第57話

「ヘレナ、事前準備は終えさせたぞ。」

「随分と―――かかったもんだねぇ。」

「如何なる場合に於いても、“慣らし”は必要であろう?」

「言えてるけど―――まあ、“大人の事情”とやらは、突っ込まないでおこうかねえ。」

「あれ? あの……『ヘレナ』って、呼ばれていましたけれど、あの“ハラスメント男性”ではありませんよね?」

「ん? ああ~“あいつベサリウス”はここ最近350年前“私”に組み入れたヤツだからね、だから“私”達の主上リアルマスターの為になるよう教育実習してしつけてる最中なのさ。

それに……この私に“老”“若”“男”“女”は関係ない―――元は痩せっぽちだった“私”が主上リアルマスターからの『誓約ちかい』を最初に受け、そこから主上リアルマスターの種属の流儀にのっとり“私”も『そうしてきた』ものなのさ―――その過程で今の“私”は色々な『個性』を有している……その、多彩な個性こそが、“ヘレナ”そのものなのさ。」


『ヘレナ』に関しては、これまでの経緯でも実に様々な“人格”が顔を覗かせてきました。


『威厳ある中年男性』

『実戦で叩き上げてきた武を有する老年男性』

『魅力に溢れ、“たらし”を得意とする成年男性』

『お道化た言動で、周囲を煙に撒く少女』

『活発な言動で、少し“やんちゃ”が見え隠れする若年女性』


そして………………それらの“人格”を束ねる、“主”人格の『ヘレナ』―――


その言動には少し疑問が残る点はありましたが、たった一つの真実―――

今代の魔王の最側近である事……

その『ヘレナ』が、シェラザードの“何”を認め、彼女ヘレナ自身の“主上リアル・マスター”に会わせようとしていたのか……


それとまた、“これから”の便宜を図る為なのか―――


「えっ? わ―――私達も同行を?」

「うむ、多い方が盟友ともも喜んでくれるだろう。」

「(ほあ~)な、なんと言う光栄の至り―――!魔界せかいの王にお目通りが適うとは……!」

「イヤ~~助かったよ、あんた達も来てくれるんダネ~死ぬ時は一緒ナッ!☆」


     「は?」                「い?」


「……ねえシェラ?何故死ぬのが前提なの?」

「そ―――そうですよ!魔王様にお認めになられたと言う事は、この世界の中央行政にたずさわれると言う事なのですよ?それは言わば、庶民である私達にとっては花形の職場でもあると同じ事。」

「なあ……シルフィ君、それってな軽微なミスやらかしでも『首ちょんぱ』もんだぞ?」

「へっ―――?」

「だってさぁ~~考えても見なよ、誇大な期待をかけられていざ魔王様のもとで働かせてもらえたとしよう……そこでだよ、魔界の隅々まで知っておかなくちゃならない事を、自分の“軽微なミスやらかし”のお蔭で大事おおごとになることだってあるんだよ?」

「シェラ……あなた―――優れた政治家の様な事を言っているように聞こえるんだけれど?」

「あんた……私に喧嘩売ってんのか?私ゃこう見えても『王女』なんだよ?手前ェ~の職務放棄して王としての仕事をしないで私のスカートの裾ばかり踏んづけてきた監視(ストーカー)ばかりしてたおやじの仕事を~~一手に引き受けてこされられてきたんだよ~~? 嫌でも判る―――……[ヌ゛ガア゛ア゛ア゛~~!なんだか思い出して来たら、腹立ってきたヲ゛!!](エルフ語)


「(王女あなたも……色々あったのね―――)」

「(そのようで……今度からは言動に気を付けましょうね。)」


シェラザードが『王女』として王国の城に囚われていた時、城から出奔するまでやらされていた事とは父であるセシル王の『代理』でした。

まだ滅んでいないものの、シェラザードが“粛清”するまでは、王と言う存在は“連中”の欲望・欲求の『代弁者アナウンサー』でしかなかった……それでも王国が傾かなかったのは、その中でも王女シェラザードが出来得る限りの施策をしてくれていたから―――つまり『王女』と言う存在は、“治政”の一翼を担ってもいたのです。

そうした事をやってきたからこそ、判っていた事―――王女だった時には一国……自分の国のことを気にかけておけば済んでいた話しでしたが、魔王の職場ともなれば、この魔界の中央行政府のようなもの―――魔界全土にわたる様々な『国家間』との均衡を保つようにしていかなければならない…… それを、『一国』と言う自国単位の“軽微なミスやらかし”で捉えていては、それが火種引き金となり大規模な紛争になり兼ねない危険を示唆したモノだったのです。


……と、知られざるシェラザードの一面が知れた処で―――

知れた処で――――


「さて―――と……それでは色々“押し”ていますので、早速参りましょう。」(ムヒ)

「ササラ……あんたってば、本当に淡泊だわね。 それに私の様に変に緊張しないだなんて……もしかして魔王様の事を知ってるの?」

「ええ、まあ……私の“師”に師事していた時に、二・三度。」(ムヒ)

「(はー)あんたの“師匠”……どんな人なの?」

「まあ、それは追々いずれ―――それでは、今代に接見するに際し“少女”の姿のままでは失礼に当たろうと言うもの……ですので、これから“封”を解かせて頂きます―――」


              ≪位相変転≫



#57;“少女”から“大人”へ



【黒キ魔女】ササラは、自身の事を仲間である彼ら彼女にこう伝えていました。


『私これでも200年以上生きていますよ?』


【黒キ魔女】ササラは、現在220年の時を紡ぐる。

長命種であり170年前後を生きているエルフ―――シェラザードやシルフィよりも、50歳も年上……



その容姿は“少女”のままだった―――


その疑問に指摘は、かなり以前からされてはいたのですが、それまでにもササラ自身よりの説明はなされなかった……


『百聞は一見に


『言葉』を操るに際してはるいを見ないササラ自身の“師”より、言いつかせられてきた事……


そう……ササラは、本来は―――


自身にかけた封を解くためにと、言の葉ことのはに魂を乗せ『言霊ことだま』とする……すると、幾重にも張った魔法陣が展開し、徐々に“少女”の皮が剥ぎ取られる姿が変わる……身体つきは“少女”から“大人”へと変遷かわり、容貌かおつきもあどけなさが消え利発的なモノへと変遷かわる……

その声質も、幼さが消え少しばかり低く落ち着きのある音色いろへと移ろいゆく。


しかして、そう……これこそが―――


「(!)サ―――サラ……なのよ、ねえ?」

「でも、それが―――……」

「本来の【黒キ魔女あなた様】……」


「はい―――この姿こそが、220年の時を紡いできた“私”です。」


「すっかりと大人だな。」

「いえ―――“師”からの御言葉を借りれば、『お前はまだまだ子供だ』と―――」

“少女”から“大人”へと姿を変遷かえた仲間を見て、彼女の母親であるノエルと並んだらきっと親子ではなく姉妹だと言われても違和はないだろう……

そう評する者もいたのではありましたが―――何もササラが大人へと変じたのはそれなりの理由があったのです。


それは―――


「(ん~~?)ちょっと待ってよ?ササラが本来の姿に戻った―――てことは……」

「まあ、接見をするのに際し、さすがに“偽りの姿”のままではまずかろう。」

「(~~~)てことは……やっぱキビシー人なんじゃん??」

「最低限の礼節と言うものですよ。 そこさえ間違わなければ気にするような処ではありません。」


「(うん……それ―――ビミョーなフラグなんだよな~)」


『知らない』からこそ、現在得ている情報のみで第一印象イメージと言うものは形成され、増幅される……今まで“少女”であったはずの仲間が、本来の姿を見せたことで尚一層『怖い人』の第一印象イメージばかりが先行してしまう。


けれどしかし―――


この後、シェラザード達が体感してしまうモノとは“それら”を払拭させてしまうものなのでした。






つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る