきたのでした。


その場所こそは―――


(ゴク~リ)「なんだかんだと言っても、とうとう来ちゃったわね……」

「あれが……魔王城―――あの、ここで合っているんですよ……ね?」

「(?)ええ―――この場所こそが魔界の『中央行政府』であり、『官邸』……つまり魔王の居住でもありますから。」

「けれど……『緋鮮の記憶』では、最終決戦場―――」

「そこは敢えて否定しませんが―――今も昔も変わらず、魔王城この場所こそは魔界の中心であらねばならないのです。」

「どうしてなの?」

「言葉通り……魔王城この場所に魔力・魔素が集中し、魔王城この場所から魔界の各所に均等に分配されている―――からですよ。」

「私にしてみれば、感慨深いものがある……私の盟友ともからの啓示があったとは言え魔界の王に弓引くのだ、今にして思えば正しい結果となったわけだが、もし返り討ちにされた場合、私の盟友ともとて無事には済まなかったろう―――それに、この魔界全体も現在とは違っていたかも知れないな。」


『経験』は、物語る―――

緋鮮の記憶あのお話し』では、華やかな活躍しか描かれはしなかったけれども、事を起こすのには失敗返り討ちも考慮に入れておかなければならなかった……あのお話しは、事実に基づいている―――けれども、何者かの作為により、ほんの少しだけ“創作”の味付けがされ、都合の悪い処はぼかされている―――……

それは決して許された行為ではありませんでしたが、為さねばならない事でもあった―――……


それに、いまだ―――……


彼女達は、『無知』だったからこそ、本来の“敵”が見えていない……

ただそれは、『無知』だったからこそ―――


けれどいにしえの昔、自らが得た“知識”により啓示はなされる。

それは、大多数の住人達には無自覚とされてはいても、進行し―――侵蝕する“病状”に……

まさにこの事が原因で、有り得ない―――あってはならない事態が魔界を包み込んだのです。


それが―――魔王ルベリウスの“豹変”……


そう……有り得ない、あってはならない事とは、不変であるはずの魔界の王が、狂い始めた。

この事を的確に掴んでいた人物により、その当時で話題に上りつつあった者達を召集にかけたよびあつめたのです。



#58;『伝説』と成る刻



ここから少し、過去に遡り……


          ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ニルヴァーナとその仲間達は、ニルヴァーナの紹介もありその人物の庵を訪れていました。

「なあ……ここがそうなのか?」

「“鋼”を“金”に変質かえると言うから、『大工房』を想像していましたが……意外と“こぢんまり”していますね。」

普通ただの“鋼”を“金”に変質かえてしまう『錬金術』―――そうした聞き慣れない『魔法』、或いは『技術』を有する者の居住まいを、聴くだけならさぞかし大層な施設を想像していたのです。

それが……いざ眼にしてみれば、みちよりも程なく外れた処に建つ『ぽつんと一軒家』みたいな庵であった事に、“元”【傭兵団頭領】に“元”【盗賊の首魁】は肩を落とすしかなかったのです。


それはともかくとして―――


「失礼するよ、カルブンクリス―――」

「やあ、君か……注文された品なら仕上がっているよ。」


               んっ?!


「この人が―――そう?」

「そうだが?それが何か……?」

「いや―――(あ゛~~)」

「もっとゴッツイ職人気質かたぎのおっさんを想像していたのですが~~」

「な゛っ―――?!こっ、コラ―――失礼だぞ!」

「あっははは―――正直なことを言うモノだね。」

「済まないな―――」

「別に、気にはしていないよ。 寧ろ君達のご希望に添えず、申し訳ない。」

失礼を言ったにも拘らず、気にすらしていない―――それだけで、この人物の度量・器量の大きさと言うものが知れてくると言うもの……


いや―――それどころか……


「これが―――注文を受けていた品だ。」

「『黄金の胸当て』『黄金の小手』『黄金の腰鎧』に~~……」

「『黄金の軍靴』までありますね……」

「すごい……総て黄金であつらえた装備一式―――」

「しかし……数が少し多いでは?」

「私がこれから“お願い”をすることは、とても君一人だけでは成し遂げることが難しい……君を含めた仲間達の装備一式―――総てを私手ずから揃えさせてもらった。」

「―――私達のも?!」

「けれど―――」

「礼は言わなくていい……その“対価”は、『君達の生命いのち』―――なのだからね。」

「私達に、“死ね”と?」

「そう言っておいた方がいいのかもしれない。 だけど、むざむざと君達の生命いのちは散らせはしない……そうした手解てほどきを加えてあるのだからね。」

「お聞きしましょうか―――内容を……」


家伝来の鋼の剣を、黄金の剣へと変質かえさせた存在……しかし、この人物のもとを訪れた時、かねてより注文をしていた装備を受け取る際、一人分の装備だけではなかった……しかし、ニルヴァーナが仲間を得たと言う情報を、知る手段は無きに等しかったのにならばなせ、この人物は知ることが出来ていたのか……そこを難しく考えても得られるこたえはなかったので、先に進めるとして―――


その人物―――カルブンクリスは、余分に造った装備はこのたびニルヴァーナが新しく得た仲間達へのモノ……

リリアには、ほぼニルヴァーナと似た様式の甲冑一式を与え。(但し材質は“精霊ミスリル銀”)

ホホヅキには、『布都御魂ふつのみたま』と言う“銘刀”一振り―――

ノエルには、敏捷性向上の付与能力が最初から与えられた、膝から下の脚全体を護る『脚装備』

けれどカルブンクリスは、その“対価”としての金額を請求しなかった……請求は、しませんでしたが―――その代わりとして求めたものが『彼女達の生命いのち』……

そして、仲間の一人が口にする―――『私達に、“死ね”と?』

それは、間違いではありませんでした。

とは言え、彼女達の生命いのちを“対価”として求めたとは言え、簡単に彼女達を死なせるような事は講じていなかった―――

そして、その内容が明らかにされる。

それこそが……『今代の魔王を討伐うちたおして欲しい』―――

「また……なぜ―――?」

「質問を、質問で返すようだけれど―――ならば君達は、現状のこの世界に満足をしているのかな?

満足をしていると言うのならば……なぜ意図していない“略奪行為”や“殺人”などが横行している?『飢えた兄妹達の為に』―――『感情を喪失うしなった幼馴染の治療費の為に』―――なぜそうまでして、その身をおとしめなければならない……総てが狂ってしまっているのだ……この魔界せかいの頂点に立ちうるべき『王』が、狂ってしまったばかりに……

だからこそ、是正をしなければならない――だからこそ、たださなければならない―――そこで私は少しばかり知恵を巡らせ、腕に覚えがある者達をおびき寄せる為に『優秀な鍛冶師』の“噂”を流させた……そしてその“可能性”―――『ニルヴァーナ』が、私のもとへと訪れた……

ニル……その鎧の下には、“これ”を着るといい―――『物理攻撃』『魔法攻撃』『精神攻撃』そのいずれにも“耐性”を込めさせた『緋鮮のドレス』―――君のその、情熱的な『緋鮮あか』をモティーフにしたものだ。 そして名も……この時をもって、こう改めるといい……


             【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン


―――と……。」


その人物は、自分達の事をあまねく見てくれていた……

なぜ自分達がこの手を汚し、何の為にと生きてきたかを、知ってくれていた……

際限なくこの手を汚しても得られる結果は少なく、またこの手を汚していくに従い次第に麻痺していく感覚……

自分達の代わりに怒ってくれた……憤慨してくれたことにただ感謝をし、ここに『魔王討伐隊』は結成されたのです。






つづく

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